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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
VRMMOの支援職人

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初日の攻防 その6

 この『ルクス・オブ・サーラ』というスキル。

 ここまで育てるには、紆余曲折うよきょくせつがあった。

 まず『徳を積む』にあたって、どんな方法から手をつけたかというと。


「サーラ住民の好感度上げからか」

「基本だな!」


 スキル育ての際は、ギルドのみんなが手伝ってくれた。

 住民全体の好感度に関してはユーミルが。

 やり方としては、主に街歩きをしている際に……。


「大丈夫かぁぁぁ! 荷物を持つぞ! 肩も揉むか!?」


 ユーミルは老人を中心に親切の押し売りを。

 俺は商店街で買い物をしつつ、子どもたちに……。


「子どもたちー」

「わーい! お菓子のおじさんだぁ!」

「おじさん、今日は飴なの?」

「お兄さんな?」


 飴を配って歩く。

 飴配りおじ……お兄さんである。


「どうだ!?」


 しばらく時間が経ってから、ユーミルと合流。

 ちなみにPT状態ならば『徳を積む』行為は合算されることを検証済みだ。

 ユーミルにかされ、継承スキルの情報欄を確認すると……。


「ジワ伸び」

「ジワ伸びかぁぁぁ!!」


 このスキルにだけ付いている『徳メーター』が少しだけ右に伸びていた。

 右に伸びていって満タンになると、一段階成長する。

 ――と、このように。一般住民相手でも効果はあるが、微増。

 好感度稼ぎが徳に繋がるというのも、大きく間違っていないはず。

 悪人の好感度だけは別だろうけれども。

 こうなると、やはり次に考えるのは……。


「ネームドの好感度上げ」

「そうでしょうね。一番効果が高そうです」


 次に手伝ってくれたのは、リィズである。

 住民の多くを構成するのは、ゲーム的に見て名もない人々ではあるが。

 システム上、重要なのは特殊な役割や役職を与えられている者たちだろうということで。


「王宮の御用聞きにでも行くとすっか」

「アルボルさんに湿布でも届けましょうか?」


 国家要人に対し、全力で胡麻ごまりに向かった。

 各人の性格や好みは把握できているので、そこまで難易度は高くないはず。

 ――そして数十分後。


「……効果はあったけど、頭打ちも早そう」

「サーラの要人とは、既に大体知り合いですしね……」


 そう思っていたのだが、やってみると案外簡単ではなかった。


「まずスムーズに会えるかどうか微妙なのが」


 要人は忙しい。

 会えるかどうかは運次第。

 女王陛下の相談役・アルボルさんは老体を押しての出張中、女王陛下も地方を視察中。

 会えたのはミレス団長以下、王都を預かり留守番している戦士団の面々くらいのものだった。

 ……よく考えてみれば、普段から女王様に粘着密着しているスピーナさんたちの覚えが目出度めでたくないのだ。

 しつこく会いにいけばいいというものでもないのだろう。


「ティオ殿下くらいですね。アポイントメントなしですぐに、いつでも会えるのは」

「あの子は戦士団所属だけれども。実質的には役職なしだからな……」


 ティオ殿下は寂しがり屋なので、行けば行っただけ、ツンツンした後で喜ぶのだが。

 ティオ殿下の好感度ばかり上げてもな……というところもある。

 一応、継承スキルの出所でどころでありながら、彼女から稼いだ好感度(徳)も有効ではあるようなのだが。

 こうなると、他に有効だと思える手段はひとつ。


「クエスト! クエスト! クエストやろうぜ! ハインド殿!」

「……おう」


 サーラにあるクエストを片っ端からこなそうよ、というもの。

 至極単純。

 これには妙にハイなトビが参加してくれた。

 ただ、真っ先に思いつきそうなクエスト行脚あんぎゃを避けていた理由はいくつかある。


「範囲が広い」

「サーラ全域でござるな!」

「そして報酬がマズい……」

「売れ残りのクエストばかりでござるから!」


 若干とはいえ、効率というロジックに脳の一部を支配されている俺には辛い内容ばかりだ。

 そもそも、『ルクス・オブ・サーラ』というスキルを育てることは効率的か? という話にもなるので……。

 そこは置くにしても。

 トビに連れられてきた、王都広場の掲示板前で溜め息を吐く。


「個人の依頼が少ねえ」


 治安維持のためのモンスター討伐、盗賊退治などは常に出ているものだ。

 サーラ特産のサーラ布を織るための素材採取、これも常設。

 常設、常設、常設……こんなんで好感度稼ぎが、もとい徳が積めるのか?


「常設クエストでないものは、基本的に奪い合いでござる!」

「TBの独自システムが悪いな、うん」


 ゲーム内情勢が流動的に変化していくシステムのせいで、重要クエストは全プレイヤー共通で一度しか発行されない。

 これによりネームドのクエストは常に奪い合い。

 また、クエスト達成後に名無しからネームドに昇格するNPCもいるためか、そちらに望みを賭けての風変わりなクエストも取られがち。

 つまり、掲示板には実質なーんにも貼られていない。


「既プレイヤーでも受諾・達成が厳しいのに……初心者に優しくないよな、このシステム」

「やり方次第でござるが、クラリス殿のように他地域から流れてくる移民などもいるらしいでござるよ。ご新規さん限定で接触可!」

「へえ。ちゃんと新規プレイヤーにしか築けないコミュニティもあるのか」


 知らなかったゲーム知識をトビから教わりつつ、適当に素材採取クエストを選択。

 なんだかんだと文句は言ったが、クエストを一切やらなくても支障がないゲームデザインではある。


「あれ、それでいいのでござるか? 王都近郊の素材採取?」

「ああ。ひとまず簡単な共用クエでも徳が積めるかどうか確認せんと」

「そりゃそうでござるな。いざ?」

「おう。悪いけど、お供を頼むな」


 そんな会話をして、トビとフィールドへと出た。

 ――結果はまたも微増だった。

 常設・共用クエストで増えただけマシではあったが、飴ばら撒きの十分の一も増えていない。

 これはよくない。


「微増、微増、微増……このままじゃ、サ終までに実用スキルになるかどうかわかりゃしない」

「そうだね」


 このままではMP大量消費の上に小回復という、微妙スキルのまま塩漬けになってしまう。

 徳なんて意識せず、普通にプレイしていたらいつの間にか成長していた……なんて展開も望めなくはないだろうが。

 せっかくのユニークスキルなので、早期にものにしたい。

 最後はセレーネさんに手伝ってもらい……。


「もうこの際、ゲームらしい理屈は全て捨てます」

「ええと、その心は?」


 四度目の正直として、俺とセレーネさんは王都の街中へと繰り出していた。

 一応、最後も行動指針というか、考えていることはある。


「心といいますか、下心が透けて見えると言われまして」

「誰にかな?」


 その言葉は青天の霹靂へきれき、寝耳に水だった。

 というか、油断しきっていたところに投げかけられたせいか、かなりグサッときた。

 これを俺に対してぶつけてきたのは……。


「……下町のシンディちゃんに」

「ああ、あの背伸びした感じの……」

「ええ。こまっしゃくれた子です」


 声には出さないが、マセガキともいう。

 ユーミルを敵視し、仲間意識でもあるのかリィズには馴れ馴れしく、セレーネさんには普通に接する。

 俺のことは呼び捨てで、トビは舐められている。

 大人のお化粧やファッションに興味津々で、口癖は「早く大人になりたい」――そんな、砂漠の街に住む庶民のお子さまである。

 一応、将来美人になりそうな容姿ではあるが。


「邪心が見えるわ、お菓子の味が落ちたわね! とか。なんかハインド、気持ち悪い……とまで言われましてね。子どもは正直でキツイや……」

「あはははは……」


 気が強く、下町の子どもたちの女ボスということで、来訪者プレイヤー相手だろうとグサグサ刺してくる。

 彼女には、俺が純粋な好意で接していないことを見透かされてしまった。


「で、いっそ徳を積むという言葉を素直に受け止めてみようと思いまして」

「サーラの人たちの好感度稼ぎでなく、ってことだね?」


 そう、純粋に徳を積みにいく。

 そもそも徳とはなんだろうか?

 俗人・凡人の自分には、善行をなすことという意味以外に汲み取ることができなかった。

 だから邪心なく、見返りを求めず……は、完全には難しそうだが。

 できる限り欲を出さず、誰かのためになりそうなことをすればいいのでは?

 そんな結論。


「俺は神官なので、治療院を回ったりはしていたのですが」

「ティオ殿下もやっていそうなことだね」

「そういうのとは別に、街中のゴミが増え気味なのが前から気になっていまして」


 で、善行といえば単純に、現実世界でボランティアに当たるような行動が思い浮かんだわけで。

 炊き出し、植樹、交通誘導とか、色々とあるわけだが。


「それでこの……お掃除セットなんだね?」


 その中のひとつが清掃活動だ。

 特に野外の共有スペースは、管理者や業者が手を入れない限り積極的に掃除されることはまれである。

 場所によっては汚れっぱなしだ。


「ええ。現実の俺は生徒会副会長であり、美化委員でもあります」

「うん、知ってる。ついでにお屋敷の清掃バイトさんでもあるよね」


 考えてみれば掃除ばかりしているのか。

 変だろうか?

 しかし目の前のセレーネさんは呆れるどころか、微笑ほほえましそうにまぶしそうにこちらを見ているので、気にしないことにする。


「結局、慣れていて得意な行動かつ徳が積めそうということで。掃除をしようかと」

「とってもいいことだと思う」


 正直、大分ズレているというか的外れな行動な気はしていたのだが。

 セレーネさんがめてくれたので、このまま突き進むことにした。

 ふたりで街中清掃を開始する。

 幸い、セレーネさんが気にしそうな他人の目はあまりない。

 早速、作業に取り掛かる。

 最初は落ちているゴミをサクサクと拾ってしまおう。

 紙が安く流通するようになったせいか、ボロボロになった包み紙なんかが転がっている。


「すみません、セレーネさんをこんなことに巻き込んで。でも、大体のゲーム的にプラスになりそうな行動は試し終わった後でして」

「ううん。私も掃除は嫌いじゃないし、それに……街中にゴミが増えたせい? それともゴミが増えた原因なのかな? なんだか、王都でガラの悪い人たちをよく見るようになった気がして……」


 そういや、レッドネームやオレンジネーム……。

 雑踏でPK履歴のある名前の表示を見かける機会が、以前より増えているような気はしたな。

 城壁があって門兵もいるのに、どうやって王都に潜り込んでいるのだろう?

 もちろんセレーネさんが言う通り、街の汚れも増えており……。

 時間経過で消えないんだよな、TB世界の街の汚れや落書きって。


「――話は聞かせてもらった!!」

「ひっ」


 壁に書かれた落書きを洗って落としていると、壁の向こうから三匹の猛犬が顔を出した。

 続いて、犬の顔の下から出てきたのは……なんと人間の体。


「なんだ、ジャッカルさんたちじゃないですか」


 ギルド『アヌビス』のジャッカルさん、コヨーテさん、リカオンさんの三人だ。

 セレーネさんの悲鳴は人見知りと彼らの見た目、その両方が原因で発せられたものだ。

 実際、子どもが見たら泣きそうな迫力はある。

 全員、半裸の身体の部分が細マッチョだし……夜道で会いたくないタイプ。


「街中のゴミ――主に人間のほうの処理は俺たちに!」

「任せて!」

「もらおうじゃないか!」

「……」


 随分な言い様だが、彼らはPKK……つまり。

 賞金首を狩る賞金稼ぎの活動もしている、正義の犬人間なのである。

 決して大言壮語ではなく、実績も充分にある。


「つきましては、そのー……セレーネ氏」

「は、ひゃい!」


 しかして、わざわざそれを言いに来た理由は。


「ちょっとだけでいいので、我々の装備依頼の優先権をですね……上げていただけると、そのぉ」


 セレーネさんに依頼した装備を早く仕上げてほしいと、そういうことらしい。

 俺が菓子を配ったときのような下心はアレだが、こういうけな態度はかえって清々(すがすが)しく感じられる。


「い、いいですよ」

「本当ですか!?」

「さすがぁ!」

「セッちゃん氏最高!」


 セレーネさんも同じように思ったらしく、アヌビストリオの提案を承諾。

 新たに三名がゴミ掃除(人間側)に加わってくれることになった。

 ……いいのか、これは?


「よーしよし、今日はいい日だ! ハインドォ!」

「あ、はい」


 すっかり部外者の顔をしていたら、急に名前を呼ばれた。

 ジャッカルさんたちは、俺たちがゴシゴシとこすっている壁をながめると……。


「あっちのほうの掃除が済んだら、俺たちも壁の掃除を手伝う! 俺たち、王都ワーハの景色に惚れて、グラドから移住してきたんだ!」

「街の石壁に落書きするやつは許さん!」

「しかもなんだこのスプレーアート! センスねえ! 百歩譲って、街の景観に馴染むやつなら許すけど! これはダメ! ない! 全然ダメ! う〇ち!」


 嘘偽りのない本物の怒りを見せたのだった。

 リカオンさんの最後の一言は聞かなかったことにするとして。

 そうか、王都の景色が好きか。


「ふふ」

「ははは。よろしくお願いします」


 どうやら徹底的に掃除を手伝ってくれるようだ。

 俺とセレーネさんは笑みを交わし合うと、ジャッカルさんたちにもそのまま笑みを向けた。


「おう! 任された!」


 そんな形で、王都全体の美化作戦を行った結果……。

 ジャッカルさんたち『アヌビス』の協力もあり、数日経つと、王都ワーハにある他のギルドからも参加者が増えに増え。

 最終的には王都に潜んでいたブラックギルドの壊滅まで話がふくらみ、俺のスキルが――という表現は不適当だな。

 王都の治安が大幅に向上し、その副産物おまけとして『ルクス・オブ・サーラ』が大きく成長することにも繋がった。

 ちなみにその後も「ゲーム内での美化活動」という、効率から程遠い行為は個人で続けている。

 なんだろう、こう……砂との戦いというか共存というか、砂漠における清掃活動は独特の味があるのだ。癖になる。スキルの成長度合いも悪くないし。

 そして話は現在に戻り――。

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本体に子供が直球で「下心が透けて見える」はなー 優秀なAINPC怖いな 多分想像以上にへこむやろw 取りあえず取り繕って にこやかにその場を去って物陰で失意体前屈だな! 慰め役は今回の相棒のせっちゃん…
徳を積むという行為についてですが、一般NPCに対しては、「親切の押し売り」って善行なのかと疑問に思い、「ユーミルの暴走の仕方によってはマイナスになるのでは?」と思い、有名NPCに対しては、下心満載な気…
ジャッカルさんらおもしろかっこいいな そしてゲーム的にはNPC(住民全員名前あるからネームドではある)の子供に刺される心への一撃…草
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