強欲な世界-4
現実世界の下水道は、生身で通れば正体不明の病原体に感染するほどに汚かった。
臭いも酷い。
だがこの世界の下水は、その下水的特徴が一切なかった。
菌に関してはわからないが、僕の直感が大丈夫だと囁いていた。
中はトンネルのようになっていて、足場の中央に大きな音を立てて水が流れて川のようになっている。
そしてその両脇に沿って今歩いている足場があった。足場には一定間隔で無駄に豪華な宝石装飾されたランプが街灯のように立てられていた。
足場から足場へ飛び移るのは僕以外不可能だろう。川幅が大きいのもあるが、第一足場が狭く十分な助走を取ることが出来ない。
今は街中と同じようにアオをコートの中に隠し、クロをお姫様抱っこして移動している。
物凄い歩き辛い。
でも不思議と腕が疲れるようなことはなかった。
僕は直感で歩いている。
正確にはドス黒い靄の見える方へ。
上空に飛んだ時にもこの街に王宮のようなものは見えなかった。だとすると考えられるのは二つ。
地下に王宮を作り上げている、または遠くから視認出来ない魔法やそういう物質の存在。
どちらかは僕には判断出来ないが、元凶共がどこにいるかはなんとなくわかるみたいだ。
アオとクロを連れて行かざるを得ないのは少し不安だけど......
.............不安?
不安ってなんだ?
なんだかゆっくりと意識を遠のかせようとする鈍い頭痛が僕を襲った。
不安ってなんだ?
意味不明だが確かに脳裏に思い浮かんだ言葉。
今の僕にそれを知る由はなかった。
不意に頬を強く叩かれた衝撃で意識がハッキリと戻った。
ビックリして腕の中の少女を見ると震えながらもこちらを強く睨んでいた。
そして無言で「降ろせ降ろせ」と暴れ始めた。
「落ちる落ちる!降ろすから待って待って!暴れないで!」
危うく川に落下させそうになった。
クロを降ろすと即座に僕から離れた。そして何か武器を探すようにキョロキョロと辺りを見渡す。
が、すぐにお腹を抱えて蹲ってしまった。あの貴族共にやられた傷が痛むのだろう。
するとアオは慌ただしくコート捲ってクロの側へと駆け寄る。
クロは心底驚いたように眼を見開いた後、緊張が解れたのか傷が痛いのか、眼に大粒の涙を浮かべながら駆け寄るアオに抱き付いた。
アオも全く同じだった。
アオに身振り手振りで僕のことを説明してもらい、多少の信用を得るまでに30分はかかった。
一切盛っていない。その間、一切その場から移動していない。悠長か。
クロは何語か全くわからない言葉を話していたが、アオが何も喋らないことに不信感を抱いた。
そしてアオが喉の傷を見せて、更に耳を指差した後に「聞こえません」と腕でバッテン印を作ると、何故か僕が思いっきり睨まれた。
30分かけてようやく僕がやったという疑いを晴らすことが出来たのだ。今は僕の目の前を手を繋ぎながら二人で仲良く歩いている。
この二人は姉妹だ。
クロがしっかり者で妹思いで強気なお姉ちゃん。
アオが臆病だけどお姉ちゃんが大好きな妹らしい。
二人の会話を見ていたらよくわかった。僕はそんな二人の後ろ姿を見ながら、思わず笑顔になっていた。
しばらく歩くとトンネルの色が変わった。
茶褐色のコンクリートのような色をしていた壁面は一面黄金色となっている。
黄金色っていうかもうこれ黄金でしょ......
金属特有の光沢を放つその異様なトンネルは長々と奥に繋がっている。
ハッとしてアオとクロを見ると、二人とも黄金に釘付けになっていた。病院での洗脳、もしかしたら二人もと思ったがそれは正しかったようだ。
自然と眼が虚ろになって黄金の壁へと擦り寄って行く。
僕はそんな二人の頭を後ろから拳で軽く叩いた。
アオは眼にうっすらと涙を浮かべ、クロはキッとこちらを睨んだ。そんな二人のことを僕はそっと抱き締める。
「お金が全てじゃないんだよ。君達が一番大切なものはなんだい?」
言語は違えど言葉の意味は伝わるのか。
小さな可愛い姉妹は、それぞれお互いのことを指差していた。
それぞれが照れくさそうな笑顔だった。




