初めての世界
喧騒。
門を通り抜けるとそこは大きな噴水のある広間だった。
広間からは無数に道が延びており、そこからこの街が、入りくんでいて複雑な地形をしていることが推測出来るだろう。
道の行く先々には様々な種類の店が立ち並び、それぞれの店主達は我こそがより多くの品物を売ろうと熱く叫び集客していた。
中には叫びすぎて噎せ返っていたり、熱すぎて逆にお客が退いているような店もあった。
そんな中、青年は非常に困惑していた。
どうしよう、何をすれば良いんだろう。
とりあえず入った街の広間で僕は立ち往生している。
あっちでは子ども達が元気よく噴水の周りで走り回ってる。
また他方ではその子どものママ軍団が世間話でもしている。
そのうちの一人と目が合ってしまい慌てて目を反らした。
僕の今の格好は中々に酷いものかもしれない。
思わず目線を自らの服へと落とした。
脛までしかない七分丈のダボッとした茶色のズボンと少し大きめの黒い長袖Tシャツ、そしてその上にパーカーを羽織っている。
それにパーカーには背中部分に大きく擦ったようなダメージが見られる。
見た目からしてこじきと思われても仕方ないんじゃないかな。
ふと、視線を感じる。
さっき目が合った奥様が僕の身なりを見てそれを周りのママ達に言ったみたいだ。
なんとなくその視線が嫌だったから僕は宛もなく移動した。
夕方。
僕は誰も見ていないことを確認してから飛んだ。
一番高いマンションの屋上へ直接。
そこに誰かいた場合はしょうがないと思っていたが運よく誰もいなかった。
この世界はそこまで夜が寒くない。
季節が夏のようなものだから、とかそういう理由は一切わからないけど。
屋上から街を見下ろすと人が蟻のように蠢いていてどこか鳥肌が立つ。
誰一人立ち止まることなく人の流れは止まらない。
僕は服以外何も持っていないようで、お金もなかったから何も買えなかった。
だけど特に何も思わなかった。
そう言えば奇妙だ。
僕は既に数日何も食べていないし何も飲んでいない。
,,,,,,いや、少し湖の水を飲んだかもしれないけど。
だとしてもそれだけだ。
なのに空腹の兆しは見えない。
貧血や脱水症状による目眩や吐き気を催すこともなかった。
なんでだろう。
僕は自分の手を見る。
見た瞬間ならば骨と勘違いするのではないかというくらい白く細い。
きっと顔もこの色なんだろう。
すれ違う人々がやたら顔を覗き込んでくるからそうなんだろう。
仮面でも買おうかな,,,,,,あ、お金ないや。
お金はないけどそっと借りるなら大丈夫かなぁ。
実は、彼は街を探索している最中に、空間移動能力の発展系らしき力を見つけてた。
"自ら"ではなく"他の物体"を手元に引き寄せる力。
念動力とは違って、視界に入っている物を、瞬間的に手の上に移動させる力。
移動過程は目視出来ない。
店で目に入った猫のストラップを欲しいと思ったら手元に現れたのだ。
「落ちてましたよ。」と言って彼はそれを店に返していたが。
その時に試していたが、どうやら手の上の物をどこかへ置くことは出来ないらしい。
ため息をつきながら僕は屋上のアスファルトに大の字で横になる。
天空を見つめながら僕は目を瞑った。
ここまで僕の跡をつけてきている何者かの動きに注意を傾けながら。