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いちみる  作者: 蛍灯 もゆる
一章
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天を怨みず



「ただいまー」

「ただいま」


空が暗くなって暫くしてからそろって帰ってきた双子は、いろいろと荷物を抱えていた。


「お帰りなさい。叶ちゃん。奏ちゃん」

「遅くなってごめんね、心。すぐ支度手伝うわ」


言葉通り速攻で着替えをして戻ってきた叶慧は、無造作にひらひらと手を振る。


「こっちはあたしがやるから、上にいる奏の片付け手伝ってきてちょうだい」

「は?」

「良いから。晩御飯の準備ができるまでには終わらせてよね」


意味が解らないままにその言葉に押し出されるように、部屋を出る。

灯りの消えたままの廊下を進んで突き当りの階段を仰ぐと、暗い奥に光が見えた。


『どうして、』


聴こえない声が耳元に纏わりつく。

反射的に握りしめた手を、閉じかけた瞳を、振り払うように一段目に足をのせた。

もう此処は、違う場所なのに。

まだあの言葉が、


「いちみる? 危ないよ」


不思議そうに振ってきた言葉と唐突な灯りとが、硬直を解いた。


「電気のスイッチ、解らなかった?」

「いや、その」


穏やかな奏慧の視線に居心地の悪さを感じながら階段を上がると、5つのドアと開け放たれた一つの部屋が目に入る。


「片付けって、」


それは、落ち着いた色のフローリングに、家具はベッドとデスク、それから壁づけのクローゼットがあるだけのシンプルな部屋。

カーテンは、少し柄のある薄い青色をして、開け放たれた扉の横に、先ほど双子が抱えてきた荷物が置いてあった。

違和感を覚えて、それから理由に気づく。

その部屋は妙に空虚だった。

生活感が何もない。


「誰の、」

「いちみるの部屋だから、好きに使って。日用品だけ取り敢えず買ってきたけど、足りないものがあったら」

「は? 何言って」

「今は誰も使ってない。この家にいる間は、使って」

「ふざけるな!」


言葉を遮るように扉を叩けば、思いの他それは大きく響いて、部屋の空虚さを増長させる。

奏慧は驚いた様子もなく、ただ静かに肩を竦めた。


「扉の修理は、君が思うよりお金がかかる。君の部屋とはいえ、あまり乱暴に扱うのは感心しないよ」

「ふざけるな。どういうつもりだ」

「どういう?」


僅かに寄せられた眉根は、不機嫌を逆なでするのに十分。


「見ず知らずの他人を家に上げて、何の詮索もせずに部屋まで用意して。馬鹿なんじゃないか!?」

「君は、詮索してほしいの?」


呆れるほど静かに告げられた言葉に、思わず口を噤んだ。




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