山椒は小粒でも
「詐欺だ」
まさか大学生だとは思いもしなかった。
呟きを聞きとめて、心が不満げに唇を尖らせる。
「詐欺じゃないもん」
「詐欺だ。どう見てもあいつらの方が上だろう」
「人を見た目で判断しちゃダメなんだよ」
つんと顔を背けた心に、ため息をついた。
これの何処が大学生だというのだろう。
クラスメイトの女子の方がまだ。
そう考えて、一瞬顔を歪めた。
こんなことを考えるつもりはなかったのに。
「その物言い。高校生に決定!」
それを見破られたわけでもないだろうが、ぴたりと目の前に突き付けられた指に狼狽える前に、心が笑う。
「じゃあ、失礼な物言いのお詫びに、買い物付き合ってもらおうっと」
「は?」
「じゃあ10時に出かけるからね」
「おい待て」
さっさと部屋を出ていく心に慌てて声をかけると、ドアの向こうから先ほどとは違う様子で静かな声が空気を伝わった。
「大丈夫だよ。心と歩いてれば、大学生に見えるから」
「そういう問題じゃない」
うんざりしたように呟くと、どさりとソファに座り直す。
会いたくない人間が山のようにいて、逢いたい人間がいないのだから、外出なんてする意味がない。
唯一の救いなのは、学生は学校で、通勤時間もとうに過ぎていることくらいだ。
そこまで考えて、ふと気づく。
高校生だと決めつけたくせに、心は「学校は?」とは一言も言わなかった。
「あら、心ちゃん。おはよう。これから、買い物?良かったら帰りにミニトマト持って帰って」
「おはようございます。わぁ、ありがとうございます。山本さんのトマト、甘くておいしいから大好きです」
「よう、心ちゃん」
「おはようございます、高橋さん。タロウ君もおはよう」
わんと吠えた犬に心はひらひらと手を振る。
結局、スーパーに着くまでに何人もの顔見知りに声をかけられたが、特に怪しまれることもなく通り過ぎた。
誰も彼もが親しげに心に声をかけ、心の方も気負った様子もなく笑う。
それを眺めながら、何処か不思議な気分になった。
それが何かを考える前に、心の声が耳に届く。
「きいてる?」
「別に」
「食べたいものとか、好きな食べ物ある?」
単純な問いなのに、言葉に詰まった。
気付かなかったのかどうか、心はそれ以上深く追求せずに買い物カゴを手に取って歩き出す。
「あったら教えてね。まずは野菜コーナーにれっつごー」




