エピローグ
翌日、幸はいつものように進学校に通い、授業を受けていた。
左手に包帯を巻き、額や頬に絆創膏を貼った痛々しい姿をしてるのに誰も彼を心配しない。むしろ陰キャが厨二っぽいことして注目を集めてるって陰口を叩いて笑っていた。
そんな幸を海凪だけが黒真珠のような目を不安げに顰めて見ている。
昼休み……。
幸は、ガサゴソと自分のスクールバッグの中を探る。
そんな幸の様子を隣の席に座る海凪は、黒真珠のような目を細めて見ていた。
「今度は何を隠されたの?」
海凪は、嘆息混じりに言う。
「お弁当」
幸は、困ったようにヘラっと笑う。
「早起きして作ったのに困ったなあ」
そう言ってヘラっと笑いながら頭を掻く。
「何でそんな大きな物隠されて今の今まで気付かないのよ?」
海凪は、大きくため息を吐き、幸の弁当を隠したであろうクラスメイト達を睨みつける。
購買で買ったパンを齧りながら楽しそうに幸を見ていたクラスメイト達は生徒会長に睨まれるとそそくさと身を縮めて視線を反らす。
海凪は、イラッとしたら立ち上がろうとする。
「大丈夫だよ。皆月さん」
幸は、海凪のブレザーの裾を引っ張って制する。
「昨日も言ったけど事を荒げないで。君が動くと……」
しかし、海凪は幸の静止を振り切った。
そして黒真珠のような目を怒らせ、クラスメイト達に近寄る。
「船頭くんのお弁当はどこ⁉︎」
生徒会長が乗り込んできたことにクラスメイト達は顔を引き攣らせて動揺する。
しかし、それも束の間のこと。クラスメイト達は後ろめたさを引っ込めて生徒会長を睨みつける。
「おいおい何のことだよ生徒会長?」
「私たちがあいつの弁当を隠したっての?」
「そんな証拠どこにあるってんだよ!」
「生徒会長が証拠もないのに生徒を疑っていいと思ってんのか?あぁっ?」
クラスメイト達は、次々と捲し立て喧嘩腰に海凪を睨みつける。
しかし、海凪は引かない。
黒真珠のような目を怒らせ、貫くようにクラスメイト達を睨みつける。
「船頭くんのお弁当はどこ⁉︎」
有無を言わせぬ迫力にクラスメイト達は一斉に怯む。
そしてお互いの目を見合わせ、金髪の生徒がぼそっと呟く。
「裏庭の花壇の中で見た……気がする」
弱々しく金髪の生徒は呟く。
「そう。ありがとう」
海凪は、短く告げると幸の方を見る。
「船頭くん。行こ」
「えっ?」
幸は、ヘラっとした笑みを浮かべて驚く。
海凪は、幸に近寄り、自分の鞄からピンクの保冷パックを取りだし、大きめの水筒を取り出して突っ込む。
「昼休み終わっちゃうよ。行こう」
そう言って海凪は、もう片方の手で幸の右手を握って無理やり立たせて引っ張っていく。
クラスメイト達は驚きの混じった目で幸と海凪を見る。
「くそっ……死体好きの陰キャの癖に」
金髪の生徒が小さな声で愚痴る。
海凪は、足を止める。
そして金髪の生徒を睨みつける。
金髪の生徒は、ビクッと身体を震わせる。
「船頭くんよ」
「えっ?」
「彼の名前は船頭幸。陰キャなんかじゃないわ」
海凪は、突き刺すように金髪の生徒を睨む。
金髪の生徒は思わずへたり込んでしまいそうになる。
海凪は、関心を失ったよつに金髪の生徒から目を反らし、幸を引っ張って教室を出た。
クラスメイト達は、二人の抜けた扉をじっと見た。
「なんであんなことしたの?」
花壇の中にお弁当を見つけた幸はそのまま海凪と二人で花壇のヘリに座ってお弁当を食べ始めた。
「なんでって?」
海凪は、ウインナーを齧りながら黒真珠のような目を顰める。
「あいつらが貴方のことを貶めようととしたからに決まってるでしょ。それ以外に何があるの?」
そう言ってウインナーを飲み込み、煮物に箸を伸ばす。
「余計なことしないでって言ったよね?」
幸は、ヘラっとした笑みを浮かべながらも固い声で言う。
「僕は、この学校を何事もなく卒業したいんだ。言ったよね?」
「聞いたわ」
海凪は、平然と言う。
「でも、それとこれとは話しは別よ。私は生徒会長として陰湿なイジメを受けてるクラスメイトを助けただけ。それって悪いこと?貴方にマイナスな要素がどこにあるの?」
理路整然と早口に捲し立てる海凪に幸はぐうっと声を上げて押し黙る。
「分かったら食べましょう。お昼休みが無くなるわ」
そう言って海凪はお弁当を食べる。
幸も黙って自分の作ったオムライス弁当を食べた。
「ねえ。船頭くん」
お弁当を食べ終わり、海凪は、水筒に淹れた熱いコーヒーを紙コップに注いで幸に渡す。
紙コップなんて用意周到だな、と思いながら幸は右手でそれを受け取る。
昨日と同じ甘い香りが鼻腔を擽る。
「昨日はゆっくり飲めなかったからね」
海凪は、にこっと微笑んで自分の分を水筒の蓋に注ぐ。
幸は、いただきますと言ってコーヒーを飲む。
美味しい。
「それでね。船頭くん」
海凪は、コップを手に持ったまま恥ずかしそうにモジモジする。
幸は、怪訝そうに海凪を見る。
「生徒会入らない?」
「はいっ?」
幸は、思わず間抜けた声を上げてコーヒーを溢しそうになる。
「あれからね……考えたの。どうしたら船頭くんに恩返し出来るかな?って」
海凪は、黒真珠のような目を幸に向ける。
微かに頬が赤い。
「別に恩返しなんて必要ないよ。報酬はもらってるし」
「そう言う事じゃないの!」
海凪は、何故か怒って頬を膨らませる。
幸は、怪訝そうにヘラっと笑う。
「船頭くんが生徒会に入れば嫌がらせされることも無くなると思うの。生徒会役員ってだけで箔がつくし、注目させるから」
「いや、僕はバイトがあるから。知ってるでしょ?」
いや、?マークを付ける必要もなく彼女も知ってるはずだ。
それなのに……。
「別に書記とか会計をやれって訳じゃないの。庶務なら縛られないし」
「いや、庶務が一番大変でしょ?目立たないけどやる事の多さは半端ないから」
「そこはフォローするから」
「多忙な生徒会長には無理でしょ?」
幸は、困ったようにヘラって笑う。
「それにね……」
海凪は、恥ずかしそうにしながらも頬を真っ赤に染めて上目遣いに幸を見る。
幸は、海凪の変化を察し、ヘラっとした口を閉じる。
「私が……貴方と一緒にいたいの」
海凪は、コップを置いて幸の膝に手を置く。
海凪の手が熱いのはコップを持っていたからでないことは幸にも察しられた。
幸は、前髪に隠れた目で海凪を見る。
海凪は、黒真珠のような目を熱く震わせる。
「船頭くん……私ね……」
海凪の手紙膝から幸の頬に移動する。
熱い……。
幸の心臓がドキンっと跳ねる。
海凪の真っ赤な顔が幸に近づく。
「貴方のことを……」
海凪の唇が幸の唇に近づく。
幸は、顔を反らすことが出来ない。
「す……」
海凪と幸の唇が触れる……と思った刹那。
「ご主人様」
唐突に掛けられた声に幸と海凪は、磁石が反発し合うように反対側に弾ける。
いつの間にか二人の前に立っていた銀髪の美少女、花園鈴音がきょとんっとした顔で二人を見る。
「お顔が真っ赤ですがどうされたのですか?」
「な……なんでもないよ?」
幸は、顔を真っ赤にしながらヘラっと返す。
海凪は、決壊したダムのように襲いかかってくる羞恥に身悶えている。
「で……何か用?」
「これ……」
鈴音は、手に持ったうさぎ柄の巾着袋を出す。
「お弁当美味しかったです」
お弁当!
海凪は、がばっと幸を見る。
「それを言いに?」
幸は、そんな海凪の反応にまったく気付かず嬉しそうにヘラっと笑う。
鈴音はこくんっと頷く。
「ピーマンは食べれませんでした。すいません」
「昔っから嫌いだものな」
鈴音の変わってない部分を聞いて幸は嬉しそうにヘラっと笑う。
その顔を見て海凪がさっきとは違う意味で顔が赤くなってることに幸は気付いてない。
「次の授業はなに?」
「現国です。確かダサイとか言う人の……」
「太宰ね。理解出来そう?」
「難しいです」
「そっか。帰ったら教える」
「お願いします」
鈴音は、そう言うと幸に深々と頭を下げ、何故か震えている海凪を怪訝そうに見ながらその場を去っていく。
「グッバイ」
幸は、寂しそうに鈴音の背中に声を掛けた。
「船頭くん……」
海凪の震える声が耳に入る。
そこでようやく幸は、海凪の変化に気がついた。
海凪は、身体を震わせ、頬を熱くし、黒真珠のような目を滾らせて幸を睨む。
そこに浮かんでいたのは怒りと……嫉妬。
「船頭くん……花園さんにお弁当作ったの?」
「うんっまあ……ついでに」
ついでと言うのは鈴音の弁当を作るついでに自分の弁当を作ったと言う意味だが海凪にそんなこと分かるはずもない。
「勉強教えてるの?」
「そりゃ単位取れなきゃ進級出来ないしね」
「一緒にいること……多いの?」
「多いというか……毎日?」
海凪の表情が真っ青になる。
幸は、海凪が何を聞いてるのか分からなかった。
海凪は、拳を握り締め、黒真珠のような目に大粒の涙を溜めて叫ぶ。
「船頭くんのバカァ!」
海凪の叫び声が学校中に響き渡る。
海凪は、弁当箱と水筒を抱えて逃げるように去っていく。
幸は、呆然と走り去る海凪の背中を見る。
「なんだってんだ?一体?」
幸は、訳が分からないまま呟き、温くなったコーヒーを飲んだ。
スマホが鳴る。
ヘラっとした笑みが消える。
田中葬儀社と表示されたスマホ画面をタッチし、耳に当てる。
「こんにちは!聖人」
陽気で不快な声が耳に届く。
電話の主は、そんな幸の心情など気付いた素振りも見せずに次の言葉を告げる。
「特別ボーナスの時間だよ」
幸の表情が変わる。
前髪を掻き上げ、獣のよ頷く目が鋭く輝く。
「……分かった」
幸は、短く告げてスマホを切った。
今日も幸は死体を洗う。
誰かの思い出を守るために。
これにてストーリー終幕です!
読んでくださりありがとうございます!
果たして幸はこれからどうなっていくのか?




