後編 ほのかに赤い秋の雨、別れの冬の雨
『ほのかに赤い秋の雨』
久しぶりの残業を終わって、空を見上げるとシトシトと雨が降っていた。
この時間ならレインが空いているな。せっかく遅くなったことだし少し飲んでから帰ろうか
僕は傘をさして近くのバーに歩き出した。今朝までどこからか臭っていた銀杏の匂いは雨でなくなっていたが、地面には色づいた赤い紅葉が雨で転々と落ちていて、もう少しで今年が終わるのが感じられて少しさみしくなった。
カランコロン、扉を開くと薄暗い照明とバーカウンターがあり、その真ん中にバーテンの店員が立っていた。
「高田さん、こんばんは」
店員が静かな声であいさつをしてくれた。僕は扉の近くのカウンターに座った。
「今日はどうしますか?」
「軽めのやつ適当に作ってくれますか?」
「分かりました」
このバーは四年前に立花と見つけて、たまにくるようになった。店員とはよく話すので、僕の好みを知ってくれていた。
「どうぞ」
手際もよく作ってくれたものは爽やかで美味しく、お通しで出たピーナッツとよくあった。すると奥の方から二人組の女性の声が近づいてきた。
「ごめん。今度埋め合わせするから」
「いいよ。いいよ。ゆり、早く彼氏の所に行ってあげて」
なんだか一人は慌てているようだ。
「すいません。一回チェックでお願いします」
お会計を済まして一人は急いで外に出た。もう一方は僕と反対側の席に座った。
「何か飲まれますか?」
マスターが彼女の聞いた。
「スクリュードライバーもらえますか?」
「かしこまりました」
マスターは作り出したが、僕は彼女の声に聞き覚えがあり、思わず見てしまった。
「流さん?」
急に呼ばれた彼女はビクッとしてこちらを向いた
「高田さん。奇遇ですね。どうしたんですか?」
バス停でたまに会う彼女だった。夏のあの日、連絡先を交換したが連絡は結局とらず、バス停であった時にタオルを返してもらっていた。
「今日は珍しく残業していまして仕事帰りです」
僕は肩をすくめた。
「そうなんですね。お疲れ様です。せっかくなんでお隣に座ってもいいですか?」
「いいですよ」
彼女は僕の隣に座りなおした。
「高田さんは、ここによく来るんですか?」
「えぇ、たまに。流さんは?」
「ここ大学の近くで、久しぶりに友人と来たんですが」
彼女は大学の四年生とは聞いていたが、どこか聞いていなかった。ここの周辺には確か三つ位大学があったな。
「今日は先に帰ってしまいました」
彼女は遠い目をする。
「みたいですね」
僕は苦笑いを返す。
「そこは、なんか面白い答えを返してくださいよ」
彼女がにこやかに笑った。
「もぉ、高田さんは真面目だなぁ」
流さんの前にスクリュードライバーが来ると彼女はすっと飲んだ。オレンジ色とさっき見た紅葉の落ち葉が重なる。
「どうしました?」
首を傾げる流さん。
「もう秋だなっと思っただけです」
「それなんですか」
彼女はますます困惑してしまったようだ。外が雨が降っているせいかお客さんがあまりおらず彼女の優しい雨音のような声が耳に心地よく聞こえる。
「高田さんはバーではどんなもの飲むんですか?私あまり知らなくて同じものばっかり頼むんですよね」
流さんはメニューを取ってたくさんあるメニューをぐるっと見渡す。
「僕も知ってるもの少ないけど」
僕がよく飲んでいるバラライカやゴッドファーザーの名前を出すと興味を持ってくれて、あまり飲まないマティーニやジンバッグなども教えた。
「じゃ、高田さんのおすすめください」
「流さんはお酒は強い方弱い方?それで変わってくるよ」
流さんは少し間をおいて答えた。
「中間くらいかな?友達と飲んでるときはまだ潰れてた事はないです」
疑問形で答えてくれた。その答えだと弱くはないだろう。
「少し強いけどバラライカでも飲んでみる?」
「名前がかっこいいですね。飲んでみます」
僕は店員にバラライカを頼んだ。
「高田さんってお酒詳しいですね」
「そうでもないですよ」
お酒は軽く本は読んだ事はあるが、奥が深くて断念した事があった。立花のほうが詳しくよく聞いていたくらいだ。
彼女は首を振った。
「私より全然詳しいですよ。今度また教えてください」
冗談かなっと思ってもドキッとしてしまう。
「僕で良ければいいですよ」
僕は軽く答える。彼女はバッグからスケジュール表を取り出す。
「じゃ、いつにします」
え?今の冗談じゃないの?
「なに鳩が豆鉄砲を食べたような顔しているんですか?」
「そんな顔してた」
彼女はしっかりと頷く。
「教えてくれるんですよね?」
「はい。バラライカです」
店員さんがすっと飲み物を出して、僕は救いを求めるようにみたが、店員さんは諦めなという顔をした。
「あ、美味しい」
バラライカを飲んだ流さんはとてもいい笑顔になった。この表情みたら断る事なんてできないだろう。
『別れの冬の雨』
窓の外は冷たい雨が降っていた。今日はこの後、雪に変わるかもと言っていた。
カランコロン、扉が開く音がする。流さんが青い可愛らしい傘をたたみながら店内をぐるっと見つけ僕を見つけた。
「高田さん。待ちましたか?」
彼女は黒い暖かそうな上着を近くのハンガーに掛けて僕の横に座る。
「いえ、僕も今、来たとこです」
彼女はホッとした様子をする。
「さて、今日はどんな物を紹介してくれるんですか?」
彼女は目をキラキラさせながらメニューをみる。二人で待ち合わせするのも三ヶ月位たっただろうか一、二週間に一度時間が合えば二人で飲んでいた。
「今日は前言っていたゴッドファーザーでも飲みますか?」
彼女の手がビタッと止まりこちらをみる。
「あぁ、あの映画にちなんで作られたんですっけ?」
「その通りです。よく知ってましたね」
彼女はえへへと照れたように笑った。
「なんか前に聞いたことあったんですよね。やっぱり飲んだことないんですがね。高田さんは?」
僕は何にしようかな。
「そしたら、僕はゴッドマザーにしようかな」
流さんは口元に手をやりクスッと笑った。
「父の次は母ですか?」
「そうですね。この2つは本当に夫婦みたいな感じで、アマレットというお酒をウィスキーかウォッカで混ぜるかで名前が変わってくるんですよ」
流さんが何度か頷く。
「そうなんですね。お酒って面白いですね」
彼女は手を上げて、店員を呼び酒とおつまみを注文した。
「始める前に一つご報告があるんですが、いいですか?」
彼女は少し言いにくそうに僕に質問する。
「どうしましたか?」
「えっとですね。四月から就職が決まっている事は、言いましたよね」
僕は頷いた。この会の始めの頃、四月から就職が決まっているとは聞いていた。確か全国規模だが本社は近くと言ってたかな。
「私、本社勤務と思っていたんですが、先週封書が届いて他県の事業所勤務って書いてあったんですよ」
え、ということは?この会も終わりということかな?
「こっちに戻ってくることはないんですか?」
彼女は首を傾げる。
「いずれかはあると思いますが、いつになるか解らないです」
そうか。お酒を定期的に飲める人はしばらくいなかったから少し残念である。
「今からバタバタすると思うので、今回で最後にしたいと思っていますがいいですか?」
僕はピタっと動きが止まってしまった。聞いた感じだとまだ一、二回は会えるのかなと思ってしまったからだ。しかし僕の感情に彼女を捕まえては行けない。
「そうですか。頑張ってください」
心からの声を彼女に伝えた。
「ありがとうございます」
彼女との最後の時間はあっという間に過ぎていった。彼女は冷たい雨が降る中、帰っていった。
僕も彼女と別れた後、すぐに店をでたがまだ冷たい雨が降り続いていた。吐く息は白く温かった。
「楽しかったのにな。残念だな」
「高田さん。つまらなかったなぁ」
彼との飲み会、私から始めたから辞めるって言いづらかったんだよなぁ。辞令が来てくれたのが正直助かった。社会人になったらこのままフェードアウトしようとも思っていたところだった。
電気をつけて部屋の鍵を近くの本棚に置く。高田さん当たり前の事しか言わなかった。本棚においてあるカクテルの本以上の事は言わないし、話を広げることもなかった。
今日の報告した後も時期的にあと何回かは、誘えるのに誘って来なかった。ということは向こうも私の事、面倒だと思っていたのか?
「やっぱり健人以上なんていないな」
壁に貼ってある写真を見つめる。
「なんで死んじゃったんだよ」
健人が死んでもうすぐ二年になる。死んだ日もこんな雨の日だったな。外は冷たい雨が降っていた。
〜終わり〜
読んでくださりありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
交差した二人の気持ちは結局すれ違っていました。
二人の関係は雨のようにただ流れていくだけでした。
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最後までありがとうございました。




