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前編 ざわつく春の雨の日、濡れた夏の雨

『ざわつく春の雨の日』

ザァー、ザァー。

「あぁ、朝から雨か」

 会社に向かおうと家から出ると、雨が降っていた。昨日の天気予報では昼過ぎから降るだろうと言っていたが、少し早まったのだろう。天気予報あるあるである。

 仕方なく黒い傘を傘立てから取り出して家を出た。

 そろそろ桜が散る時期かなと思っていたが、この雨で一気に落ちるだろう。水たまりには落ちた桜が広がっていた。

「立花が死んだ時もこんな雨だったな」

 去年、朝の準備をしながらニュースをみていたら、車と人の接触事故があって人が死んだと出た。名前を見て体が固まったのを覚えている。立花健人、仲の良い会社の後輩だった。検証の結果、どうやら車が雨でスリップしての事故らしかった。よく遊んでいた後輩で今でも心の何処かに穴が空いているような感じがする。

 ザァーザァー。

 屋根付きのバス停に着くと、いつもは数人ほど座っているベンチに今日は誰もおらず座ることができた。スマホで時間を見るとまだバスが来るには時間があった。

「こんな時の為にね」

 少し時間ができた時の為に、カバンに本を入れてあったので、取り出して読み出した。

 タントンタタントトン。

 屋根に当たる不規則な雨の音が聞こえる。

 ザァー、ザァー

 雨がまた少しひどくなってきたようだ。

「ふぅ、今日は雨がひどいな」

 不意に女性の声が聞こえた。声の方向を見ると、髪が長い女性がバス停に入ってきた。

「すいません。バスって来ましたか?」

 急に話しかけられ驚いた。

「いえまだ、雨で少し遅れているようですよ」

 彼女はホッとした様子だ。彼女は黒い長靴を履いていて、雨に濡れてくっついた桜がまるで模様のようで、とても可愛かった。彼女はどこか悲しい表情をしているように見える。 あ、駄目だな。立花にも人をじっと見るなって言われていたじゃないか。僕は本に目線を戻した。

 彼女がバス停に入ってすぐにバスがやってきて僕は前の方の座席に座った。後ろから彼女も乗り込んで僕とは反対の方に座ったみたいだった。

 バスの窓から、小さい川に桜が落ち道ができていたのが見えた。

 会社に着くと朝から同僚に声をかけられた。

「高田おはよう。今週の新入社員の歓迎会どうする?」

 歓迎会?あぁ、先週案内が来てたか。正直行くか迷ってしまう。こういった会は騒がしいので好きではない。立花は僕とは逆ですぐに手を上げるタイプだったな。

「去年、立花の事で中止になったから、なるべく参加してほしいみたいだよ」

 去年の歓迎会そういえば、立花が亡くなった週に予定していたから中止になっていたな。言っている事は解るが立花の事を考えるだけで、胸が締め付けられる。歓迎会に行ったら変な空気を出してしまうかもしれない。立花なら逆に出ようとするだろうが、後輩には申し訳ないが不参加にしよう。僕は不参加で出した。

 

「海〜、どうした朝から元気ないね」

 私が食堂でご飯を食べているとゆりが声をかけてきた。

「あぁ、この天気がね」

 すっと窓から空をみる。ゆりも雨が酷いのを見て納得する。

「せっかく好きな長靴と傘で来たんだけどね」

 私はゆりに黒い長靴を見せる。

「あんた、雨の日好きだもんね」

 ゆりは信じられないという顔をする。

「でもこの雨の量、去年のあのことを思い出しちゃって」

 私は自然と目線が机の上に行く。

「そっかもう健人が死んで一年になるもんね」

 ゆりがそっと隣の席に座ってくれた。健人が死んだ時もこんな大雨だった。ずっと一緒にいると思っていた彼が死んでもう一年になる。

「海」

 不意に名前を呼ばれゆりをみる。

「今日さ、久しぶりにレインに行ってみない?」

 レイン?

「うん。健人と行っていたバーだよ」

 あぁ、健人がいた時に先輩と見つけたと言って、二十歳になってから連れて行ってくれていたお店が一つあった。健人が亡くなって全く行かなくなっていたっけ。

「私、たまに行くんだけど、お店の人も心配しているんだよ」

「え?私の話?」

 行っていた頃、お店の人とはあまり話した事はなかったから、その話に正直驚いた。

「そっか、分かった。今夜行こうかな」

 過去の出来事を優しく流してくれるように、雨はずっと降り続いていた。


『濡れた夏の雨』

 夏の雨は急に降って来る。さっきまで晴れていたのに、急に土砂降りになって折りたたみ傘を出す暇もない。

「せっかくの休みなのに」

 近くのシャッターが降りた店の軒下にあわてて避難する。バッグから汗拭き用のタオルを出したところで、同じように雨から逃げてきた人が軒下に走って入ってきた。

「あぁ、もう」

 入ってきた人を見ると、バス停で何度か見かけた女性だった。僕より濡れているようで、僕はタオルの手を止めた。

「あの、これ使いますか?」

 彼女は僕に気づきこちらを見る。少し目を細め警戒されているようだ。

「すいません。たまにバス停で一緒になるので良かったら使いますか?」

 彼女は一瞬止まって目をパチクリさせる。

「え、あぁ」

 驚いたような困ったような不思議な表情を浮かべる。

「でも、え、あなたも濡れてますよ」

「僕より濡れてますし、バス停の仲間って事で使ってください」

 ぐいっとタオルを彼女の方に渡す。

「そしたら、使わせてもらいます」

 彼女は、遠慮がちに受け取る。

「こんな所で会うなんて奇遇ですね」

 彼女が髪を拭きながら僕に話しかけてきた。

「そうですね。いつもバス停ですもんね」

 僕はクスッと笑った。

「今日は図書館に行こうと思ったんですが、ここで足止めです」

 空を見上げる。まだまだバケツをひっくり返したような雨が降っている。

「夏の雨だからすぐ止むと思うんですけどね」

「夏の天気は変わりやすいですもんね。酷い雨じゃなかったら好きなんだけどな」

 彼女も空を見上げる。雨を見上げ終わると彼女はタオルを

綺麗に畳んだ。

「タオルありがとうございました。洗って返しますね。えっと」

 彼女は僕の顔を見て、困った顔をする。どうしたのだろうか?・・・もしかして名前かな?

「僕は高田っていいます。あ、気にしなくていいですよ」

 僕は受け取ろうと手を出すと、彼女はブンブンと手を振る。

「それは悪いです。ちゃんと洗って返します」

 彼女は持っているバッグの中に素早くタオルを入れた。

「私の名前は流れるって書いてながれっていいます。タオルも返したいですし、よかったら連絡先を交換してもらいませんか?」

 急な誘いに僕は驚いたが、

「いいですよ」

 僕達は連絡先を交換した。

「あ、止んできましたね」

 雨が小雨になってきたと同時に、ムワッとした暑い空気が顔を出してきた。

「またこの暑さ、ゲリラ豪雨じゃなくて、いつもの雨がよかったなぁ」

 流さんは遠くにでてきた太陽を眩しそうに見ていた。

読んでくださりありがとうございます。

共通の人の死を思い、それぞれの季節は巡っていきます。

二人はどう交差していくのか?後半(秋と冬の物語)もお楽しみくだされば嬉しいです。

ご意見ご感想お待ちしております。

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