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誰も救えない僕が、それでも魔王と生きる話  作者: 霜月ルイ
シャルロット編

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92/96

92.それでも生きていく


 屋敷に戻ったのは、すっかり日が落ちてからだった。


 玄関の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。

 外で流してきた感情を、建物ごと抱え込むような音だった。


 エルディオは、靴を脱ぐ動作が少しだけ遅れた。

 身体が重いわけじゃない。むしろ、妙に軽かった。


 泣ききったあとの、あの空白に近い感覚。

 胸の奥は痛むのに、呼吸は通る。

 傷はあるが、塞がれてはいない。


 ――生きている。


 それを、今日は否定しなくていい。

 そう思えるだけで、足元が少しだけ安定した。


 シャルロットも同じように静かだった。

 何かを言いそうで、言わない。

 それが今日の二人の呼吸だった。


 使用人が灯した明かりが、廊下を柔らかく照らす。

 影が伸びて、二人分になる。


 それを見て、エルはほんの一瞬だけ足を止めた。


 ――二人分。


 当たり前のことなのに、胸の奥がじんとした。

 今日一日で、“一人じゃない”という事実が、やけに重く、やけに尊かった。



 寝室ではなく、居間に入った。


 火はすでに落ちていて、夜の冷えが床から伝わる。

 エルは薪を足し、火を起こした。

 指先が少しだけ震えたが、うまくいった。


 炎が安定するまでの沈黙。

 それを、シャルロットは壊さない。


 椅子に腰掛け、膝の上で指を組んでいる。

 鎧はもう脱いでいて、騎士ではなく、一人の女性の姿だった。


 鎧を脱いだ彼女を見るたび、エルは少しだけ胸が締めつけられる。

 剣を振るう彼女を誇りに思っている。

 同時に――失う想像をしてしまう自分を、止められない。


 エルは向かいに座った。

 距離は近い。だが触れない。

 今日の二人には、その距離が必要だった。


「……静かだな」


 エルが、ぽつりと言う。


「うん……」


 シャルロットが小さく頷く。


「今日は……たくさん、泣いたから」


「……ああ」


 それ以上は言わない。

 “誰が”とか、“何で”とか、言葉にしなくても分かる。


 火の爆ぜる音だけが、時間を刻む。



 エルは、ゆっくりと息を吸った。


「……シャル」


「ん……?」


 呼ばれる声は、いつもより少し低い。


「今日……リィナの両親と話して」


 言葉を選ぶ。

 選びすぎると、嘘になる。

 選ばなさすぎると、崩れる。


「……僕、初めて分かった気がする」


「何が…?」


「……生きるってことを」


 シャルロットの指が、わずかに動いた。

 驚きではない。受け止める準備の動きだった。


「ずっと……生き残ることだと思ってた」


 戦場で。

 任務で。

 家の中で。


「死なないことが、正しいことだって」


 でも。


「違った」


 エルは、視線を上げる。


「生きるって……続けることなんだな」


「続ける……?」


「うん」


 一拍。


「失ったものを、なかったことにしないまま」


「それでも、先に進むこと」


 言葉が、自然に出た。

 リィナの両親の前では出せなかった言葉だ。


「僕……今日、ようやく」


 喉が少し詰まる。

 でも止めない。


「前を向いていいって……思えた」


 シャルロットの目が潤んだ。

 すぐに零れない。溜まる。


 その“溜める”仕草が、彼女の性格をよく表していた。

 感情を軽く扱わない。

 だから、溢れたときは必ず本物だ。



「……少し未来の話を、してもいい?」


 エルが言う。


 “いいか”と聞くこと自体が、エルにとっては珍しかった。

 命令でも決定でもない。相談だ。


「……うん」


 シャルロットはそう答えた。

 声が、ほんの少しだけ震えた。


 エルは、視線を火に落とした。


「僕たち……婚約しただろ」


「……うん」


 分かっている。

 でも、声にすると実感が増す。


「だから……」


 一拍。


「結婚のこととか」


 シャルロットが、息を止めたのが分かった。


「子供のこととか」


 止めた息が、少しだけ乱れる。


「住む場所のこととか」


 エルは、ゆっくりと言葉を重ねる。


「……考えてみたんだ」


 考えた。

 本当に。


「王都から、少し離れた場所がいい」


 戦場から遠く。

 政治の中心からも、少しだけ外れた場所。


「庭があって……」


 思い出すように言う。


「花を植えられる場所があって」


 白い花が、脳裏をよぎる。


「静かで……夜に、ちゃんと星が見えるところ」


 それは、彼女が生きられなかった景色でもある。


「……子供ができたら」


 シャルロットの睫毛が震えた。


「僕は……剣の持ち方を教えるより先に」


「ちゃんと……泣き方を教えたい」


 シャルロットの目から、涙が零れた。

 声を上げない。ただ、静かに。


 その涙は弱さじゃない。

 未来を受け取ってしまった人間の涙だ。



「……エル」


 シャルロットは、片手で口元を押さえながら言った。


「そんな話……」


 言葉が続かない。

 嬉しい。怖い。愛おしい。


「……そんな未来、考えてくれてたんだね」


 涙が、指の隙間から落ちる。


 エルは、立ち上がった。

 近づく。

 彼女の膝の前に屈む。


 触れないまま、視線を合わせる。


「……だから」


 声は低いが、迷いはない。


「お願いがある」


 シャルロットは、泣きながら頷いた。


「……君には」


 一拍。


「騎士団を、辞めてほしい」


 空気が止まる。


「戦場から、引いてほしい」


 シャルロットは、すぐには答えなかった。

 驚きはした。

 でも怒りはない。


「……理由は?」


 震える声。


「僕が……怖いからだ」


 正直だった。


「君を失う可能性がある場所に」


「もう、立たせたくない」


 それは支配ではない。

 命令でもない。

 懇願だった。



 シャルロットの言葉が落ちた瞬間、部屋の空気が変わった。


 拒絶ではない。

 でも、受諾でもない。


 エルディオの胸の奥で、何かが小さく軋んだ。

 それは怒りじゃない。失望でもない。

 ただ――怖さだ。


 大切にしたいと思った瞬間に、その大切なものを守りきれない可能性が、はっきりと輪郭を持ってしまう。

 戦場で何度も味わってきた恐怖と同じ形をしているのに、今日のそれは刃よりも深く刺さった。


 彼は、言葉を探した。

 けれど、口を開けば開くほど、自分が「お願い」ではなく「命令」に寄っていく気がした。


 それが一番嫌だった。


 ――守りたいのに、縛りたくない。


 守ると縛るは、似ている。

 特に彼の育った家では、その二つは同義だった。

 当主の「守る」は、「お前はここにいろ」と同じ意味で。

 父の「守る」は、「お前の選択肢はこれだけだ」と同じ音で。


 だからこそ、彼は怖い。

 自分の愛が、いつか同じ音になってしまうことが。


 その沈黙を、シャルロットが破った。

 涙の残る睫毛のまま、けれど目を逸らさずに言う。


「……ねえ、エル」


「……」


「あなたは、私を守ろうとしてくれてる」


 その言い方が、ずるいほど優しかった。

 責めるためじゃない。押し返すためでもない。

 ただ、事実として受け取ってくれる声だった。


「嬉しい。……本当に」


 一拍。

 彼女は、息を整えるみたいに唇を噛んだ。


「でもね、私は――」


 言葉が途切れそうになって、彼女は自分で繋いだ。

 繋がなければ、きっと泣いてしまうから。

 泣いたら、言うべきことが言えなくなるから。


「私は、あなたの隣にいることで、ようやく息ができるの」


 エルディオの指先が、ほんの僅かに震えた。


 “激重”という言葉では足りない。

 それは依存ではないのに、依存に似た痛みを含んでいる。

 彼女は、それを隠さない。

 隠して綺麗な言葉にしない。

 だから、刺さる。


「私、昔から……強いふりが得意だった」


 シャルロットは、泣き笑いのように息を吐いた。


「剣を握っているときだけ、迷わずにいられた。『守る』って決めてるときだけ、立っていられた」


 彼女の声は静かだった。

 静かなのに、重い。


「でも、本当はね」


 言葉がほんの少しだけ濡れる。


「怖かった」


 エルディオが、息を止めた。


「誰かを守りきれないことが」


「守りたいのに、守れない日が来ることが」


「そして……守れなかったとき、私が自分を許せないことが」


 彼女の指が、膝の上で強く組み直される。

 爪が掌に食い込む音がしそうなくらい、きつく。


「だから私は、守る側に立っていた」


「守る側にいれば、間違えない気がしたから」


 シャルロットは、そこで初めて目を伏せた。

 炎の揺らぎが頬の涙を光らせる。


「でもあなたの前では、間違えるの」


 小さく、笑った。

 笑ったのに、泣いている。


「あなたのことになると、私は弱くなる」


「弱い自分が、怖い」


「だけど――その怖さを、私は捨てたくない」


 エルディオの胸が痛む。

 それは、拒絶の痛みではない。

 受け取ってしまった痛みだ。


 シャルロットは、顔を上げた。

 涙で揺れる目なのに、声は芯を持っていた。


「子供ができるまでは、って言ったけど」


 彼女は、少しだけ息を吸う。


「本当はね。……子供ができた後も、あなたが望む限り、隣にいるつもり」


 言葉が、逃げ道を塞いでいく。

 甘くて、重くて、逃げられない。


「私は、あなたの人生に“居場所”として居たい」


「戦場の相棒でも、騎士団の同僚でもなくて」


「……あなたの帰る場所になりたい」


 その一言で、エルディオの視界が微かに滲んだ。


 帰る場所。

 彼は、それをずっと持たなかった。

 屋敷はあった。部屋もあった。役割もあった。

 でも、“帰る場所”はなかった。


 彼は、声を絞り出す。


「……シャル。重い」


 冗談みたいな言い方になってしまった。

 だが、シャルロットは笑わない。


「うん。重いよ」


 あっさりと肯定した。

 それがさらに重い。


「でもね、重いのは……私がそれだけ本気だから」


 一拍。


「あなたのこと、軽く好きになれない」


「中途半端に愛せない」


「いなくなったら生きられない、なんて言わない」


 ここで彼女は、まっすぐエルディオを見た。


「でも、いなくなったら――私の世界は、終わる」


 言い切った。

 誇張じゃない。脅しでもない。

 ただ、事実として。


 エルディオは、喉の奥が熱くなった。

 彼女の言葉は、彼を縛るためではなく、彼を“逃がさないため”にある。

 逃げて、壊れて、独りで死ぬように生きるのを、許さない言葉だ。


 彼は、目を閉じて、息を吐いた。


「……君は」


 声が掠れる。


「僕を、救おうとしている」


 シャルロットは首を振る。


「違う」


 即答だった。


「救うんじゃない」


 一拍。


「あなたがあなたのまま、生きるのを――許したいだけ」


 許したい。

 その言葉は、彼の胸の奥を柔らかく叩いた。


「リィナさんのことも」


「あなたが背負っている全部も」


「私は、奪わない」


 そして、少しだけ声を落とす。


「だから、あなたも……私を奪わないで」


 その一言が、エルディオの背骨を震わせた。


 奪わないで。

 それは、「自由にして」とも違う。

 「縛って」とも違う。


 “隣にいること”を、彼女は自分の意思で選んでいる。

 だからこそ、奪われたくない。

 彼の不安や恐怖の名の下に、選択を奪われたくない。


 エルディオは、ゆっくり頷いた。


「……分かった」


 短い言葉。

 でも、約束だった。


 そして、少し間を置いて、彼は言う。


「それでも……怖いんだ」


「君が死ぬのが」


 シャルロットが、目を見開いた。

 それから、涙のまま微笑んだ。


「うん」


 頷く。


「怖いよね」


 優しく、残酷に同意する。


「だから、私は生きる」


 一拍。


「あなたの隣で、生きる」


「あなたに“ただいま”って言って、あなたに“おかえり”って言って」


「眠る前に、明日もあなたがいるって確認して」


 彼女は、言葉を積み重ねるたびに、少しずつ泣き方が変わっていった。

 悲しい涙じゃない。

 嬉しい涙だ。

 嬉しすぎて、怖さが混じってしまう涙。


「……ねえ、エル」


 シャルロットが、小さく呼ぶ。


「私、あなたの子供が欲しい」


 エルディオの呼吸が止まった。


 あまりにも直球で、あまりにも重い。

 だが、いやらしさは微塵もない。

 未来を、彼の前に置く言葉だった。


「あなたが泣き方を教えたいって言ったでしょ」


「なら、私は……笑い方も教えたい」


 彼女は、涙を拭いもしないまま言った。


「あなたが笑えるようになるまで」


「何回でも、隣にいる」


「あなたが笑ったら、私、たぶん……世界で一番嬉しい」


 エルディオの胸の奥が、きゅっと縮む。


 嬉しい。

 怖い。

 温かい。

 全部が一緒になって、言葉が出ない。


 だから、彼は手を伸ばした。


 最初は、触れるだけ。

 指先が、彼女の頬の涙に触れる。


 涙は熱い。

 生きている熱だ。


 シャルロットが、その手に頬を寄せた。

 自分から寄せた。

 その仕草が、何よりも強い意思だった。


「……ねえ」


 囁くように言う。


「明日、編入でしょ」


「うん……」


「私、怖いよ」


 エルディオの眉が動く。


「あなたが、また遠くへ行くのが」


「私の知らない顔で戦うのが」


「私の知らない痛みを抱えて帰ってくるのが」


 それを、彼女は“止めたい”とは言わない。

ただ、“怖い”と言う。


「でも、だからこそ……お願い」


 シャルロットは、彼の服を掴んだ。

 強く。

 逃げないように。

 でも壊さない程度に。


「明日も、帰ってきて」


「帰ってきて、ここにいて」


「私の前で、ちゃんと息して」


 激重だった。

 でも、それは愛だった。


 エルディオは、頷く。


「……帰ってくる」


「約束する」


 彼は、そこで初めて、彼女の涙を拭った。

 ひとつ。ふたつ。

 丁寧に。


 シャルロットが、笑った。

 笑いながら泣いている。

 泣きながら笑っている。


「……好き」


 小さく言う。

 でも、逃げない音だった。


「あなたのそういうところが、好き」


「怖がってくれるところも」


「未来を考えてくれるところも」


「私を、必要だって思ってくれるところも」


 息を吸って、吐いて。


「全部、好き」


 そして、最後に。


「だから、私は――あなたの隣を譲らない」


 宣言だった。

 甘くて、重くて、逃げられない。


 エルディオの胸の奥が震える。

 その震えは、恐怖ではない。

 生きる震えだ。


 彼は、もう一度だけ言った。


「……ありがとう」


 シャルロットが、首を振る。


「違う」


 一拍。


「ありがとうじゃない」


 彼女は、顔を上げて、まっすぐ言う。


「……これからも、って言って」


 エルディオは、息を吸う。


「……これからも」


 言った。


 シャルロットが、泣きながら笑った。

 そして、声を震わせたまま、囁く。


「うん。これからも」


「私、ずっといる」


「あなたが嫌だって言っても、説得する」


「あなたがいらないって言っても、嘘だって言う」


「あなたがひとりになろうとしたら、引きずってでも戻す」


 激重だった。

 でも、その重さは“生きろ”と同じ意味だった。


 エルディオの喉が、音を立てた。


 それから彼は、ようやく――

 シャルロットを抱き寄せた。


 強くは抱かない。

 逃げ場を残す。


 それでも、彼女は逃げない。


 むしろ、腕の中で小さく息を吐いて、囁いた。


「……捕まえた」


 まるで冗談みたいに。

 でも冗談じゃない音で。


 エルディオは、目を閉じた。

 胸の中で、彼女の熱を確かめる。


 ――この熱を守りたい。

 守りたいけど、縛りたくない。


 だから、彼は誓う。

 縛るのではなく、帰る。

 命令するのではなく、選ぶ。


 明日も、ここへ。



 しばらく、二人は何も言わなかった。


 火が揺れる。

 影が揺れる。


 エルは、シャルロットの額にそっと口づけた。

 恋人としての甘さではなく、確かめるための触れ方だった。

 彼女がここにいること。

 息をしていること。

 今日が終わって、明日が来ても、隣にいてくれること。


 シャルロットは、彼の胸元を強く掴んだまま、震える声で言った。


「……ねえ、エル」


「ん……?」


「私、明日……あなたが戻ってくるまで」


「きっと、ずっと数えてる」


「足音を」


「扉が開く音を」


「あなたの声を」


 激重だった。

 でも、愛以外の何でもない。


 エルは、少しだけ笑った。

 笑うことに慣れていない笑い方だった。

 それでも彼は笑った。


「……じゃあ、帰ったら言う」


「何を?」


「ただいま、って」


「……うん」


 シャルロットは、泣きながら頷いた。


「私、絶対に言う」


「おかえり、って」


 その言葉が、エルの胸に静かに灯る。

 帰る場所。

 帰っていいと言われる場所。


 彼は、ゆっくりと息を吸った。


「……明日」


「王国直轄部隊への、正式な編入だ」


「うん……」


「たぶん……厳しい」


 戦場よりも。

 家よりも。


「でも」


 エルは、胸の奥から言葉を引き上げた。

 今日、墓前で流した涙の向こう側にある言葉。

 逃げずに、握りしめる言葉。


「僕、これからも頑張るから」


 一拍。


「前を向いて、生きるよ」


 シャルロットの肩が震えた。

 また涙が溜まって、落ちていく。


「……君の隣で」


 その言葉で、シャルロットは声を上げて泣いた。

 嬉しさと、不安と、愛情が、全部一緒になった涙だった。


 エルは、彼女の背中をゆっくり撫でる。

 子供をあやすみたいに、でも恋人として。

 彼女が泣くのを止めない。

 泣いていいと、腕の中で許す。


「……泣いてもいい」


 エルが言う。


「泣き終わったら、また生きればいい」


 シャルロットが、涙のまま笑った。


「……うん」


「私たち、そうする」



 夜は、静かに更けていく。


 この夜が、どれほど尊いかを、二人とも、まだ知らない。

 ただ――


 この時だけは、確かに。


 未来が、二人の前にあった。


 そしてエルディオは、シャルロットの髪に触れながら、心の中でそっと言った。


 ――リィナ。

 君がくれた未来を、僕は壊さない。


 泣いても、怖くても。

 逃げない。


 僕は、明日も帰ってくる。


 シャルの隣へ。



 この回は、物語の中でいちばん静かで、いちばん大切な時間です。

 戦いも陰謀もなく、ただ二人が同じ夜を過ごすだけ。

 でもエルにとっては、「生きる側に戻る」決定的な一歩でした。


 前を向くことは、忘れることじゃない。

 痛みを抱えたまま、それでも進むこと。

 その覚悟を、言葉と沈黙の両方で描いています。


 シャルロットは優しく守る人ではなく、逃がさず隣に立つ人として書きました。

 この夜の幸福は、後の絶望の対比でもあります。


 ここから、すべてが動き始めます。

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