半年後
「ふふん♪」
「あれ? 破耶先輩、どうして生徒会室に」
「おー! 七菜ではないか!」
頭にバンダナを巻き、口にはマスク、エプロンを着けた破耶に七菜は驚いていた。
「えーと……」
「気にしないでくれ。わたしの単なる気紛れなのだ」
キュッキュ! と、窓ガラスを拭いている。
「なら……僕も手伝います!」
「気持ちは嬉しいが、生徒会のほうは良いのか? 明日の卒業式の準備で忙しいだろう」
「それ、明日、卒業する人の台詞とは思えないです」
「生徒会長として最後の日だからな。この三年間、わたし達の、憩いの場でいてくれたことに感謝したくてな。物にも思いが宿っているとか言うしな」
破耶は窓ガラスを乾拭きする。
「破耶先輩は優しいです。僕も見習いたい」
「なーに。七菜は充分立派なのだ」
破耶はモップを絞ると、床を拭いていく。
「破耶先輩。僕、バケツの水を取り替えてきます」
「すまんな。お言葉に甘えさせてもらうのだ」
破耶の返事を聞いて、七菜は廊下に出た。
※ ※ ※
「ねえねえ! 玲衣は誰のボタン貰うの?」
玲衣の友人が言う。
「卒業生がボタンを貰うって可笑しくない?」
「そう? これで会うのが最後になるかもしれないじゃん! 卒業生同士でも良いんじゃない?」
「どのみち興味ないけど」
「えー!? 玲衣は恋してないの?」
「恋愛に興味がないというか……。周りにカップルが居るからさ。見てる方が楽しいんだよ」
玲衣は体育館の校歌の歌詞を見る。
「こーして見ると、校歌の歌詞って悪くないんだよね……普段はつまらない歌としか思ってなかったけど」
「へぇー。玲衣にも物思いにふけることがあるんだ」
玲衣の友人がクスクスと笑っている。
「玲衣さーん! 少し良いですか?」
「ありゃ? 愛生が呼んでるや。ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃいよ~」
友人が送り出した。
※ ※ ※
「宇留田、いいか?」
「どうしたの? 夏郷が珍し」
「卒業生代表として、お別れの言葉を言わなきゃならないんだが……いかんせん、思い付かなくて……」
「……卒業生が卒業生に別れの言葉を考えろ、と?」
「やっぱダメか?」
「……誰も断ると言ってない。第一、夏郷の頼みを断ったりしたら、会長に何をされるか……」
「なんかゴメンよ!?」
「バカだね。友達の頼みを断るほど冷たい人間のつもりはない」
機械音が鳴る。
「何の音だ?」
「複合機の音だよ。夏郷と話ながら、文章の作成を済ませた。目を通してくれ」
「ま、マジで!?」
夏郷は驚きを隠せないでいた。
※ ※ ※
「すんませーん!」
「む? 私服での登校は原則、認められてないが」
「そこを何とか! 漢、帰国して直行で来たんです」
「しかしね~。生徒手帳は持ってるかい?」
「……制服の中で……」
「それだと、校内に入れるわけには……」
「どうしたのかね?」
「これは校長先生。それが、彼が私服で校内に入れてくれと」
「ん?」
「お久し振りです、校長。覚えてます?」
「君は……紅蓮君じゃないか! 忘れるわけがないだろう!」
「良かったー! 忘れられたらどうしようかと」
「そうか、今日が帰国日だったのか。事情が事情だ、構わぬよ」
「ありがとうございます!」
緋が校長に頭を下げた。
※ ※ ※
「終わったのだ。手伝ってくれてありがとう七菜!」
「そんな!?」
七菜が謙遜する。
「では、体育館に行こう」
「はい」
破耶と七菜が体育館に向かった。




