夏・闘・前・集
(なんか、いつもの……はやちゃんじゃない!)
「……夢か……」
真夜中に破耶は目を覚ます。
「わたしの異変に最初に気付いたのは里花だった。その里花が夏郷に惚れて、世界を越えて追い掛けて……わたしを逆恨みにした」
破耶は心臓に手を当てる。
「……夏郷がいなければ、わたしは今頃……」
「夏郷には感謝してもしきれんな」
破耶が窓を開ける。
「なんだ……いい風が吹いてるではないか」
破耶はクーラーを切った。
※ ※ ※
翌日。
「急にごめんよ」
「破耶に疑われるぞ? ワタシと会っていることを知ったら」
キイラがハンバーガーを頬張る。
「昨日も言ったろ? 破耶は俺を信じているし、俺も破耶を信じてる」
夏郷はホットドッグを食べる。
「朝早くから連絡を寄越してきたとおもったら、里花の処遇を教えてくれなんて……お人好しね」
「キイラも人のこと言えないけど」
「……傷害の件は二人の希望で知らせてないから問われないけど、ウイルスの件は色々と問われるわね。とはいえ、終了するゲームのデータを破壊しようとしたりだから重くはないでしょ」
「そうか。わかった」
夏郷はメールを打つ。
「あらら? 破耶にメール?」
「皆にメールをね」
「皆?」
「せっかくだから海に行こうかなってね」
「ふーん」
「キイラも行かないか? たまには息抜きしないと駄目だよ」
「迷惑じゃなくて?」
「迷惑じゃないよ。大勢で行ったほうが楽しいからね」
メールの返信が届く。
「皆、返信が早いな。……明日なら皆、都合つくみたいだ」
「明日ならワタシも空いてるわ」
「よし! それじゃあ決まりだ」
夏郷がメールを送った。
※ ※ ※
翌日。
「しかし暑いわよね。海を前に、汗を流しているのが勿体ないわよ」
「入ればいいじゃないか。眼鏡を外して水着をさらけ出せば!」
「……砂に埋めるわよ? 新田」
千景の鋭い目が新田を捉える。
「泳がないんですか? 千景先輩」
七菜が訊く。
「人前で水着になる勇気がないのよ」
「それは同感です」
七菜は身体に巻き付けているタオルをキツくする。
「七菜ちゃんは健康体だから見せても問題ないの! ウチは日に焼けたくないだけ」
美岬も座り込みながら海を見つめる。
※ ※ ※
「気持ちいいぜ!」
「泳ぎ上手いね、緋。僕はカナヅチだから羨ましいよ~」
緋の泳ぎを見て、偵徒は羨ましがる。
「海に入るだけマシだぜ? 水着を着ていながら、海に入ろうとしないのが砂浜にいるんだからよ」
緋が砂浜に居る七菜たちを見て言った。
「照れてるんだよ。女性にとって、人前で水着になることは勇気がいるから」
そう言いながら、海乃は水着姿で海を満喫している。
「海乃さん? 言ってることと、やってることが矛盾してるんだけど」
「紅蓮も青山も私の水着姿に興味ないだろう?」
「そんなわけじゃ~!?」
「なんだっていいわよ。海に入るのは自由なんだから」
キイラは海に浸かる。
「キイラは平気なのか?」
緋が訊く。
「裸じゃないもの。水着を着る以上、おもいっきり泳ぐわよ!」
キイラは泳ぎだす。
「泳ぎなら私も負けてないはずだ。キイラ、少し競おうか」
海乃が準備を整える。
「受けてたつわ!」
キイラと海乃は泳ぎ始めた。
「元気だな、海乃さん」
そう言いながら、緋は砂浜に座る七菜を見る。
「おーーい! 一緒に入ろうぜ、七菜」
緋が大声で呼ぶ。
※ ※ ※
「誘われてるよ? 七菜ちゃん」
「……ばか!」
七菜はタオルを取った。
「うわー! 七菜ちゃんの水着可愛い!」
美岬が感動している。
「見せつけてやっちゃいなさい!」
千景が背中を押す。
「行ってきます」
七菜が海に入る。
「どうだ? 海は気持ちいいだろ?」
「悪くはないな」
七菜の視線に夏郷が映る。
「夏郷先輩は入らないんですか?」
七菜が破耶に訊く。
「夏郷は泳げないのだ。だけど、海を眺めるのは好きだから楽しんでいる」
砂浜で座る夏郷を見ながら破耶が言った。
※ ※ ※
「玲衣と愛生ちゃんは何処まで飲み物を買いに行ったのかしら?」
千景が言う。
「ナンパでもされてるんじゃないかな?」
夏郷が言う。
「海の家でナンパ? 夢物語じゃあるまいし」
「意外に多いみたいですけど?」
「ごめん! 待たせた!」
玲衣が飲み物を抱えて戻ってきた。
「話し込んじゃいました」
愛生と一緒に意外な人物が来た。
「皆、久しぶりだね」
「あら!? 奏!!」
千景が驚く。
「たまたま海の家でバイトしていたの。まさか会うなんて思わなかったよ」
「なんだ……奏が玲衣と愛生ちゃんをナンパしていたんだ」
夏郷が奏をからかう。
「もう、からかわないで」
奏は少し嬉しそうに言った。
「ナンパか……。ウザいのに絡まれる前に」
美岬がタオルを取る。
「偵徒! 海を楽しむわよ!」
美岬が海に入っていった。
「やっぱり来てよかったよ。皆、楽しんでいて良かった」
夏郷は潮風を受けながら海を眺めた。




