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お祭りの次の日。
いつも夜の夫婦の会話時間にて。
「次の休みの日にタコパしよ!」
「たこば?」
「たこ焼きパーティー。お祭りの夜にも話したでしょ。日本で食べるお祭りグルメ!」
と限定されてるわけじゃないけど。
「たこ焼き食べよう! 作るよ、わたし。上手じゃないけど、やってみせるよ!」
おいしいものを食べるなら出来立てがいいでしょう。
買ってきたものとか冷凍食品のたこ焼きは量も少ないし、せっかくならお祭りリベンジ。楽しいことがしたい!
暦が違うから比べられることでもないけど、シフト制のハチローくんと、土日休みのわたしとではなかなか休みの日が合わない。
でも日本で言うなら次の土曜日には休みが重なる。
「トウメさんも叔父さんも誘ってみんなで一緒に食べてみない? どうかな。あんまり興味ない?」
「興味はある」
迷いのない返答。うれしい!
「じゃあ、やろう! 誰かほかに誘いたい人いる? 一人二人なら増えても平気だし、たこ焼きはみんなで食べてもおいしいよ」
「……いや。特にいない」
「そう?」
結婚して半年。この家には……というより、叔父さんの家にはよく人が集まることが分かった。その中にはハチローくんの同僚? 友達? もいるってトウメさん情報もあるんだけど。
ちなみに一度、挨拶しようとしたらハチローくんがむちゃくちゃ嫌がった。
なんですか、紹介するには恥ずかしい妻ですか、わたしは。と軽くショックだったけど、叔父さんからも、今はやめておけと言われて、そのままずるずるときている。
「そういえば昨日なんだけど」
ピクリ、とハチローくんの眉毛が動く。
あんまり昨日のことには触れたくない感じなのだ。
まあ、お互いに大変だったし気持ちは分かるんだけど、それでも一応、はっきりさせておきたいというか……。
「ハチローくんの友達? みたいな人に助けてもらったの」
「……ああ。ココノツだろう」
九つ? ……ああ! ココノツって名前か!
「やっぱり友達だったんだ」
「友達じゃない。ただあいつも城で働いているんだ」
「え、あの子もブシなの?」
ハチローくんといい、ブシって低年齢化してる?
「違う。あいつはトノの身の回りの世話や雑用をしている中の一人だ」
昔で言うところの「小姓」みたいなことかな。
「昨日、ココノツくんは大丈夫だったのかな? あの喧嘩に巻き込まれなかった?」
「あいつならうまく逃げた。タケルさんが心配することじゃない」
「そう? 巻き込まれなかったんならよかったけど……。そうだ、あとお礼も伝えてもらっていいかな? 助けてもらったわけだし……。あ、なんかお礼の品とかあったほうがいいよね」
今日のおやつはチョコマシュマロだ。。
ハチローくんは慣れない触感に眉根を寄せていたけど、また手が伸びているから嫌なわけじゃないと思う。
「これとか持っていく?」
「必要ない」
「でも……あ、もっといいお菓子のほうがいいかな」
「必要ない」
あ、これはもうずっと「必要ない」しか言わなくなるパターンだ。
「うん、まあ、それならいいか」
ハチローくんが持っていきたくないなら、これ以上は無理強いしてもな。
「でも、お礼は伝えてね? 本当はわたしが直接言うべきなんだろうけど……」
「会う必要ない」
……ここでもそうですか。
ほんとになに。紹介できない妻ですか、もう!
ハチローくんが言うなら会いませんよ。そもそも会うキッカケもないしね!
……なんて、昨日は思っていたんだけど。
「また会ったね、奥さん」
残業なしのいつもより少し早めの帰宅。
祠に咲いたホムラの花ももう消えて、いつもの夜。
祠から出ると母屋の縁側に立っていた人が、地面に下りて近付いてくる。
庭の松明が――夜になると灯してくれている――その人の顔をはっきりとさせる。
細面に切れ長の目、薄い唇は両端が軽く上がっている。ひょろりとして、わたしより背も高いけど、ハチローくんと同年代だろう。
また会ったねって言葉に、この声。
「ココノツくん?」
「正解。よくおれの名前知ってるね」
「ハチローくんに教えてもらったから」
「へえ……」
ココノツくんはニヤニヤと笑った。
唇の形からも元々笑っているような顔立ちの子みたいだけど、このニヤニヤ笑いはなんというか……嫌な感じだ。でもでも!
「あのときは助けてくれてありがとう」
「え? ああ……どういたしまして。でも、あなたを助けたのはハチローくんでしょ」
「でも、ココノツくんも助けてくれたでしょう」
「意味は無かったけどね」
「意味はあったよ。わたしは助かった」
あの中で、一人からまれ続けていた中で、助けてくれる人がいたことは本当に嬉しかったし安心した。
「警戒していたのに?」
「それはそれ」
「ハハ。確かにね。警戒は大事だよ。持つのが遅かったけどね」
事実とはいえ一言多い子だな。ハチローくんの素直さを見習ってほしい。
「あの後、大丈夫だった? ケンカに巻き込まれなかった?」
ハチローくんからも聞いているけど、一応本人にも確認。
「大丈夫大丈夫。ハチローくんが来た時点で逃げてたし。ハチローくん、マジギレしてたから、逃げないとやばいって思ったんだよね。大正解だった」
ニヤニヤとずっと笑っていたココノツくんは腰を曲げて、わたしと目を合わせた。
思わず一歩下がる。
「なんか、意外だよなー」
「……なにが?」
「ハチローくんの奥さん。おれたちの間で――ってか、城中ですごい噂になってたんだよ。あのトノ第一のハチローくんを変えた相手。誰だって興味沸くよね?」
「ハチローくんは相変わらずトノ第一だけど……」
「寝ずの番をしなくなったのに? そんなのトノ以上の相手ができたってことだろ。それが……ねえ」
そこから先が続かない。
ただ雰囲気が「こんなのがトノ以上?」と言っている。
これはケンカ売ってる? 売ってるよね? え、買う? 買っちゃう?
でも、わたしは平和主義の大人! ですから!
「毎日の寝ずの番はやめただけでしょう。そもそも夜番の人がいたわけだし、そんなことする必要がなかったって分かっただけ」
「あなたに会う前は分かっていなかったって? ハチローくんのこと馬鹿にしてんの?」
「そういうことじゃなくて」
あのときハチローくんが抱えていたものを、ここでわたしが勝手に話すわけにはいかないし、どう説明しようか迷っているとココノツくんが言った。
「トノを守ることは、この世界に住む全員が持つ本能だ。目の前でトノが殺されそうになったハチローくんが寝ずの番をするのは当然だよ。元々、ハチローくんはトノへの忠誠心が誰にも負けないくらい強かったんだから。そんなハチローくんが寝ずの番をやめるなんて、おかしいだろ」
段々と語気が荒くなっていく。
……なんか引っかかる態度をとる子だと思ってたけど、そうか。
この子、怒っているんだ。




