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7

 お祭りの次の日。

 いつも夜の夫婦の会話時間にて。


「次の休みの日にタコパしよ!」

「たこば?」

「たこ焼きパーティー。お祭りの夜にも話したでしょ。日本で食べるお祭りグルメ!」


 と限定されてるわけじゃないけど。


「たこ焼き食べよう! 作るよ、わたし。上手じゃないけど、やってみせるよ!」


 おいしいものを食べるなら出来立てがいいでしょう。

 買ってきたものとか冷凍食品のたこ焼きは量も少ないし、せっかくならお祭りリベンジ。楽しいことがしたい!

 暦が違うから比べられることでもないけど、シフト制のハチローくんと、土日休みのわたしとではなかなか休みの日が合わない。

 でも日本で言うなら次の土曜日には休みが重なる。


「トウメさんも叔父さんも誘ってみんなで一緒に食べてみない? どうかな。あんまり興味ない?」

「興味はある」


 迷いのない返答。うれしい!


「じゃあ、やろう! 誰かほかに誘いたい人いる? 一人二人なら増えても平気だし、たこ焼きはみんなで食べてもおいしいよ」

「……いや。特にいない」

「そう?」


 結婚して半年。この家には……というより、叔父さんの家にはよく人が集まることが分かった。その中にはハチローくんの同僚? 友達? もいるってトウメさん情報もあるんだけど。

 ちなみに一度、挨拶しようとしたらハチローくんがむちゃくちゃ嫌がった。

 なんですか、紹介するには恥ずかしい妻ですか、わたしは。と軽くショックだったけど、叔父さんからも、今はやめておけと言われて、そのままずるずるときている。


「そういえば昨日なんだけど」


 ピクリ、とハチローくんの眉毛が動く。

 あんまり昨日のことには触れたくない感じなのだ。

 まあ、お互いに大変だったし気持ちは分かるんだけど、それでも一応、はっきりさせておきたいというか……。


「ハチローくんの友達? みたいな人に助けてもらったの」

「……ああ。ココノツだろう」


 九つ? ……ああ! ココノツって名前か!


「やっぱり友達だったんだ」

「友達じゃない。ただあいつも城で働いているんだ」

「え、あの子もブシなの?」


 ハチローくんといい、ブシって低年齢化してる?


「違う。あいつはトノの身の回りの世話や雑用をしている中の一人だ」


 昔で言うところの「小姓」みたいなことかな。


「昨日、ココノツくんは大丈夫だったのかな? あの喧嘩に巻き込まれなかった?」

「あいつならうまく逃げた。タケルさんが心配することじゃない」

「そう? 巻き込まれなかったんならよかったけど……。そうだ、あとお礼も伝えてもらっていいかな? 助けてもらったわけだし……。あ、なんかお礼の品とかあったほうがいいよね」


 今日のおやつはチョコマシュマロだ。。

 ハチローくんは慣れない触感に眉根を寄せていたけど、また手が伸びているから嫌なわけじゃないと思う。


「これとか持っていく?」

「必要ない」

「でも……あ、もっといいお菓子のほうがいいかな」

「必要ない」


 あ、これはもうずっと「必要ない」しか言わなくなるパターンだ。


「うん、まあ、それならいいか」


 ハチローくんが持っていきたくないなら、これ以上は無理強いしてもな。


「でも、お礼は伝えてね? 本当はわたしが直接言うべきなんだろうけど……」

「会う必要ない」


 ……ここでもそうですか。

 ほんとになに。紹介できない妻ですか、もう!

 ハチローくんが言うなら会いませんよ。そもそも会うキッカケもないしね!



 ……なんて、昨日は思っていたんだけど。



「また会ったね、奥さん」


 残業なしのいつもより少し早めの帰宅。

 祠に咲いたホムラの花ももう消えて、いつもの夜。

 祠から出ると母屋の縁側に立っていた人が、地面に下りて近付いてくる。

 庭の松明が――夜になると灯してくれている――その人の顔をはっきりとさせる。

 細面に切れ長の目、薄い唇は両端が軽く上がっている。ひょろりとして、わたしより背も高いけど、ハチローくんと同年代だろう。

 また会ったねって言葉に、この声。


「ココノツくん?」

「正解。よくおれの名前知ってるね」

「ハチローくんに教えてもらったから」

「へえ……」


 ココノツくんはニヤニヤと笑った。

 唇の形からも元々笑っているような顔立ちの子みたいだけど、このニヤニヤ笑いはなんというか……嫌な感じだ。でもでも!


「あのときは助けてくれてありがとう」

「え? ああ……どういたしまして。でも、あなたを助けたのはハチローくんでしょ」

「でも、ココノツくんも助けてくれたでしょう」

「意味は無かったけどね」

「意味はあったよ。わたしは助かった」


 あの中で、一人からまれ続けていた中で、助けてくれる人がいたことは本当に嬉しかったし安心した。

「警戒していたのに?」

「それはそれ」

「ハハ。確かにね。警戒は大事だよ。持つのが遅かったけどね」


 事実とはいえ一言多い子だな。ハチローくんの素直さを見習ってほしい。


「あの後、大丈夫だった? ケンカに巻き込まれなかった?」


 ハチローくんからも聞いているけど、一応本人にも確認。


「大丈夫大丈夫。ハチローくんが来た時点で逃げてたし。ハチローくん、マジギレしてたから、逃げないとやばいって思ったんだよね。大正解だった」


 ニヤニヤとずっと笑っていたココノツくんは腰を曲げて、わたしと目を合わせた。

 思わず一歩下がる。


「なんか、意外だよなー」

「……なにが?」

「ハチローくんの奥さん。おれたちの間で――ってか、城中ですごい噂になってたんだよ。あのトノ第一のハチローくんを変えた相手。誰だって興味沸くよね?」

「ハチローくんは相変わらずトノ第一だけど……」

「寝ずの番をしなくなったのに? そんなのトノ以上の相手ができたってことだろ。それが……ねえ」


 そこから先が続かない。

 ただ雰囲気が「こんなのがトノ以上?」と言っている。

 これはケンカ売ってる? 売ってるよね? え、買う? 買っちゃう?

 でも、わたしは平和主義の大人! ですから!


「毎日の寝ずの番はやめただけでしょう。そもそも夜番の人がいたわけだし、そんなことする必要がなかったって分かっただけ」

「あなたに会う前は分かっていなかったって? ハチローくんのこと馬鹿にしてんの?」

「そういうことじゃなくて」


 あのときハチローくんが抱えていたものを、ここでわたしが勝手に話すわけにはいかないし、どう説明しようか迷っているとココノツくんが言った。


「トノを守ることは、この世界に住む全員が持つ本能だ。目の前でトノが殺されそうになったハチローくんが寝ずの番をするのは当然だよ。元々、ハチローくんはトノへの忠誠心が誰にも負けないくらい強かったんだから。そんなハチローくんが寝ずの番をやめるなんて、おかしいだろ」


 段々と語気が荒くなっていく。

 ……なんか引っかかる態度をとる子だと思ってたけど、そうか。

 この子、怒っているんだ。


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