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2話 呪われた姉と祝福を受けた妹

「はぁ……スミレさん、私はそこまで難しいことは言いつけていませんよね?」

「……ごめん、なさい」

 帰宅早々私は母に叱られていた。

 言い返すことも出来ずに私はただ謝るだけ。

「ただ買い物に行かせただけで何故こんなに時間がかかるんですか、全く……」

 確かに途中で荷物をぶちまけて時間をロスしたけどそれがなかったとしてもこうして怒られる未来は変わらなかっただろう。

 いつもそう、そもそもが設けられた制限時間が私の足ではどうやっても間に合わない時間なのだ。

 そしていつもより遅かったことが母の逆鱗に触れていつもの説教もいつもより長くなっていた。

「お母様、やめてあげてください」

 そんな中、私達の間に入ってきたのは妹のネリネだった。

「ネリネさん」

「お姉さまは石弱病……呪われた身です、本当であれば身体が辛く動くのも大変なのです、そんな中わたくしとセイガ様の為に使いをしてくれている、町の人達にあの右手を見せてまで、ですから責めるのはやめてあげてください」

「……」

 ネリネの言葉にズキリと右手が疼く。

 ネリネはいつだってそう、私を可哀想な人、という括りで庇いたてるようにしながらそのつてはただ私を貶しているだけ。

 私の右手に向けられた瞳だって侮蔑の色がよく見てとれる。

「……ネリネさんは思慮深くて本当に自慢の娘ですね、その桃色の頭髪と瞳も、神にまで愛されているなんて本当に良い子です」

 ネリネの登場で絆された母は早々に私への説教を切り上げてネリネを褒め、頭を優しく撫でる。

 いつか、ずっと昔にはその手が私に向けられたことだってあったかもしれないけど、今は私に向けられることなんてないそれに、昔は妬いた時もあった、今は、して欲しいと思うこともないけれど。

「それに比べてスミレさんは……言いつけもろくにこなせずその右手だけじゃなくて瞳も濁っていて見ていて嫌になる、どうして姉妹でここまで差があるのか……」

 そう、私は呪われている。

 この世界には石弱病、というものがある。

 その病を患ったものは身体が石のように固くなりヒビ割れていくという奇病のひとつ。

 身体も弱く、体力もない。

 私の身体のヒビはある日突然右手に現れた、まだ右手から広がってきてはいないものの広がるのも時間の問題だろう。

 その証拠に右手は日に日に不自由になってきている。

 君の悪い灰色に石化しヒビの入った身体、醜いそれを人達は神に呪われた証だといつからか嘲笑するようになった。

 ネリネは髪も瞳も美しい桃色をしているけど私の頭髪は黒髪だし、瞳は濁ったような灰色だ、どこを見ても決して美しいとは言えないそれ、ふと、あの人はこんな私の何を見て綺麗だと言ったのか、そんなことが気になったけど、答えを知る術はない。

「お母様、セイガ様がいらっしゃいますわ、お姉さまのことは一度置いておいて早く行きましょう」

 ネリネは言いながら母の手を引く。

 時計を見ればもう少しでセイガ様がいらっしゃる時間だった。

「ええそうね、セイガ様を待たせるわけにもいかないわ」

「お姉さまはゆっくり休んで、セイガ様に会う……必要もないから」

 早々に踵を返して歩きだす母のほうを向きながら横目に私を見てネリネは笑顔でそう告げる。

「……ええ」

 それは一概に来るなと言われたようなもので、私はただそう返して頷くしかない。

 それもその筈、こんな呪われた身体で龍の前には出られない。

「……」

 二人がいなくなってから、私は昔に思いを馳せる。

 私がまだ、呪われていなかった頃の記憶に。


「スミレはお父さん似だから、きっと苦労することになるだろうなぁ」

「えー、なんでー」

 お父さまは言いながらいつだって優しく私の頭を撫でた。

 あの時はその言葉の理由は分からなかったけど、神の加護を受けた妹、両親……私の祖父母を亡くして家のことばかりにかまけるようになった母、それを見て、父はいずれ起こるであろうことを察していたのだろう。

「……あのなスミレ、いつか人は表面上じゃなくてちゃんとお前を見てくれる人が現れる、いつだってお父さんはスミレの味方だ、困ったときは、この言葉を思い出して折れることなく、強く生きて欲しい」

 父はこの言葉を残してすぐ、患っていた病を悪化させて亡くなった。

 それから父の言ったことは本当になった。

 父が亡くなってから母は妹にかまけるようになり、それからしばらくして石弱病を発病して、本当の意味でお荷物になった私に母が笑いかけることはなくなった。

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