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『参ったな・・・橋が壊れている。ここ最近の台風の影響があったのかもしれん。』
峠を下って行く最中、街へ行くためにどうしても通らないといけない橋の前に来ていた。橋自体はそんなに長いわけではないが紐の一部がちぎれ、足元の木は割れていたり、腐っているように見えるものもあった。
『このまま渡ったら体重で紐が千切れ下の川に真っ逆さまに落ちてしまうかもしれん・・・。』
『そんな・・・。』
ここにきてこんな足止めをくらうなんて。秋道さんはしばらく考えこんでいた。
『無理に橋を渡るよりもここは時間はかかるが下まで降りて川を渡った方が安全かもしれない。下の川は浅いので歩いて渡れるだろうがもし上から落ちたら衝撃で命を落としてしまう事も考えられる。』
『そうですか・・・わかりました、行きましょう!』
なかなか思い通りにはいかない事に焦りは感じたけど着実に一歩ずつ時継様には近づいている。その想いだけが足を動かしていた。
『ゆき、危ないからここは慎重に渡ろう。』
『はい!』
橋の下に降りてきてからは服を手繰り寄せて素足で川を渡った。真水は冷たくて足が痛いのと水辺の石に藻が張っていて歩くとツルツル滑って転びそうになった。
『よし、あとはもう一回上に登って真っ直ぐ歩けば屋敷に着くぞ!』
橋が想定外に壊れていた事で日中に屋敷に辿り着くはずだったけど気付いたら夕方が近い。
『結納はもう終わってしまったかもしれないが夜には庭で宴が開かれるだろう。』
宴・・・か・・・。
時継様・・・祝言が滞りなく開かれているという事は時継様も納得して千代と一緒になるという事ですか?
そんなはずはないと信じたい自分もいたけど時継様がどう考えているかなんて会ってみないとわからない。
屋敷が近くなってきて感じたのは時継様に会えたらまず先になんて言葉をかけたらいいんだろうという事だった。
時継様・・・私と時継様が一緒になるのは障害がありすぎて今すぐには無理な事かもしれない。これから乗り越えていかなきゃいけない事は考えたくない程沢山あるのかもしれない。でも・・・千代とは夫婦にならないで・・・どうか間に合って。私はまだ・・・ちゃんとこの世界に生きてる!
気力を振り絞り歩き続けた先にうっすらと街の灯りが見えてきた。
『ゆき・・・よく耐えたな、もうすぐ街だ、屋敷まであと一踏ん張りだぞ!屋敷に着いたら私がひっそりと時継様を呼んでくる。自分の部屋で待っていろ。』
『わかりました・・・秋道さん。』
『ん?どうかしたか?』
『本当に色々とありがとう・・・。』
『礼には及ばぬ・・・そのかわり一つ約束してくれ。』
『・・・約束?』
『ああ、屋敷に着いて時継様に会うからには・・・必ず、幸せになれよ。』
秋道さんに優しい瞳で見つめられ、私はゆっくりと頷いた。
みんなが繋いでくれた大切なバトン。必ず、やり遂げてみせる。




