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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
合宿編
32/474

無人島

 豪華客船でキャッキャウフフしていた夢のような時間は一瞬にして終わり、豪華客船は合宿先の港へと到着する。


 港を見た第一印象は、人気がない、という印象だった。

 わざわざ豪華客船で行くのだから、ただ東京に向かうのではないだろうし、3時間もかかると言っていたから離島か何処かへ向かっているのだろうと思っていたが、まさか無人島に到着するとは…


 ヤシの木のような植物から、ハイビスカスの花。南国系の植物や花々が数多く育っているその景色を見た悠馬は、感嘆の声をあげた。


「すごい…」


 凄すぎる。綺麗に育っている花々や、植物を見る限りでは綺麗に管理が行き届いているのだろう。

 無人島とはいっても、日本支部がきちんと管理して、合宿に使用しても何の問題もないと判断するレベルなのだから、当然のことか。


 そして、港からほんの少しだけ見えている、木造の建物。おそらくあそこで寝泊りをするのだろう、一番の不安要素であった野宿の可能性がなくなったとあって、女子生徒たちは歓喜の声を上げている。


「なぁなぁ、ちょっと暑くねえか?」


 悠馬が宿舎に向かって歩いていると、背後から通の声が聞こえてくる。

 今は出席番号順に並んでいるため、後ろは通だ。

 振り返ると、通は制服の胸元をパタパタと手で動かしながら、無人島の熱さをアピールしてきた。


「確かに、結構暑いな」


 通の言う通りだ。

 この熱さなら、中間服などではなく、夏服で合宿に来た方が良かったのかもしれないと思うほどの暑さだ。


「はぁ…くそ、1年だけだったら楽しかっただろうに、2.3年も居たら俺らの肩身が狭くなるぜ」


 悠馬の横に並んだ通は、疲れたような顔でそう呟く。おそらくプールサイドで何か言われたのか、上級生のイチャイチャを見せつけられたのだろう。


「鏡花せんせぇー、上級生と合同とかありませんよね?」


 悠馬と通のほんの少し前を歩くスーツを着た女教師に向けて、通が問いかける。

 鏡花は振り向く素ぶりなどは一切見せずに、歩きながら答えた。


「それはわからないな。だが、宿泊する階層も綺麗に分けられているから、接触することもほとんどないだろう」


 それを聞いて歓喜する通。一体どれだけ上級生のことを嫌っているんだろうか?


「さ、着いたぞ。お前ら1年は1階の大広間に集合。10分後に部屋分けを発表するから、トイレに行きたいものは先に行っておくように。いいな?」


『はーい』


 正面玄関が見えてきて、鏡花がほんの少しだけ笑う。和気藹々としている女子たちの元気な返事を聞いた鏡花は、そのまま先に靴を脱ぐと、何処かへと向かって行く。


「うわぁ!めっちゃ綺麗じゃん!」


「ひと昔前の建物って感じで、いい雰囲気だよね!」


 宿舎はどちらかと言うと、少し古い木造の建築物といった造りで、ほんのりと木々の香りを漂わせ、どこか懐かしいような空間になっていた。


 そんな中で、靴を脱ぐとすぐに、一度も顔を見たことのない教員たちが立っていた。

 おそらくは上級生の担任教師なのだろう。

 その複数の教員たちが誘導しているルートに従い、Aクラスの列は広間へと入って行った。


 その際、当然、と言うべきなのか、普通のホテルには配置されている、受付のお兄さんやお姉さんは見かけず、見かけるのは稀に通り過ぎる清掃員くらいのものだった。


 広間へと入ると、既に整列しているCクラスとBクラスの生徒たち。

 Bクラスの横に整列した、Aクラスの生徒たちは、想像以上の待遇に、興奮を隠しきれずにいた。


「この場にいないものはいるか?」


 全員が並び終え、静まり返った頃に声を発したAクラスの担任、千松鏡花は、壇上に上がると、一度礼をする。


「…全員揃っているようなので本題に移させてもらう。知っての通り、来月、異能島の三大イベントと言われる一角の体育祭。世間では異能祭と言われているイベントが開催される。今日この無人島に来た理由も、各々が規律、集団行動を如何に守り、また各々がどれだけの力を保有し、どの競技に向いているかを把握するための合宿だ」


 その話を聞いて、把握するためだけならかなり楽だと判断したのか口元を緩め出した生徒たちは、今日の夜何する?などとお気楽モードで移行し始める。


 散々厳しいと言われ続けてきた為、鏡花の今の話が拍子抜けだったのだろう。


「今日の夜、遊べるといいな」


 お気楽な声が聞こえたのか、不敵な笑みを浮かべそう発した鏡花は、最後に一礼すると次にBクラスの担任、メガネでインドアっぽいおじさんが壇上に立つ。髪の毛はほとんど薄毛で、多分かなり苦労をしているのだろう。


「えー。続いて。今日泊まる部屋が記入されたプリントを配ります。大体は名前で組まれて居ると思いますが、仲の良し悪しは知らないため完全ランダムです。プリントが配られた生徒から速やかに部屋に入って待機するように」


 出席番号の都合で1番前の悠馬は、プリントを受け取るとそれを後ろに回し、自身の部屋を確認する。101号室。おそらく1番角の部屋だろう。

 その確認を終えた悠馬は、すぐに外へと出る。

 先程通った道を辿り、正面玄関まで行くと、正面玄関から左、つまり広間の右側に悠馬の泊まる部屋があるらしい。案内経路に従い歩こうとすると、そこは渡り廊下のようになって居て、廊下からは整えられた木、ハイビスカスの花などが目に入る。


「ハイクオリティ」


 合宿といえば、クソ田舎で、虫がいっぱい居そうなひび割れが目立つ宿で、仲も良くないメンバーで部屋割りがされた闇鍋のような状態をイメージしていた悠馬だったが、ここまできちんと整理された田舎となると、何だか嬉しい気持ちにもなってくる。


 通や八神、連太郎と話すこともなく廊下へ出たということもあって、まだ人通りの少ない廊下を歩いていた悠馬は、自らの部屋へと向かう途中にある、渡り廊下へと差し掛かり、そこから見える綺麗な海と南国系の植物を目にする。


 目の保養だ。一生こんなところで生活できたら、きっと何も考えずにゆっくりと過ごせるんだろうな。

 勝手な妄想を広げ始めた悠馬を現実へと引き戻したのは、1人の男子生徒の声だった。


「おい暁ー!お前同じ部屋だろ!一緒行こうぜ!」


 渡り廊下で立ち止まっていた悠馬に背後から声をかけてきた男。通よりもほんの少し背は高いが、男としてはほんの少し背が低い金髪の外国人の男。

 そしてその外国人の横を、不服そうに歩く通よりも少し髪が長く、悠馬ほどの身長をした目のつり上がった男子。


 悠馬は外国人を見たとき、今日の出来事を思い出した。

 多分、南雲が探していたのはコイツだったのだろう、見るからに方向音痴そう。


 勝手な偏見を抱きながら、なぜ名前を知られているのかわからない悠馬は、相手に何と話しかければ正解なのかがわからず、少し黙り込む。


「俺アダム、よろしくなー!」


 すると、悠馬が反応に困っていると思ったのか、自己紹介を始めた金髪の外国人。


 アダム…確か入学試験の実技試験の時、赤の王がそんな名前だったはずだ。

 と言うことはつまり、コイツはレベル10の能力者ということだ。


 見る限りでは、あまり強そうに見えないが、とんでもない異能を持っているのだろう。


「俺は碇谷俊平。コイツと同じBクラスだ。よろしくな、暁」


 続いてアダムの横にいるつり目の男子の自己紹介。どうやらアダムのことがあまり好きではないらしい、コイツ呼ばわりをしてアダムと目を合わせない事から、嫌いだということがひしひしと伝わってくる。


「ああ。よろしく、アダムと碇谷」


「おう!いやー、3人部屋かー、俺こういうの初めてだからウキウキしてんだよな!碇谷もそうだろ?」


「お前と一緒にするな!俺はウキウキなんてしてない!」


 ニヤニヤと話すアダムに怒る碇谷。2人は性格的に相性が悪いようだ。

 渡り廊下から歩き始めた3人は、そのまま101号室へと向かった。


 全員が部屋に入る。

 想像通り、というか、少し古びているというか。木製のベッドが3箇所に並べられ、3人が見合うような形で並んでいるベッドに座った後、アダムはベッドにぴょんと飛び乗ると、悠馬と碇谷がベッドに座ったのを確認して話を始めた。


「お前ら異能祭で出場する種目決めたか?」


 異能祭の種目決め。悠馬は種目決めを軽視し、基本何でもいいやーなどと欲のないことを言っているが、他の男子生徒たちはそうではない。


 なにしろ、異能祭は自身のアピールの場。可愛い女の子たちからキャーキャー言われるのも、お偉方たちに目を向けて貰えるのも、出だしが重要なのだ。


 今後の学生生活、スクールカーストで上位を目指したいなら、異能祭で目立って一目置かれる必要がある。

 そうすれば男の夢であるハーレム生活も、将来の理想の生活も待ったなし。

 最高な生活を送ることが出来るだろう。


「俺は身体強化系の異能だからな。リレーでぶっちぎりの1位を取る」



 碇谷は自身の異能が最大限にアピールできるリレーを選ぶようだ。

 自身の異能に自信があるのか、もう1位になった時のインタビューの内容を考え始める碇谷。


 それを横でケラケラと笑いながら見たアダムは、悠馬の方を見て首を傾げた。


「暁はどうすんだー?」


「俺?俺はフィナーレだっけ?あれに出たいなーとは思ったけど、他の競技については詳しく知らないんだよな」


「はぁぁああ!?お前フィナーレ出るとか言ってんのか!?」


 仰け反るアダムと、驚いたように飛びついてくる碇谷。まるで悠馬のことを頭の狂った人間を見るような視線を向けてくる。


「なんだよ…」


「あれは上級生がアピる競技だよ!バカか!」


 悠馬の肩を揺する碇谷。

 そうなのだ。悠馬はレベルが高ければ1年生でも出場可能なんだーなどという甘い考えだったが、この異能島の、特にナンバーズは自意識過剰が多いことを忘れてはならない。


 1年の悠馬が出たいなどと言い始めれば、当然よく思われないだろうし、嫌がらせも頻発することだろう。だから1年生は、目立ちたいと言っても、上級生に目をつけられないように目立たなければならないのだ。


 上級生に目の敵にされると、良いことなんて1つもないのだから。


「いや、楽しそうだから出たいって思っただけで…」


 特にアピールをしたいなどという気持ちが一切なかった悠馬だが、自らが進んで出たいなどと発言をすれば面倒ごとに巻き込まれそうなことに気づき、口を紡ぐ。


「じゃあ、俺は一般競技にでも出ようかな」


 通常の種目なら文句なんて言われないだろう?

 別に自分が出なくても、外からフィナーレを見学できればそれで構わないと思っていた悠馬は、一般競技に出ると話を始める。


「暁、お前、落差すごいな…」


 ハイレベルなフィナーレから、あまり異能が得意じゃない人向けの一般種目へと移る悠馬。

 まさかフィナーレをやめて一般競技に移るとは思っていなかった碇谷は、微妙な表情をしていた。


「お!俺と同じじゃん!俺は綱引きに出たいんだよな!」


 碇谷とは違って、くしゃくしゃな笑顔で歯を見せたアダムは、綱を引くような姿勢をとり、「暁は何に出るんだー?」などと、遠足気分で話を進めていく。


 イケメン外国人、赤の王。とくれば、自分のようにフィナーレを選択するんじゃないか、なんて1人で考えていた悠馬だったが、アダムはそんな気は全くないらしい。


「俺はリレーかな。異能を使わない逃げ足ならそこそこ自信がある」


「ははっ!いきなり逃げ腰かよ!」


 逃げ足が速いと言った悠馬がそんなにも面白かったのか、ゲラゲラと笑うアダムは、やや過呼吸になりつつ、お腹を抑える。


「はーっ、はーっ、お前、俺殺す気だったろ?」


「お前が1人でツボっただけだろ!」


 ツッコミを入れた悠馬を見て、クスッと笑う碇谷。知らない人と同じ部屋ということもあり、ほんの少しだけ緊張していた悠馬だったが、早い段階で2人と打ち解けられて、ご満悦のようだ。


『1学年の全生徒は、13時ちょうどに体操着で中央グラウンドにお集まりください』


 アダムがひと通り笑い終えた頃、館内放送が響き渡り、3人は顔を見合わせる。


 時刻は12時40分。若干ギリギリな放送に文句を言ってやりたい、というか、今回の二泊三日のこの合宿。生徒側には一切日程が知らされていないため、事前に日程を教えろと怒りたい気持ちだが、それを抑えて大人しく体操着を取り出した3人は、着替えを始める。


「うお、暁、お前筋肉付いてんなぁ、南雲さん程とは言わねえけど、お前強えだろ?」


「おっ、ほんとだ!南雲よりは無いな!」


「まあ、それなりに筋トレはしてるよ」


 別に隠すことでも無いため、筋トレをしていることだけを告げたが、2人を見てみると、彼らは悠馬の話など聞かずに、揉めていた。


「南雲さんにはちゃんとさん付けろよ!」


「へっへー、俺は碇谷たちと違ってさん付けなんてしなくて良いって言われてんだよー!」


「くっ!お前がさん付けしないから神宮や霜野が調子乗るんだろ!」


 どうやら、Bクラスのほとんどの生徒は南雲のことをさん付けで呼ぶらしいが、アダムだけがさんを付けずに呼ぶらしい。


 そしてその影響で、付け上がる生徒もいるようだ。

 碇谷がなぜ暴力行為を働いた南雲の擁護派なのかは知らないが、やはり南雲は南雲で人を惹きつける才能があるようだ。


「おい暁!お前もそう思うだろ!?」


「あはは、どうだろう?」


「流すな!ちゃんと答えろ!」


 なんで俺に飛び火したの!?

 軽く流そうとした悠馬だったが、碇谷が怒鳴り声をあげ、黙り込む。

 碇谷とアダムの言い合いがますますヒートアップしていく中、部屋にかかっていた時計を見た悠馬は、深いため息を吐いた。


「とりあえずお前ら、着替えろよ!」



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