魔導師オーギュスティン3
お茶を飲んでサキトやイルマリネと談笑するオーギュを見ながら、レオニエルはアルザスに「知ってるよ」と弱々しく告げる。頭を打ったのだろうか。しかし、彼はひたすらキノコの箱しか見ていない。頭を激しく打つ場面は、アルザスが知る限りでは目にしていなかった。
来客がゆっくり寛げる部屋を確保し、手配を済ませたヒタカが詰所に戻ってくる。
「先輩、手配完了しました!」
「あぁ、ありがとうクロスレイ。助かるよ」
キノコの箱を持ったまま棒立ちするレオニエルを支えているアルザスは、しっかりしろよ!と揺さぶりをかけていた。話を聞いているのか聞いていないのか、彼は「ああ」と返事だけをする。
一方で新しい来客と語り合っているイルマリネ達は、カップのお茶が無くなる頃を見計らって用意した部屋を案内しようと動いていた。
「ところで、その理知の魔書というのは、サキト様が手にしていらっしゃるものですか?」
「あ!うん。そうだよ、ベルキューズっていう魔法使いだったんだってさ!」
サキトはオーギュにベルキューズを手渡す。彼が魔書を手にしたと同時に、ベルキューズは『ふぁあおっ!?』と歓声を上げた。
「どうしたの?」
『ふぉおお…!なかなかの高い魔力を持ってんな、お前!触っただけでギンギンに力が漲ってきそうだ!』
「そ、そうなんですか…」
やはり魔法の国と別名を名乗るだけあり、その国の魔導師としてトップクラスの力を持つオーギュは触れただけで違うようだ。ベルキューズは『おうよ!』と息巻く。
バサバサと古いページを捲りながら、『なかなかの努力家のようだな!』と上から目線で言った。
「あ…ありがとうございます」
『さっき見たこいつの股間みたいに、じわじわ力が沸いてきやがる!こりゃ凄げぇや!』
「いっ…!!」
ここで変な事を口走らないで欲しい。ヒタカは顔を真っ赤にしながら、ベルキューズにやめて下さい!とあの時の状況を思い出して、羞恥心が甦り嘆くように叫んだ。サキトは溜息をつき、もう…と呆れる。
イルマリネはベルキューズの下品さに辟易しつつ、言葉を選びなさいと嗜めた。そんな話を聞きたいのではない。
『何か身体に住み着いてんだろ?魔法使いさんよ』
「お分かりですか?今少し切り離しているんですが、召喚獣と契約を交わしています。急遽こちらにお邪魔する事になって、息子を見て貰う為に置いてきちゃったんですよ」
あれ?とサキトは首を傾げる。
「結婚してたっけ?」
まだ司聖共々、独身だと思っていたが。素朴な彼の疑問に、オーギュは涼しげな笑みをしながら「養子ですよ」と答える。
「最初はなかなか懐いてくれなかったんですが、今はすっかり慣れてくれて。とても可愛い盛りですよ。次にこちらに来た際には、ぜひ連れて参ります」
末っ子のサキトにとって、自分よりも年下の子供と関わる機会が無いだけに、オーギュの言葉にふわあっと表情を明るくした。
ぽんっと手を合わせ、「ほんと!?」と問う。
「約束だよ!」
「ええ。ぜひ、仲良くしてあげて下さい」
彼らの会話を離れて聞いていたアルザスは、「子供居るんだとよ」とレオニエルの背中を突く。
「養子だと言ったぞ。あんな目付きで、中身はとても優しそうだ」
「お前、キツそうな目が好きなのか」
ほうっと顔を綻ばせたレオニエルは、「あの目がいいんだ…」と呟いていた。理解できないアルザス。それもその筈で、彼は豊満な熟女好きだ。彼の趣向とは全く噛み合わなかった。
冷え込んだ目を同僚に向けていたアルザスに、イルマリネは少し席を外すよと告げる。
「お…おう」
使ったカップを手に、オーギュは「ごちそうさまでした」と片付けようとした。イルマリネはお構い無く、と止めるが、せめて片付けさせて下さいと微笑んだ。
「とても美味しかったから」
「恐れ入ります」
「カップのデザインも素敵だ。とてもセンスがいいんですね」
まさかカップのデザインも褒めてくるとは思わず、カップを選んだイルマリネは委縮してしまった。そこまで見ていたとは。
「あまり褒めないで下さいよ。照れてしまいます」
ヒタカが詰所の扉を開け放つと、オーギュはご馳走様でしたと頭を下げた。固まって、キノコの箱を抱えたレオニエルはつい鼻息を荒げながら「はい!!」と叫んでいた。
四人が詰所から去り、扉が静かに締まると、緊張感から脱したレオニエルはあぁ…と息を吐く。
アルザスは自分の椅子にどかっと腰掛け、「大丈夫かよ?」と異常をきたした同僚に話しかけた。彼はフラフラとよろめき、まるで毒気に当てられたような様子を見せながら自分のデスクに着く。
「あのさぁ、別に人様の事をとやかく言う趣味は無いんだけどな?あの人、どう見ても男だし子供居るらしいじゃん。何なの、その恋をしちゃいましたみたいな行動は?いきなり過ぎるだろ?」
机に突っ伏し、レオニエルは再び溜息をつく。
「大丈夫かよお前?キノコ一筋じゃなかったの?」
「はぁ…」
マジかよ…とアルザスは顔を引き攣らせた。今までこんな悩ましく溜息をつく彼を見たことが無く、どう対処したらいいのか分からない。それ程、レオニエルは趣味に没頭していたのだ。
アルザスが対処に困り果てていたその時、惚けている彼の口から耳を疑う言葉が出てくる。
「踏まれたい…」
「は…?」
聞き間違いかと思った。余計対応に困る。聞き間違いであって欲しい。だが、レオニエルははっきりと変なセリフを吐き出していた。その厳めしい顔に似合わぬ、恍惚とした顔で。
「あの人に、思いっきり踏んづけられたい…」
「はあ…?」
どこかおかしい言動に、アルザスは呆然としていた。




