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魔導師オーギュスティン2

『だから言ったじゃねえか、引っ張ってやるってよ!』

 ベルキューズが自慢すると、サキトが「やるじゃない」と捕まえながら褒めた。

「転移する場所をあれこれ考えていたんですが」

『手間が省けたろ?』

 隣国の魔導師は少し照れたように微笑む。切れ長の目で、外見は怖そうに見えるが、性格は穏やかそうだ。イルマリネは改めて来客に礼をする。

「お忙しい中、お呼び立てして大変申し訳ありません」

「いえ、今は丁度手透きな時期なので…」

 挨拶を交わしている二人の後ろに居るアルザスは、自分の横に居た同僚剣士が震えている事に気付いた。培養中のキノコの箱がカタカタ揺れている。

 箱を見た後、持っている本人をちらりと見上げた。アルザスは今まで見た事がない同僚の表情に、つい「ひっ!?」と悲鳴を上げる。

「…あの目付きの悪さ…!好みだ…!!」

「はっ!?はあ!?」

 レオニエルは最近刈り込んだ坊主頭まで真っ赤にし、キノコの箱を持ったままぼうっとしていた。サキトとヒタカも突然の発言に、つい口を半開きにしてしまう。

 彼はズカズカと箱を持った状態でイルマリネと来客に詰め寄る。慌てるまとめ役は、「ち、ちょっと!?」とレオニエルを見上げた。

「あのっ、お名前は!」

「は…はい、オーギュスティン=フロルレ=アレイヤードと申します。長いのでオーギュで構いません」

「オーギュ様ですか!」

 アストレーゼンに行った時に会ってるじゃねえか…とアルザスは突っ込みたかったが、あまり覚えていないようだ。普段キノコしか見ていないあのレオニエルが、他人に向かってグイグイと迫る光景は滅多に見れるものではない。

 イルマリネはレオニエルに、「どうしたの…?」と不思議そうに問う。さすがに冷静な彼も驚いているようだ。

「ね、クロスレイ。レオニエルってあんなんだった?」

 サキトはベルキューズを抱え、ヒタカを見上げる。そんな質問をされても返事に困る彼は、すみませんと詫びた。

「レオニエル先輩、普段キノコしか見てないので…」

「キノコ…?」

「はあ…キノコが好きみたいで」

「………」

 特殊な趣味だね、とサキトは呟いた。

「お、俺はレオニエル=ウィスロ=マルローネと言います!しっ、趣味はキノコの育成です!!」

 堂々と趣味を言い放つ辺り、余程キノコが好きなようだ。ぽうっと厳つい顔を赤らめながら自己紹介をする彼を、イルマリネは唖然として見ていた。

 一方のオーギュは、少しばかり背の高いレオニエルにふっと微笑み返す。貴族出身の優雅さを兼ね備えた振舞いで、よろしくお願い致しますと言った。

「ま…まずは、折角来て頂いたのでお部屋を用意しますね。えっと…クロスレイ」

「は、はい!!」

 指名されたヒタカは、背筋をピンと伸ばし返事をする。イルマリネは慣れた様子で次々と指示を始めた。

「空いている来賓用のお部屋を一室、手配して。アルザス、お茶のご用意を頼むよ」

「えっ、俺ぇ!?」

「お茶位なら君でも出来るだろう?」

 何げに馬鹿にした言い方だった。するとそこへがっつくレオニエル。イルマリネの手を取り、懇願するかの如く申し出てきた。

「俺が!俺がやる!!」

「………」

 アルザスは豹変した仲間を、引き気味に見てしまう。オーギュは困惑しながら「ど、どうかお構いなく」と言うが、レオニエルはいそいそと大きな身体を動かしていた。

「オーギュ殿、オーギュ殿」

 急いでヒタカが部屋を手配しに行った後で、サキトはオーギュの灰色の法衣を引っ張る。オーギュは彼の目線に合わせて膝を付くと、「はい」と答えた。

「ねね、スティレンは元気にしてる?」

 久し振りに再会した聡明な王子に、オーギュは「ええ」と言葉を返す。彼は自分の国から出た剣士がかなりお気に入りのようだ。

「相変わらず元気ですよ。今は遠征中で、ちょっとアストレーゼンから離れています」

「えっ、そうなの?どこに行ってるの?」

「今はフレンリッカに依頼した物を取りに行って貰っているんです。リシェも一緒にね」

「ねえ、今度は皆でこっちに遊びに来てよ!ロシュ殿も一緒にさぁ…毎日退屈なんだよね、なかなか動けないし」

 立場上、好きなように動けないサキトに、オーギュは内心同情しながら「ぜひ」と笑った。

 レオニエルが嬉々として用意した紅茶を、イルマリネが受け取ると、彼はオーギュに自分の椅子を薦めてカップを差し出した。狭くて申し訳ありませんと頭を下げるイルマリネに、オーギュはお気遣い感謝しますと言った。

 差し出した綺麗な花の模様入りのティーセットは、イルマリネの趣味だ。温かな湯気が立ち込めるカップから、ジャスミンの爽やかな香りが漂う。

「オーギュ様、ぜひどうぞ」

「ありがとうございます。あぁ、とてもいい香りだ」

 作ったお茶を褒められ、レオニエルは卒倒しそうになっていた。よろめいている彼を、アルザスは「おい!」と支える。

 どう見ても、いつもの彼ではない。真っ赤になって固まりそうなレオニエルに、背後からしっかりしろよと叱咤した。

「あの人は特殊なキノコじゃねぇんだぞ!」

 揺さぶり、小声で彼に注意する。アルザスの彼に対するイメージは、半永久的にキノコ栽培をする人間だとしか浮かばないらしい。

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