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理知の魔書14

 なるべく周囲を刺激しないように静かに通過しようとするヒタカ。だが、ある意味怖い物知らずの命知らずに、全く空気を読まないサキトは怪訝そうに周りを見回すと、「変な場所だね」と言い放っていた。

「暗いし薄汚いし、僕には合わないよ。クロスレイ、早くお店見つけて帰ろう」

 余計な所で変な事をはっきりというサキト。わぁ!!とつい叫び、取り繕うとするヒタカ。荒くれ者の一人がじろりとこちらを批判するように目線を送ってくる。まずいです!とサキトに小声で注意し、彼の口を手で塞いだ。

 早々に魔法屋を見つけないと、と焦るヒタカの足元に空き缶が投げ込まれた。転がる缶をサキトが拾い上げ、前方に目を向けるや、その空き缶を投げてニヤニヤしていた男に向けて逆に投げ返してしまう。

 缶は回転しながら男の横の壁にぶつかり、乾いた音を立てて落下していった。

 ガランガランと地を転がる空き缶。同時に、相手が動き出す。

「ひ!!」

 つい情けない声を上げるヒタカ。いらない時にいらない事をするのは危険すぎるから止めて欲しい、と先に忠告すればよかったが、まさかこういう場所に入るとは思わなかった。もう遅い。

「人に向けて物を投げるなんて失礼極まりないね!恥ずかしいと思わないの?」

「サキト様!ここは穏便に」

 頭を抱えたくなる。同行していたのが自分ではなく、イルマリネだったらどうにかサキトを押し留めるのだろう。短気なアルザスやアーダルヴェルト辺りは喜んで諍いに参加しそうだが、こういう場面が苦手な自分はどうしたらいいのか分からない。とにかくサキトを守らなければという気持ちが先に走る。

 こんな腕っぷしの強そうなのが相手だと、前の酒場の時のようになりかねない。

「あ?投げただと?俺が投げたっていう証拠でもあるのかよ?こんな薄暗い場所で良く見えたなぁ?」

「こっち見て笑ってたのはどうしてなのさ?どう見ても君の方から故意に投げてきたようにも見えたけど?子供だからって脅せばいいとか思ってたら大間違いだよ!」

 肩をいからせながら近づいてくる筋肉の達磨のような男。サキトは自分より大きすぎる相手を負けじと見上げたまま「僕は礼儀知らずが嫌いなのさ」と言った。

「偉そうなガキだな。そんで、そこの木偶の棒は何か言う事ねぇのかよ?親だか何だか知らねぇけどよ。いきなり缶投げてきやがったんだぞ、あ?」

 …どうしようか…とヒタカは悩んだ。相手が缶を投げてきたのは確かだ。投げる際、軽い息継ぎが聞こえてきたのだから。しかしサキトも投げ返して文句をつけたので、お互い穏便に済ませたい。

 サキトはヒタカを見上げ、「ちょっと」とつつく。

「何黙ってるの、クロスレイ!主人が侮辱されてるのに」

「穏便に済ませたいんですよ…」

 まだ若い故、サキトは突っ掛かれると反射的に言い返してしまう。更にプライドも高いので、侮辱されるのは我慢ならないのだ。

 そんな若い主人よりも長く生きていて、ある程度の世渡りを知るヒタカは逆に争い事を避けていきたいと思っている。物事を穏やかに進めたいのは、普通の大人としての考え方だろう。

「随分好き勝手にガキに言わせてんじゃねえか、なあ?」

 ヒタカと身長は同じ位だろうか。肩を大きくいからせ、完全に喧嘩を売るような表情を見せてくる。

「ぶ、無礼は謝りますっ!ですが、そちらから先に投げてきたのはどうなんでしょうかっ」

「あぁ?俺が投げたのを見たのかよ!」

 狭い通路に無造作に置かれていた小型の樽を蹴り飛ばし、ヒタカを威嚇する。劣化していた樽は建物の壁に激しくぶつかり、大破した。サキトはあーあと溜息をつく。

 ヒタカは内心焦る気持ちを隠しつつ、「い、一応剣士なので!」と前置きすると続けた。

「飛んでくる風の音に、あなたの呼吸が聞こえました」

「言いがかりだな!見てもねぇくせによ」

 男はヒタカの襟をぐいっと強く掴む。ぐっと息を詰まらせ、ヒタカは相手を見据えた。

「この生意気なガキをまともにしつけられねぇ癖に、人様に説教出来る立場かよ」

 掴み、揺さぶられる。ヒタカは男の手首を掴み返すと、きつく握り返した。掴まれた手に力が込められていくのを知ると、彼はヒタカを睨み付ける。

 遠慮がちな弱気そうな顔で、異様に力が強い事に苛立ってくる。

「俺にはそのような恐れ多い事は出来ませんので…」

「あ?ガキの言いなりかよ。だから調子に乗ってやがるのか」

「そ、それ以上侮辱される発言をされるのは良くないと、思いますが…」

 回りくどい言い方に男は「は?」と眉を潜める。

「こんな糞ガキをか?どこのお坊っちゃんだか」

「糞ガキ糞ガキってうるさいね。それしか言えないの?」

 サキトは今だけ黙っていて欲しい。余計こじれそうになる。そう思いながらヒタカは男を見た。今にも殴ってきそうだ。その前に彼を落ち着かせたい。

「大きく言えませんが、そのっ、一国の王子様に無礼な事は、さすがにまずいのではないかと…!」

 出来る限りの小声で言い返す。穏便に解決したいヒタカの言葉に、男は「あ?」と彼を掴んだままサキトを見下ろした。

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