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王子様の献身3

 まだまだ甘えたい時期だろうに。

 ヒタカは密着してくるサキトに、「あのっ」と声をかける。大きな温もりに浸る彼は、ん?と返事をした。

「俺で宜しければっ、代わりに…」

「代わりに?」

「えっと、お父様の代わりとまではいかないかもしれませんがっ、その」

 上手い言葉が出ない。ヒタカはぎこちない様子でサキトの身体に布団をかけた。なかなか先が出ないが、サキトは理解したようだ。ヒタカの胸元に顔を埋め、頭を擦りつける。

「…うん。ありがと」

 いよいよ眠くなってきたようだ。

「さ、サキト様?」

「暖かい。ね、クロスレイ。怪我が治っても一緒に寝ようよ。…君の腕の中、気持ちいいんだぁ…」

 そう言い終わると、彼はすぐに寝息を立ててしまった。ヒタカは眠りについたサキトの頭を撫で、前髪を寄せ上げる。いつもは生意気過ぎる彼の、無防備な寝顔につい笑みが溢れた。

 毎日窮屈な生活で疲れもあるだろう。ヒタカは彼に同情しながら、少しでも癒せるようにこのまま寝かせてやることにした。腕枕をしたまま仰向けになるのもきついので、サキトと向き合い、軽く抱き締める形で瞼を閉じる。

 まるで猫と一緒に寝ているみたいだ。サキトが眠ったのを確認した後、ヒタカも寝息を立て始めた。


 どれ程時間が経過しただろう。ヒタカの腕の中のサキトは、ううんと唸りながら目をゆっくり開けた。目の前には頭に包帯を巻いた大男。

 もぞもぞと蠢き、サキトはヒタカに密着する。大きなぬいぐるみみたいだと彼は思った。その胸に触れてみると、さすが剣士と言うべきか胸板が厚い。かなり鍛練しているのだろう。

 その優しい顔とはあまりにも不釣り合いな体格に興味を持ったサキトは、ヒタカのシャツを捲った。

 …わ、凄い。

 六つに分かれた腹筋から、上にかけて分厚い筋肉が露わになる。固さも半端なく、本当に逞しい身体をしているのが分かった。そんな大柄なくせに、腰は引き締まっているから不思議だ。

 ぺたぺたと触れられているのに違和感を感じたヒタカ。不意に目を開けてその感覚の原因を探り、身体にまとわりついていたサキトの手をがしっと握った。

「あ!痛いっ」

「えっ」

「そんなに強く掴まないでよ!」

「す、すみません」

 サキトはヒタカの服を戻しながら、「いい身体してるんだね」と言った。何の事なのか分からない彼は、えっ?と間抜けな返事をする。

「胸板厚いから、興味持ったの」

「へ…?」

「大人になると鍛え方によってそんな風になるんだね。僕の見てみる?君と比べて、弱々しいんだから」

 サキトは身体を起こすと、シャツのボタンを弾いて胸元を晒す。ヒタカは「風邪をひいてしまいますよ!」と彼のシャツを直そうと手を伸ばした。

「どう鍛えたらいいかなあ?君みたいに強くて頑丈になったら、外出許可も貰えそうだよね。ね、クロスレイ。また見せて!」

「えっ!?は、ふえっ!?」

「ほら早く!」

 馬乗りになり、サキトはヒタカのシャツを押し上げた。訳も分からないままでヒタカは彼の好きなようにされてしまう。ううんと唸る王子に、従者は困惑した。

「ね、どうしたらいい?」

 無邪気なのか狙ってなのか。サキトは自分のシャツを開き、下に寝たままのヒタカに問う。いけないと思いながら、ヒタカはごくんと唾を飲み込んだ。

「き、急に鍛えるのはっ、危険です…少しずつ、ゆっくり筋トレとかしていかないと…っ」

「そうなんだ…」

「あなたはっ、まだ…成長期ですから…」

 肩を剥き出したまま、サキトはヒタカの身体に触れる。ひいっ、と情けない声を出しそうになるが、手で押さえ込んだ。指先がやけに艶かしい動きに感じ、全身が火照っていく。

 サキトは溜息をつき、「身長も伸ばさなきゃね」と呟いた。

「こっ、これからです!サキト様っ」

「うん」

 どうか早く離れて欲しい。ヒタカは呻きながら、彼が自分に一旦飽きてくれるのを願った。またこのような形で、第三者に見られたりしたら大変だ。

 お互い乱れた姿の上に、サキトが自分に馬乗りになる状況。

 こんな誤解を生みそうな光景を作っているという自覚があるのか無いのか、サキトはヒタカの胸を撫で「やっぱり凄いや」とその厚みを褒めていた。

「ああっ…」

 ゾワゾワしてくる。ヒタカの心境は好きな相手に襲われている女子の気持ちに似ていた。とにかく離して貰わないと…と身を捩ったその時だ。

 部屋の扉がノックされ、同時にガチャンと開かれた。サキトは返事をしないまま開いた扉に目を向ける。そして呆れた。

「やだ、返事してから入ってよ、アンネリート!」

 真っ赤なドレスが舞うのを、横たわったままのヒタカは目の端で見た。あれ、あのドレス、どこかで…と思い出そうとするが。

 …同時に、部屋中に響き渡る悲鳴。

「ひぃいいいいいっ!!サキト様、何とふしだらな!!」

 二人の有様を目の当たりにしたアンネリートは絶叫していた。

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