王子様の献身4
アンネリートはズカズカとベッドに近付くなり、ヒタカに馬乗りになっていたサキトの腕を引いた。わわっ!とバランスを崩しながらサキトはベッドから降ろされる。
小さなサキトを自分の後ろに下げ、上半身を剥き出しにされたままのヒタカを見下ろすと、彼女はわなわなと震えながら「この変態!!」と顔を真っ赤にする。ヒタカは我に反り、がばっと起き上がった。
「サキト様への無礼、許しませんよ!」
「そ、そんなあ!」
「ちょっと待ってよ!クロスレイは何もしてない!」
サキトはシャツを直すと、汚らわしい物を見るかのようにヒタカに冷たく当たるアンネリートに訴える。怒りが頂点に達したまま、一向に下がらない彼女は「言い訳は聞きたくありません!」と突き放した。
「この野獣のような手でサキト様を汚そうだなんて!」
「やっ、野獣!?」
そこまで毛深くないしごつくない!とヒタカはショックを受けるが、アンネリートには通じないらしい。
「ご懇意になっているにも関わらず、力ずくでサキト様に乱暴を働こうとするなんて!…あぁあ、もう汚らわしい!!その暑苦しい様相でよくもまあ、サキト様を手込めにしようと思ったものだわ!」
「お言葉ですが、俺はサキト様に対してそのような事は!!」
「言い訳はするなと言ったでしょう!?おぞましい!さっさとその暑苦しい身体を隠しなさい!!」
指摘され、ヒタカは捲られたシャツを戻す。サキトはヒタカの元に駆け寄った後、振り返りアンネリートに「何しに戻って来たの!」と問う。
「忘れ物なら早く持って行ったら!」
サキトに怒られ、やや押されたアンネリートは「ペンケースを忘れてたのです」と言った。すぐに思い出せなかったの?と怪訝そうなサキト。
女には色んな都合があるのです、と彼女は机上に置かれていた革製のペンケースを手に取った。
「アンネリート」
「はい?」
ペンケースを回収したのを確認したサキトはアンネリートを見上げる。彼女はきつそうな顔を緩め、彼を見返す。膨れたままのサキトは、「謝って!」と促す。
えっ、と戸惑いを見せるアンネリート。
「クロスレイは何にもしてないの。君に暴言を吐かれる言われは無いよ!言ったでしょ、僕を守る為に怪我をしたんだって。クロスレイを悪く言うと僕が許さないよ。ほら!」
「さ、サキト様!俺は全然気にしませんから」
謝罪を要求するサキトに、ヒタカはついベッドから降りて彼に訴える。面倒になりそうな気がして、さすがにこれ以上は揉めたくない。ましては相手は女性だ。変に大事になったらと懸念してしまう。
サキトの様子に圧倒されたアンネリートは、それまでの勢いを抑える。しかしヒタカに対しては下賤な人間というイメージが付いてしまったのか、表情を固くしたまま「悪かったわよ」と仏頂面で言い放った。
「ですが、私の目の黒い内はサキト様への悪戯は一切許しませんからね!!その筋肉しかない頭の中に、ようく叩き込んでおきなさい!!」
「…ああもう!全然謝ってないじゃない!もういいから早く帰って!!」
何か付け加えないと気が済まないのだろうか。呆れ果てたサキトは、アンネリートを押し出し始める。おろおろするヒタカ。
完全に嫌われただろうな…とヒタカは思った。確かに、あのような状況で視界に入ってくると誤解されても仕方ない。ただ、筋肉の付け方について会話していただけで、サキトが自分に馬乗りになるのはよくある事なのだが、第三者からすると違うように見られてしまう。
自分も変に誤解してしまうので、サキトの思わせ振りな行動には参るのだ。
アンネリートを追い出したサキトは、「はあ」と一息ついた。
「クロスレイ」
「は、はい!」
「ソファに座って。包帯を代えてあげる」
上からの物言いだが、サキト直々に包帯を代えるなど普通では有り得ない話だ。遠慮したい所だが、サキトはそれを許さなかった。慣れない手付きで薬を塗り、新しいガーゼを当てて、たどたどしい様子で包帯を巻く彼が、何だかいじらしく見えてくる。
動かないでよと愚痴を言いながら、サキトは包帯を巻いた。
「えっと…金具、金具」
「これですか?」
「うん。…最初より上手くなったでしょ?」
ヒタカはつい微笑みを浮かべる。ただの我儘な王子だと思っていたのが、実は優しい性格なのだと分かってきて嬉しくなった。
「あなたがやらなくても良かったのに」
「僕に手当てされたくないの?クロスレイ」
僅かに口調が沈む。
「嬉しくて、勿体無く思ったんです」
サキトの目の前にあるヒタカの頭は、サキトによって清潔な包帯に巻かれた。初めの頃より、上等な巻き方になっている。最初は目や口を塞ぐ位ぐちゃぐちゃだった。何度も苦しいです!と訴えた位だ。その度に我慢してよ!と怒鳴られた。
手当てを終え、力強さを思わせるその肩に両手を回すと、サキトは「その代わり、これからきっちり僕を守って貰うよ」と意地悪く耳元で囁いた。




