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王子様の献身

 負傷したヒタカを自分の部屋に寝かせていたサキトは、お抱えの医師を招いて治療させる程、彼に手厚い看護をしていた。臣下に対して、通常では考えられない施しに、周囲の人間はどうしたものかと驚く。

 自分の為に深手を負わせてしまい、責任を感じたのだろう。

 しばらく任務から外され、ヒタカは四六時中サキトの部屋で、彼と共に生活していた。

「クロスレイ。まだ痛む?」

 専属の家庭教師から勉強を教わっていたサキトは、ベッドで横になるヒタカに問う。一介の護衛剣士が、この国の王子であるサキトの寝室のベッドで休んでいるという異常事態。あまりにも不思議な光景に、潔癖そうな女性教師は怪訝な表情を隠しきれずにいた。乱れないようにがっつりと美しい金髪を後ろに纏め、赤いフレームの眼鏡を掛けた厳しそうな目をヒタカに向ける。

 見た感じでは同じ年齢位だが、彼女は貴族階級の出なのだろう。サキトに向けた目と、自分に向けた目は明らかに違う。

「あ、あのっ…大丈夫です、どうかお気遣いなく」

「そう?痛かったら言うんだよ?」

 そんなに気を使わなくてもいいのに、と思う。

 家庭教師は溜息混じりに「サキト様」と話を切り出した。

「?」

「一体彼は何なんです?臣下に対してあまりにも優しすぎじゃないですか?」

 汚らわしい物を見るような扱いだった。確かにそう思われても仕方がないかもしれない。一般の剣士で、いかにも暑苦しい筋肉質の自分が可憐なサキトの部屋のベッドに寝ているのだ。

 全く気にしない彼は、「僕の専属の剣士だよ」と答える。

「僕のせいで怪我をさせちゃったからね。ちゃんと治るまでここに居て貰うの」

 女性教師は上体を起こしていたヒタカを胡散臭そうに見る。

 びくんと彼は怯えたような反応をすると、彼女の視線をかわすように身を小さくした。居たくて居る訳ではないのだが、批難めいた視線で見られると気持ちが沈む。

「何をされたのかは分かりませんけどね」

「………」

「いい扱いをされたからと勘違いしないで貰いたいものですわ」

 完全に敵対心を持たれていた。

「僕の希望で寝かせてるんだよ、アンネリート」

 教師はアンネリートという名前らしい。

「クロスレイは僕の専属の剣士だからね。しっかり治して貰わなきゃ、僕の気も済まないの」

 アンネリートは眼鏡を掛け直しながら「それは大変感心するべき事ですけど」とサキトの意思を持ち上げつつ、納得いかない顔をしていた。

「サキト様には不釣り合いなタイプですわね」

「う…」

 それは十分理解しているのだが、第三者から言われると凹む。

「ちょっとあなた」

「はっ…はい!!」

 彼女はツカツカとヒタカが使うサキトのベッドへ近付く。近くで見ると綺麗な顔だ。しかし雰囲気からきついイメージを植え付けてくる。

「サキト様のベッドですわよね、ここは?」

「は…はあ」

「あなたまさか、ずっとそのベッドに?」

 突然の質問。ヒタカはつい「は、はい」と返す。

「…はあぁあ??」

「えっ、えっ!?」

 アンネリートは汚らわしい!とヒタカを睨んだ。

「ちゃんとお風呂に入ってるんでしょうね!?サキト様の清潔なベッドにこんな下賎な男が入るなんて!!ああ、嫌だ、汚らわしい!!何ておぞましい!!」

 次々と襲いかかる暴言。汚らわしいとまで言われるとは、とヒタカは刺された言葉を受け胸を押さえた。別に希望して彼のベッドに入っている訳ではない。

 なのに、ここまで暴言を食らうとは。

「アンネリート、やめてくれない?」

「サキト様、ここはきっちりと言わないとこの先何かあったら大変な事になるかもしれませんわよ!」

「変な事って何なの?…もう。今日の分の勉強は終わったから、君はもう出ていってくれない?」

 あまりにも騒ぎ立ててくるので呆れたらしい。サキトはアンネリートに不愉快そうに言うと、机に置いてあったノートや蔵書を彼女に手渡す。

 えっ、とサキトの様子に困惑するアンネリート。

「クロスレイは僕の物なの。うるさくされると、傷口が開いちゃうかもしれないでしょ」

「えっ…えっ!?さ、サキト様、それはどういう」

 あからさまに自分の物だと明言するサキト。アンネリートは彼とヒタカを交互に見る。こんな大きなだけの男に、何故サキトは手を尽くすのか、彼女には全く理解できない様子だ。

 愛くるしい顔を曇らせ、サキトはアンネリートを「ほら」と促す。

「出てって。クロスレイは僕を守る為に怪我をしたの。瓶で頭を割られるなんて、君は想像した事が無いでしょ?僕の気が済むまでクロスレイはここに居させるつもり。文句があるならしばらく入ってこないで」

 赤いドレスのアンネリートを扉まで押し、サキトは強い口調で言った。彼女は困惑したまま彼の部屋から出されてしまう。サキト様、と口を開くが、彼は有無を言わさぬ口調で続けた。

「クロスレイは真面目なんだよ。君は分からないだろうけど、君が思うような事は絶対しない」

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