盟約の証14
「あれ?君がここまで来るの、珍しいね」
扉を開けたサキトが、急な部屋の来客者の顔を見て驚いた。ヒタカはよいしょと上体を起こす。
「…いや、ほら。リンゴ飴、買ったけど砕けちまったっすから」
言いにくそうにしながら、来客者のアーダルヴェルトはサキトに説明する。そしてリンゴ飴の入った袋を彼に差し出した。
サキトは袋からリンゴ飴を取りだし、「わあ!」と目を輝かせた。真っ赤なリンゴを、飴で包んでいるのを、物珍しそうに見る。中にもう一つ入っていて、それを出すと苺の飴が出てきた。
「苺もあるの!?ありがとう、アーダルヴェルト」
珍しく素直に礼を言われ、アーダルヴェルトはつんとしながらも「溶けやすいから、すぐ食った方がいいっすよ」と返した。
「先輩?」
「よう、クロスレイ。怪我の具合はどうよ?」
「怪我はいいんですけど、サキト様のお部屋で寝ていいのかって思っちゃって…」
贅沢なベッドに寝やがってと笑うと、アーダルヴェルトは「さっさと治してこいよ」と告げた。やけに親切な言葉を放つ彼を、ヒタカはつい頭を打ったんですか?と問う。
今まで散々こき下ろしたり怒鳴ってきたのに、と。
「打ってねぇよ!!お前が来ないと俺が先輩らにこき使われるんだよバーカ!!だから早く治せってんだ、勘違いすんな!!」
「へぇ…意外に素直に先輩の言うことを聞くんだね、君は」
単に無礼な性格ではないらしい。
「上下関係が厳しいんすよ。はあ…また買い物頼まれるし。…とにかく早く治せよ、クロスレイ!怠いんだよ、アルザス先輩の買い出し!!」
そう吐き捨てると、彼はサキトに頭を下げて退室した。
サキトはアーダルヴェルトから貰った苺飴を袋から嬉しそうに取り出すと、きらきらと光沢で輝く飴をぺろりと舐めた。
「甘くて美味しい!こんなお菓子があったんだね」
「懐かしい。俺も故郷からここに来た時に初めて食べたんです」
サキトはベッドに再び腰をかけると、小悪魔の笑みをヒタカに見せた。そして彼に「食べたくなった?」と問う。
唐突に聞かれ、ヒタカは目を丸くした。別にサキトが貰った物を食べたいとは思わない。
「たまには、懐かしさで食べたくなりますけど…」
「ふふ。…そう。ね、クロスレイ。食べる?」
「え!?」
サキトはヒタカの口元に苺飴を近付けさせた。
「いっ…いや、サキト様が先輩から頂いた物ですからっ!」
「甘くて美味しいよ?」
「それは知ってます!」
間接キスになるではないか。ヒタカは起こしていた身体の体勢が崩れ、ばたんとベッドに仰向けになってしまった。それでもサキトは苺飴を彼の口元に近付けてくる。
「ご褒美だよ」
「へっ…!?えっ、何の!?」
サキトはにっこりと微笑むと、ヒタカの唇に苺飴を当てた。そして誘惑の表情を浮かべ、「舐めて」と言う。完全に怯えるヒタカは、今にも泣きそうだった。
助けてくれた時の顔は凄くかっこよかったのにね…と少しがっかりする気持ちも湧いてくるが、彼はいつもの忠犬の状態がいいのかもしれない。
「美味しいよ?」
「ううっ」
「甘いんだから!ほら、懐かしいんでしょ!」
一度だけ舐めたら気が済むのだろう。ヒタカは恐る恐る飴を舐める。舌先で甘い苺の味を感じ、同時に昔の記憶が蘇ってきた。
ああ、懐かしい…よく食べてたなぁ。
一瞬、懐古な気分を味わう。サキトはふふっと笑うと、ヒタカに苺飴を当てたままで自分も飴に口をつけた。
「!!!?」
ヒタカは目を見開いた。すぐ目の前に、サキトの顔がある。白い肌に、長い睫毛がすぐそこに。全身が火照り、顔がこれまでに無いくらい熱くなる。苺を間にして、ぎりぎり口付けをしていない状態が数秒続いた。
サキトは全く気にせず、苺飴の片側をぺろりと舐めると、すぐに身体を起こす。そして苺飴をぱくんと口に頬張った。
「美味しい。ねっ!クロスレイ?」
心臓がばくばくする。ヒタカは胸を押さえつつ、顔を真っ赤にして空いた手で口を塞いでいた。下手すれば頭からまた血が吹き出してきそうだ。
…こういうのがあるから、この部屋には居たくないのに!
サキトはそんなヒタカの思惑を知ってか知らずか、ベッドから足を投げ出しぷらぷらさせて苺飴を食べる。
「美味しーい♪」
上機嫌なサキト。対照的に苦悶の表情をするヒタカ。
怪我をしているが、一応健康な自分にはある意味拷問に近い。彼は特有の欲求が出てくるのを、彼に悟られぬように押さえるので精一杯になっていた。
顔を真っ赤にしながら、ヒタカは「は…早く、治しますね…」とサキトの背中に話しかけた。振り向き、サキトは邪気の無い笑顔で頷いた。
「うん。是非そうして」
「は、はい…」
早く完治させなければ。この拷問に近い状態に耐える自信が無い。ヒタカはドキドキする胸をかきむしりながら思っていた。




