9 オリヴィアの信用
部屋に私と侍女たちだけになると、オリヴィアは、
「姫のお傍には私がついておきます。貴女たちは控えの間へ」
そう指示して他の侍女たちを遠ざけてくれた。
『おっ、これはエミリアンさんから話が通じたな』
ようやく本音で話せる同性ができるかもしれないと期待しながら、私は上体を起こしてオリヴィアが近寄ってくるのを待った。
「シェリーヌ様」
だが、オリヴィアは何故か酷く不機嫌な様子で、傍の椅子に腰を下ろすとため息まじりに私の名を呼んだ後、主人に向かってとは思えない厳しい口調で責め出した。
「シェリーヌ様。今度は一体何のお遊びなのでしょうか? 貴女が何をなさってもご自由ではございますが、どうかあの生真面目な弟を巻き込まないでやってください。本当に、いつの間にか姫の中身が変わってしまわれて、違う世界からの方になっているだなんて、荒唐無稽な。それをあの弟が真剣な表情で言い出して、周囲に気付かれないように私に協力してやって欲しいなどと申すのですから……。まさか弟を笑い者にしようだなどとお考えではないでしょうね? 暴漢に拉致された貴女様を命がけでお救いしたばかりの弟ですのに」
『あ、やっぱり。察知していた姫の評価からすると、そんな誤解される危険性もって思ってはいたんだけど。……まいったなぁ』
それでもどうにか信じてもらわない限り話は前に進まない。
「あ、いや、申し訳ないんですけど、貴女の弟のエミリアンさんにした話は全部本当なんですよねぇ。私も、できればこんな面倒な状態になりたくはなかったんですけど。とにかく気がついたら全く知らない世界のお姫様の中に入ってしまっていて。しかも、聞くとただのお姫様じゃなくて、なんですか伝説の姫巫女とか言うややこしい立場の方だそうで。中身変わりました~じゃすまないそうなので、とりあえず事情知って協力してくれる人作らないとまずいなと思ってわけです。それで、エミリアンさんが貴女に頼んでくださるとおっしゃったのですが……やはりだめですか?」
途中で遮られないように一気にまくし立てた。
途中までは眉を顰めて胡散臭そうに聞いていたオリヴィアだったが、徐々に驚きの表情を浮かべ、最後にはいぶかしそうに若干首を傾げて確かめてきた。
「あの……本当に?」
「あ、信じてもらえますか?」
「いえ、演技というにはあまりに普段の姫と変わりすぎていらっしゃいますし……」
さすがにお遊びだと切り捨てるには様子がおかしいと思い出してくれてはいるようだ。それでも信じきれないのは、その内容があまりに奇抜なことと、おそらくは普段のシェリーヌ姫の行動が原因だろう。
「ああ、それが問題なんです。信じてもらえるという前提で話しますが、私にとってこの世界はもちろん、この体の持ち主であるシェリーヌ姫という方がどういう性格でどういう話し方をするかさえ全く見当がつかないんです。行きの馬車の中で、ご家族の名前だけはお聞きしたんですけど。それで今も、年齢からカロリーヌ姫だと当たりをつけてそう呼ぶことだけはできたんですけど、話しているうちに酷く驚かれてしまって……別人のように優しいとかなんとか。【リーヌ姉様】なんてお呼びしているとお聞きしていたものですから、てっきり仲いいのだと思っていたのですが、そうではないんですか?」
「えっ? ええ、カロリーヌ様はシェリーヌ様が唯一親しげにお名前をお呼びなさっていらっしゃる姉君ではいらっしゃいますが……どちらかというと、わざと逆らって困らせるのを楽しまれるおからかいのお相手として選んでおられたというか……。あの、申し訳ございません、ご無礼を」
「あ、いえ」
『そうかぁ。それじゃ、あの涙の忠告に逆らっていかなきゃおかしかったんだ。でもなぁ、言ってたことは至極真っ当だったものねぇ。あれに逆らうってどうよ、だわ』
どこまでへそ曲がりだったんだ?と考えていると、感心した様子でしみじみとオリヴィアが呟いてきた。
「まあ、本当に別人なのですね」
「はっ?」
顔を上げると、オリヴィアは笑って頷いた。
「今の私の言葉に全く怒られるご様子がありませんもの。貴女は本当に私共の存じ上げていたシェリーヌ姫様ではありませんわ」
「えっ、あれぐらいで?」
「はい。いつもの姫様なら、即刻私に部屋から出て行くようにお命じになったと思います。そして、その後少なくとも3日の謹慎が下ったはずです」
「ええぇぇ――っ! 本当に?」
「はい」
「貴女が今までにそれをやられたことは?」
「数え切れないほど」
「……なんか、ごめん」
「いえ」
思わず謝ってしまった私に、オリヴィアは笑って小さく首を振ってくれた。
しかし、
『耳障りな発言一つで謹慎3日って……』
そんな横暴なことしていたら絶対に下の人はついてこない。人望がなかったことだけははっきりした伝説の姫巫女シェリーヌ姫に、頭痛を覚えるのだった。




