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 8  リーヌ姉様は心配症?

「あの……?」

不安気に声をかけると、カロリーヌ姫がハッと我に返った様子で、ビクッと体を一度震わせた後、再びボロボロとその大きな目から涙を溢れださせた。

「シェリーが……シェリーが、こんなに素直に私の言うことを聞いてくださるなんて」


『えっ? だってリーヌ姉様とか家族で唯一親しげに呼んでるわけだし、てっきり凄く仲がいいのだとばかり。違うの?』

何故か目の前で嬉し泣きを始めてしまったカロリーヌ姫に動揺し、隣の宮廷医を見る。医師は私と目が合うと、「フム」と首を傾げながら訊ねてきた。

「姫、私のことは覚えておいでですか?」


『いや、医者の名前までは聞いてない』

具合が悪くなったらまずは医者が登場するのは当然の展開じゃないか。予想できたはずなのに。ちゃんと名前を聞いておけばよかったと後悔しながら、仕方なく黙って首を横に振る。


「えっ、シェリー、本当にヒルバート先生のことを覚えていないの?」

たった今まで嬉し泣きしていたカロリーヌ姫が、心配そうに口を挟んできた。


「……ええ」

『やばい。そんなに驚かれるほどよくこの医者にかかってたのか、このお姫様は?』

今聞いたから急に思い出せた振りをしてもいいが、それ以上の情報がない限り、すぐにばれる。


「ヒルバート……ヒルバート……」

2度ほど名前を呟いて思い出す努力をしてみせ、それから、「うっ」と、不意に頭痛が起きたように顔をしかめて片手で頭を押さえた。


「あ、ご無理をなさってはいけません」

予想通り慌てた様子でヒルバート医師が私を制止してくれた。


「すみません」

弱々しく謝罪し、疲れたように大きく一つ息を吐く。そんな私の様子を見守りながら、カロリーヌ姫が不安そうにヒルバート医師に声をかけた。

「先生、シェリーは?」


「大丈夫ですよ。貴女のことは覚えていらっしゃったでしょ。たぶん、誘拐時のショックで嫌な事柄の記憶を幾つか一時的に封印されてしまわれているだけなのだと思います。時間が経って精神的に落ち着かれればそのうち自然と思い出されるはずです。ご無理させてはいけません」

自信満々なヒルバート医師の説明に、納得し安堵した様子で胸に手を当てるカロリーヌ姫。


『いや、申し訳ない。中身が別人だからいつまで経っても思い出すことはないです。それに、貴女のこともエミリアンさんから聞いていただけで。……ごめん』

こっそり二人に謝罪しながら、そろそろ(すでに事情を聞いた場合の)オリヴィアかエミリアンが来てくれないかぁと焦っていた。


私の願いが届いたらしく、程なく扉が開き、部屋を外していたらしいオリヴィアが入ってきた。オリヴィアはまず扉近くに控えている侍女たちの一人に何か話しかけた。すると、その侍女はまっすぐこちらに近寄ってきて、カロリーヌ姫に声をかけた。

「カロリーヌ様、ダルトワ侯爵ご令嬢クローディーヌ様がお部屋にお見えだそうですが、お約束がおありだったのでは?」


「えっ? あらっ、シェリーの一大事ということで、今日の予定は全てお断りしておくようにジャンヌに命じておいたはずですのに」

困った様子でカロリーヌ姫が眉を顰めた。だが、このチャンスを逃すわけにはいかない。私はしおらしくカロリーヌ姫に声をかけた。

「私のことならもうご心配いりませんわ。今日はこのまま安静にしているつもりですので。どうかお約束の方とお会いになってください、リーヌ姉さま」


「あ、そう?」

それでもカロリーヌ姫は少し迷った様子だったが、やがて思い切ったように頷いて立ち上がった。

「そうね。貴女がそんな風に気遣ってくださるんですもの。行かないわけには参りませんわね」


「本当に別人のようにお優しくなられて……。私の日々の祈りが神に伝わって、真実の優しい貴女に目覚められらたのかしら? そうだったら母も、前の王妃様もどれほどお喜びになられるか……」

慈愛に満ちた瞳で私を見下ろし、小さくそう呟くと(全部しっかり聞こえているわけだが)、カロリーヌ姫は再び目に涙を浮かべて、

「ではまた明日。今日はゆっくり休んでね、シェリー」

そう挨拶すると、声をかけてきた侍女を従えて扉に向かい、部屋を出て行った。


『だから、毎日神頼みしなきゃいけなかったほど優しくなかったのか、私?』

嫌な予感がして、なんだかどんどんシェリーヌ姫について知りたくなくなるのだが。


そんなため息を「はぁ」と吐くと、まだ椅子に座ったままのヒルバート医師と目が合った。途端、ヒルバート医師は酷く慌てて立ち上がり、

「そ、それではお大事に。なにかあったらお知らせください。ではでは」

と逃げるように早足で部屋から出て行ってしまった。


『最後の辺、ほぼ駆け足じゃん。何が怖い?』

おそらく、いや、確実に恐怖の元凶は私なのだろうと、気を重くしながら、ため息をまた一つ吐くのだった。


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