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16  現王妃との確執

「あの、博士のご自宅は遠いのですか?」

「いえ。この王都内にあります」

よかった。それなら行きやすい。


次は、あまり知りたくないが、どうしても聞いておかねばならない問題。

「それで……私が博士に激怒した理由は?」


「確か、姫様のご蔵書を、王太子殿下たちにも閲覧お許し頂きたいと願われたからだと聞いております」


『へっ? 本を貸してやってくれでキレた? それはまあなんと心の狭い……』


どうやら唖然とした顔をしてしまったらしく、エミリアンが少し慌てた様子で、弁解を始めた。

「いえ、これには少々事情がございまして。……問題のご蔵書は、シェリーヌ姫様の亡くなられたご生母コンスタンシア様が ご実家のブローサ帝国から嫁入り道具としてお持ちになられたお品の一つなのです。それを、姫が相続されたのですが」


「ああ、それで、弟たちとはいえ、今の王妃の関係者になんか貸したくないって怒り出したわけですね」

「はい。現王妃のエリシア様が、10年前、前王妃様の死後姫様付きになっておりましたブローサからの侍女を全て解雇して、帝国へ返してしまわれたことで、その……」


『うわぁ、それはひどい。馬鹿じゃね、現王妃? 有能で信頼できる侍女全員奪われたら、そりゃ恨むって』


「でも、よくそんな暴挙が許されたんですね」

その点納得いかないので、正直に感想を漏らすと、エミリアンがその当時の事情も説明してくれた。

「はい。当時も【伝説の姫巫女】である姫様を手に入れようと、他国からの誘拐未遂事件が立て続けに起きまして。それで、どうしてもその内通者として、我が国の者でない侍女たちに疑いが向けられてしまったのです。もちろん、証拠もなく、処罰等は行われませんでしたが、念の為、わが国の繁栄と平穏の希望である姫様をお守りする為に、他国者を一切その周辺から除外すべきと王妃様が強く主張されまして」


『うーん、なんか胡散臭いな。前王妃の関係者追い出す陰謀だったんじゃ?』


「今の王妃様って、ご実家は外国の王家ですか?」

「いえ、現王妃様は我がベルトラン王国のクラルティ公爵家ご息女でいらっしゃいます。お父上はクラルティ公爵セヴラン様です」

なるほどねぇ。外国嫌いとか、帝国の皇女様だった前王妃へのコンプレックスや対抗心とかがあってってとこかな? まあともかく、シェリーヌ姫の為を思ってということだけはないな。


「事情はわかりました。でも、とにかくできるだけ早く博士のご自宅にお伺いしたいので、そのようにお計らいお願いします」


「えっ? 姫様がグランドーニ博士のご自宅にですか?」

予想していなかったのか、エミリアンが驚きに目を見開いた。まあ、怒って首にした相手の自宅に、お姫様自ら訪れるとなるとね。こりゃ、周囲もいろいろと勝手に憶測しそうだ。前もって、訪問の目的を明示しておかないとまずいな。

「ええ。だって、菜園は博士のお宅にあるのでしょ? ならばこちらから伺わねば、見ることができないじゃないですか」


「ああ、なるほど。かしこまりました。ただ、すぐに陛下から外出の許可が下りますかどうか。なんと申しましても姫様は、本日拉致されたばかりですし……」


「あ、そうですね。……でも、それも大丈夫。我が国の食料事情改善の鍵はグランドーニ博士の菜園にあり。急ぎその目で確かめてみよと、神のお告げが私にあった……で、通しましょうね、これも」

ニッコリ笑って神のお告げ詐欺を宣言する。


「はあ。ですが、姫様は今まで一度も神のお告げを聴いてはおられませんでしたので、これほど急に幾つもだと、少々違和感をもたれるのではないかと」


「そこは、誘拐中に頭を打って、意識を失っている間に神に会い、通話の道が開いた……とか」

うん、自分で言ってても苦しい言い訳だと思うけど。


だが、何故かエミリアンはその言い訳にあっさりと同意してしまった。

「ああ、それなら、ありうると皆納得するでしょう」


『……納得するのか』

どうやら信仰が本当に素直に受け入れられている世界らしい。これはよくよく自制しないと、神のお告げの一言で簡単に大暴走できてしまう。


「そうですね。よかった」

内心の危惧と符合しない言葉を思わず棒読みしてしまうのだった。



コンコン。軽いノックの後、オリヴィアが入ってきた。何か不都合でもあったのか、表情に困惑の色が見える。


「ただいま戻りました」

足早で傍まで来ると、オリヴィアは挨拶の後、まず厨房に私から聞いた指示を出したことを早口で述べ、それから、チラッと扉に目をやり声をひそめた。

「エミリアンが、姫様の指示で渋の実を取らせたこと、すでに宰相様のお耳に届いておりました。それで……」


ついに【伝説の姫巫女】が神のお言葉を聞いたらしい。その確認の為に、もうすぐ父である国王と宰相がこの部屋にやってくるというのだ。恒例の誘拐未遂の見舞いも兼ねて。


「ええぇぇ――っ! 今日は下準備の情報収集だけのはずだったのにぃ」


『てか、誘拐未遂が恒例なのかい!』


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