14 進化論を回避
「あ、ないですねぇ。私のいた世界とは神話自体が違っているようですから」
まさか、創造論に進化論で応えるわけにはいかないよな。てか、仮にも今の私は【伝説の姫巫女】神の導きを受ける身らしい。それが、神様自体を否定するようなこと言い出したら、絶対大騒ぎになるよね。
『うん。異端審問は怖い。余計な発言は控えよう』
「まあ、そうなのですか。……ちなみに、貴女の世界ではどういう風に伝えられているのですか?」
『わっ、聞くかぁ? あまり余計な好奇心はよくないよ。……聞かれた方が苦労するし』
とりあえず思いつくのは、あれだよなと、一生懸命思い出しなら説明してみる。信徒ではないのできちんと読んだ覚えもなく、いまいち自信ないが。
「あ、えーと、確か、土で神様に似せてまず男性型を作って、それに魂を吹き込んだのが、最初の人間でアダムという名前の男性です。それで、その後『一人では寂しいだろ』と神様が考えられて、そのアダムの肋骨を一本抜き取って、それを元に作られたのが最初の女性でイブって名前です」
「土で、ですか?」
微妙な顔つきをするオリヴィア。いや、宗教なんてそんなもんすよ。この場合、素材が重要なのではなくて、神様が魂吹き込んだことが大事なのだと……たぶん。てか、宗教論争するほど詳しくないし……困った。
「あ、私の世界では幾つもの宗教がそれぞれ違った起源を説いていまして、今のもその一つなんです。……他に、猿から進化したというのも……」
土がダメなら、やっぱり猿だよな。
だが、進化という単語が余計だったらしい。
「進化ですか?」
オリヴィアが、いぶかしげに訊ねてきた。
『あっ、まずい! もしかして、すでに進化論があって、異端とか問題になってる?』
焦った私は、咄嗟に有名なSF映画の一シーンを利用してごまかしにかかった。
「あ、突然現れた不思議な黒い大きな板に触れて知恵を得たそうなんです。きっとそれが……神(宇宙人)の御意志だったのだろうと」
『って、それを誰から聞いた?ってツッコミは無しで! お願いします』
幸い、こちらの説?はオリヴィアのお気に召したようだ。感動した様子でしみじみと呟いてくれた。
「まあ、神の御意志で猿が人間にですか」
「そそ。それが進化……ということで」
オリヴィアに相槌を打ちながら、ホッと胸を撫で下ろし、密かにダーウィンに謝罪する。
『ごめん、ダーウィン。あんたはいない。……宗教裁判は断固回避したいんだ、私』
「そうですか。それで、貴女の世界の人間にはこの額鱗がないのですね」
すっかり納得してしまっているオリヴィアに、
「はい、そうなんです」
と、真面目な顔で同意している私。なんだかどんどん嘘つきになりそうな自分が怖い。
その時、コンコンとノックの後、扉が開きエミリアンが入ってきた。
「失礼します」
『おっ、エミリアンさん』
これで話題が変えられるとホッとして、彼が近づいてくるのを待つ。
だが、オリヴィアは、エミリアンの手元に気がつき、眉を顰めて制止した。
「お待ちなさい。貴方がその手に持っているのは渋の実ですね。神に嫌悪された木の不吉な実を、何故姫様の部屋に持ち込むのです?」
「あ、私がお願いしたのです」
慌ててオリヴィアに、そう声をかける。オリヴィアは驚いた顔で私を振り返り、確認をしてきた。
「姫様が? 本当に?」
「ええ」
私は頷いて、エミリアンの手にしている柿の実を指差して説明した。
「あの実は、私のいた世界にある柿とよく似ているのです。その柿にも渋がある品種がありました。もし、その柿と同じような性質をもっているのなら、渋を抜いて食べることができるはずなのです。ここへ来る途中の景色を見て、あれほどたわわに実っているのに、食べないなんてもったいないと思ったものですから」
「それは……。ですが、あの渋の実は、神に嫌悪された不吉な実と言われておりますので」
「でも、飢饉で餓死者が出る程食料事情が悪いのなら、食べられる物は食べるべきです。……あ、そだ。私に、神のお導きがあったってことで通せませんか? 生してはただむなしく朽ち果てるを繰り返す渋の実と、飢えに苦しむ人間を神が哀れに思われ、私に食べ方をお教えくださったのだということで。ねっ?」
私の提案に、オリヴィアとエミリアンは、顔を見合わせ、やがて仕方なさそうにオリヴィアが頷いた。
「そうですね。それが一番やりやすいでしょう。神自らが許されたとなれば、みなも抵抗を感じないでしょうから」
『よかったぁ。第一関門突破!』
内心ホッとしながらも、こんなに安易に神のご意思を主張して大丈夫なんだろうか?と、ふと不安が頭を過ぎるのだった。
『伝説の姫巫女、神のご意思を騙って天罰下る!だけは勘弁です。どうか神様、そこんところよしなに』




