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マイペース☆ファンタジー  作者: 風白狼
8章 北国抜けて
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1.閉ざした国の外は

何年ぶりかの更新になります、すみません

 ミシュエルの実家を追い出されてから、少し落ち着いた私たちは停留所に来ていた。そこにはこの国に来てから乗せられたのと同じ、饅頭型の乗り物がいくつも並んでいる。この国の陸路が整備されていないというのは、先の遭難で嫌と言うほど実感した。だから利用できる乗り物は利用しよう、ということで話がまとまったのだ。受付の前まで来て、ミシュエルが振り返る。


「デュライア、これから帝国の方へ向かう、ということでいいですね?」

「うん。約束も、したからね」


 星護だという私に求められているのは、帝国の打破だ。けれどまずは状況を知らなければならない。それに、帝国に行ってしまった親を連れ戻すと、ヒュノーの少年と約束したのだ。私はあのときもらったペンダントを握りしめた。


「帝国まで行けるのか?」

「いや、国内しか運行してない。だが国境近くまでは行けるさ」


 カイトとミシュエルが話しているのが聞こえる。来たときも厳重に守られていた国だから、出るのも簡単ではないんだろうなあ、とぼんやり考える。運行している路線を見ると、ミシュエルの言うとおり帝国に直接行けるルートはないようだった。


「帝国に直接行くのは海を渡る必要がありますし、陸路で行くとなるといったん北のホスプリーノ連邦を抜けて行く必要がありそうですね」


 ミシュエルがこちらを見ながら教えてくれる。地図盤を見れば、確かにシルフェリオとケルトーニィ帝国は陸路で国境を接していない。しかも、海路で帝国に向かうルートは現在運行していないとの事だった。


「つまり、遠回りをするわけか」

「でも、おかげでホスプリーノにも行けるんだよ? ちょっと楽しみ」


 カイトのため息に、私は明るい声で言う。お気楽だなと言われてしまったが、やはり未知の国というものはワクワクする。

 乗り物に乗って、国境付近の街を目指す。饅頭型のそれは木々を縫うようにすいすいと飛んでいく。


「ところで、北のホスプリーノ連邦ってどんなところなの?」


 ふと気になって、私は皆に聞いてみた。そうですね、とミシュエルが答えてくれる。


「雪国ではありますが、火山が多い国でもあります。有名なのは各地の温泉街ですかね」

「温泉があるの!?」


 温泉の言葉に思わず反応してしまった。今までにもお風呂自体は入ってきたけど、本格的な温泉はまだだ。やはり旅となれば温泉街は外せない。


「おいおい、観光に行くわけじゃないんだぞ?」

「わかってるよ。でも、途中の温泉街で休むことはできるでしょ?」


 呆れ顔でカイトが見てくるが、気にしない。ちょっとでも立ち寄れればそれでいいのだ。それに温泉街があるということは、温泉にちなんだ料理や観光名所もあるはず。それだけで気分が上がってくる。今回は通過するだけになってしまうのが悲しいところだけど。


「雪国ッスか……。寒いのは嫌ッス」

「ホスプリーノは雪国でも比較的暖かいと聞きます。それに、今回通るのは南部ですから」


 アッグが少し嫌そうな顔をする。リザード族である彼は、寒いのが苦手だ。それはそうと、雪国のわりに暖かいということは、やっぱり火山の地熱の影響もあるんだろうか。





 そうこうしているうちに、国境沿いの街に到着する。入ったときと同じように、白い石壁で囲まれた街。どの国とも国交を結んでいないためか、国境付近はかなり厳重に守られているようだった。その石壁の外に出てしまえば、木々の生い茂る山道が続く。

「デュライア、振り向いてみてください。面白いものが見られますよ」

 ふいにミシュエルが後ろを指さす。言われたとおり振り向くと、そこにはやはり出てきたばかりの白い壁が立っているだけだった。だが、にわかにその輪郭が揺らいだ。まるで蜃気楼のように、存在が薄らいで見えなくなっていく。やがてそこは街などあるとは思えない、ただの森になってしまった。

「消えちゃった……」

「用意周到なことで」

 私のつぶやきに、カイトの嫌みが重なる。物理的な壁と、魔術的な壁の二重構造でこの国が守られているのを改めて実感する。あまりいい思い出の少ない国ではあったけれど、目の前で見えなくなってしまうとそれはそれで寂しいものだ。





 山を下り、森を抜けると、やがて開けた場所に出た。黒っぽい石で組まれた壁が行く手に現れる。壁の近くに立っていた、門番とおぼしき虎族の人がこちらを見て驚いた顔をした。


「あ、あんた達、あの山の方から来たのか!?」


 彼は先ほど私たちが下ってきた山を指さし、尋ねてくる。そうですと答えると、彼は私たちを見回し、特にミシュエルを見てさらに驚いていた。


「え、エルフ! まさか、シルフェリオ方面から人が来るなんて……国交回復なんて話は聞いてないが」

「ああ、誤解をさせてしまったようですね。私達は旅人でして、例外的にシルフェリオの通行を認められただけです」


 おろおろしてしまった門番さんに、ミシュエルが穏やかに説明する。例外的、という言葉にいろいろ詮索はあるだろうが、門番さんはそれ以上は聞かないでくれた。


「そ、そうか、旅人か。であれば歓迎しよう。だが――物好きだなあ」


 彼は笑みを浮かべたが、ちらと私を見て顔を曇らせた。その目は(さげす)みと憐れみの混じった複雑な色をしていた。それはシルフェリオでアッグやカイトに向けられていた目によく似ているが、同情されているようにも感じる。ひょっとしてこの国にも種族差別があったりするのだろうかと嫌な予感が浮かぶ。



 町の中は麓の田舎町、という風情だった。ただ人の往来が少ない割に、宿屋が多く、立派な旅人協会もある。寂れた中に、かつての繁栄の面影を見るようだった。それを見回していたアッグが、残念そうに言葉を漏らす。


「なんか、閉まってる店が多いッスねー」

「ここシループの町はかつて、シルフェリオとの窓口になる宿場町だったはずですが……」


 かつての姿を知っているのか、ミシュエルも寂しそうに町並みを見ている。シルフェリオとの交流があったのなら、国交がなくなってしまって客も来なくなってしまった、というのがこの現状だろうか。

 ひとまず情報を集めるべく、旅人協会の建物に入る。人はまばらで、貼られた依頼の数も少ない。建物が広い分、余計に寂しさがある。そんな中、鷲のような姿をした真翼族の人がじろりとこちらを見た。


「む? 珍しい客だな」


 その人はじろじろと、特に私を興味深そうに見つめている。まさか星護であることを察したのかとも思ったが、英雄を歓迎するようなそぶりにも見えない。


「ああ? どいつもこいつもじろじろ見て、喧嘩売ってんのか?」


 カイトが苛立ちをあらわに睨み返す。鷲の人はしばしきょとんとして、だがすぐに笑うようにくちばしを鳴らした。


「いやいや、すまぬ、そんなつもりはなかった。だがここ最近、茶髪の人族の女の子が誘拐される事件をたびたび聞くのでな」

「茶髪の人族の女の子、って……」


 彼の言葉で、仲間の視線が一気に自分に集まった。確かに私の髪の毛は茶色いし、人族だし、年齢的にも女の子で特徴が合致してしまう。先ほどの門番の人がどことなく憐憫していたように感じたのは、最近の事件で私も誘拐される可能性があると思ったからかもしれない。


「……どういうことだ、誘拐事件だと?」


 カイトが眉をつり上げる。皆、緊張した面持ちで鷲の人の答えを待つ。私達に見つめられ、鷲の人は私も詳しくないが、と前置きしてから教えてくれた。


「このところちょうどそこの嬢ちゃんくらいの人族が何人も行方不明になってな、盗賊団などが連れ去るのを見たという証言も出ているらしいのだ。だから誘拐事件だといわれているのだが」

「盗賊団ということは組織ぐるみの犯行か……しかし、何故茶髪の人族の少女なのでしょう?」

「それは謎だな。特徴が一致している以上、誰かを探しているやもしれぬが……まあ、人族ならばいなくなっても探す人がいないと思われるのだろう」


 ミシュエルの問いに、鷲の人は首を横に振る。誰かを探していて特徴が同じ人を誘拐しているならとばっちりだし、特徴が一致している以上私も狙われかねない。そして、人族が軽んじられている気がするのも気にかかった。


「忠告、感謝いたします」


 ミシュエルの言葉をきっかけに、私達はその場を後にする。危険な情報に、私達は顔を見合わせるのだった。

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