飛んだ彼女
「いつか、僕に君を幸せにさせてくれ。」
目が醒めるといつもの白い天井が見える。
起き上がる為に手を付いたコンクリートの壁がやけに冷たい。
「結局答えなんて貰って無かったっけか」
なんて自嘲めいた言葉を吐きつつ渋々動き出す。
冷水で顔を洗って、歯を磨き、髭を剃る。
いつからか義務になったルーチン。最初は煩わしかったこの作業も、今では自分が「一端の人間」であることを確認するための、欠かせないタスクになっていた。
ベランダで火を点けた一本目のタバコ。肺を満たす煙にようやく今日という日を実感し、同時に、始まってしまった一日に絶望する。
「ピロン」
通知音に心臓が跳ね、指先からタバコが滑り落ちそうになる。急いで画面を覗き込むが、表示されたのは友人からの飯の誘いだった。
簡潔に「行く」とだけ答えて、頬杖をついて2本目に火を着ける。
「ピロン」
2度目の通知音に対し、期待感を抑えて一応確認すると
「京都到着!」
とのメッセージ。
顔認証のタイムラグにすら煩わしさを感じつつ、急いで指先でたった一文を何度も打ち直し、結局
「お土産待ってるね、気を付けて」
なんて無難な言葉に着地した。
彼女、柊真琴は僕の幼馴染なのだが半年前に突然、
「日本端から端まで旅したい」
と唐突に言い出した後、そのままの勢いで左から右まで旅をしているのだ。
当時は、何のこっちゃやら、僕の事が嫌になって馬鹿にしているのか、などと色々考えたものだが、こうして定期的に連絡は飛んで来るし、今では
「まあ、元気そうなら何でも良いか」
と達観の境地に居る。
慣れとは怖いものである。
そんな物思いに耽っていると、
「ピロン」
とまた通知音。
半ば確信を持って開くとやはり彼女からのメッセージと写真で、
「任せな!」
というメッセージと、サムズアップをしている自撮りが送られて来た。
相変わらずの元気さと、送られて来た自撮りを眺めてしばらく分の活力を貰いつつ、僕は渋々友人との飯の為に準備を始め出した。
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