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異世界召喚されたんだけど、なんか様子がおかしい  作者: よく知らんロボ
第一部 異世界にて

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 あと数センチと迫ったノクスの攻撃。

 動揺を隠せない牌谷さんとは対照的に、エルは心底落ち着き払って戦いを眺めている。


 この箱庭の楽園(ミニチュア・エデン)というものがどういう空間なのか理解しているからだ。


 ここの空気の成分はほぼルサーリアさんの魔力と同じなのだ。というか凝縮された彼女の魔力そのものと言っていい。


 そうなった理由は単純だ。


 呪毒湿原の一画にあるこの菜園は、過保護なルサーリアさんの張った魔法結界によって常に守られている。それはそれは超頑強なビニールハウスのように。 

 そして彼女は植物や蟲達の成育をより促進させる為に、自身の魔力毒素をこの閉鎖空間へと放出するのを日課としていたのだ。


 それを幼い頃からずっと続けてきたらしい。


 例えるならそれは、虫籠むしかごのペットへの給餌や、育てている作物への施肥せひと同じこと。


 本来の目的はそこであったんだろうけど、放出し続け余った魔力もまた長い年月を掛けて堆積し凝縮されていく。

 つまり副次的に出来上がったのがこの魔女の濃縮魔力空間という訳だ。


 これはルサーリアさんにとっておまけのような恩恵なのだろうけど、地面、生物、空気、環境全てが彼女の味方する上に空間全てが彼女の一部といえる箱庭の楽園(ミニチュア・エデン)はまさに、魔女の絶対領域。


「爪が、届かない……!?」


 あと数ミリ。ノクスの鋭い爪がルサーリアさんに届くかと思った瞬間、そこでやつの動きは止まった。


「無理だよ、ここでは、私に強く触ろうとすると、空気が……守ってくれるから」


 空気中の魔力を圧縮した防護障壁。


 箱庭の楽園(ミニチュア・エデン)の中ではそれがウェットスーツのように彼女の全身を覆い守護している。


 それは彼女の意思とは無関係に発動。背後を取ろうと神速の一撃だろうと、ここでは彼女の魔力障壁を打ち破れる威力の攻撃意外は全て無力化されてしまうのだ。


「く、これは……。半端な攻撃は消耗するだけという訳ですか。なるほど乾坤一擲けんこんいってきしかこの窮地は脱け出せませんか……」

「何をしても……出られないよ。ノクス、打撃、苦手なのも……知ってる。メナスフィア、もう一回、ボコボコに……しちゃえ。」


 ルサーリアさんの言葉を聞いた浮遊ダンゴムシ達がノクスを取り囲む。


 なるほどあれがメナスフィアの正体か。


 丸まったダンゴムシとほぼ同じ見た目、違うのは大きさだ。ここでは比較的マシな見た目と言える……のかな。


 メナスフィア達は円を描くように旋回し始めると同時に一斉に透明化、そのままノクスへと高速の体当たりを開始した。


「がっ! これは感知が……ぐっ!」


 先程とは違う澄んだ空気、それでもノクスはメナスフィア達が全く見えていないらしい。


「ここでは、さっきみたいな、力業ちからわざは……出来ないよ」


 ノクスが毒瘴気の霧を魔力の解放で吹き飛ばしたあれか……、あの時も霧を払うまでメナスフィアは見えていなかったな。そして今も見えていない。共通するのは……。

 ……なるほど、ノクスの感知能力の正体が解ってきたな。


 なら一つ、ノクスに接近して試したい事がある。


 魔力毒素は常態パッシブで対応可能だから箱庭の楽園(ミニチュア・エデン)への侵入も問題無し。


 一番の足枷は魔力残量だけど──。


「え、クロ君? それまた飲んでる!? よく知らないけど大丈夫なやつなの!?」

「心配しないでください、ちょっとした栄養ドリンクです。半分くらいならまだまだ大丈夫……なはずです」


 そう、半分だけ紫スキルポーションを飲んで魔力を回復した。半分でも効果は抜群。

 よし、これなら十分やれそうだ。


「エル、ルサーリアさんと情報共有できるってことはログでの会話もできるってことだよな?」

「ああ、勿論なんダヨ。それがドウした?」

「じゃあこの後、俺がエルに送る言葉をそのまますぐにルサーリアさんに送って欲しい」

「それは可能ダ。クロ、また何かするノカ? コノままサリーに任せレバ安全ダゾ?」


 エルの言うことは間違っていない、戦闘は絶対的と言っていいほどルサーリアさんの優勢、ノクスは見えない打撃に防戦一方だからな。


 それでも二人に共通している点はある、次に放つ一撃の準備だ。


 天を仰ぐように両手を掲げたルサーリアさん。メナスフィアは決定打にはならないと判断したのだろう。

 何をするつもりか解らないけど彼女の頭上では、透明な魔力が空間を歪ませ目視できるほどに凝縮されていっている。


 一方ノクスはメナスフィアの攻撃に耐えながら右腕に黒い魔力を集束。奴の右腕は禍々しいほど鋭く大きな魔力を帯びつつあった。


「まあそうなんだけど……、もうちょっとだけ頑張ってみたくて」

「……何か考えがアルんダナ。解ったんダヨ、サリーへの伝言は任セロ。でも捲き込まれて死ぬナヨ?」


 エルは本気で心配してくれているらしい。感情の抑揚は少ない奴だけど、それがなんとなく伝わってくる。


 このまま大人しくしておけば、エルの言うようにルサーリアさんの勝利で終わる可能性は高いだろう。ゆえに今あの二人に近寄るというのは自殺行為と同じに見えるかもしれない。


 でも逆だ。何故か、黙って見てるだけじゃ良くない。そんな胸騒ぎがする。


 俺は生き残る為に動く。


 そしてこの場の誰も死なせない。


 そう決めたからにはこの気持ち悪い蟲の海も我慢だ……。ぎぃぃ……イヤぁぁぁぁ!


 心で絶叫しながらも、強い決意を持って箱庭の楽園(ミニチュア・エデン)に足を踏み入れた。

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