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さっき浄化した奴らが起き上がってきてる。
何でだ……。
原因はすぐに解った。
浄化したのとは別の黒い触手が地面から涌いて出ては、転がっている死体に入り込んで新たなグールとして戦線復帰しているようだ。
こうなったら地面ごと浄化した方が早いのか……。
そう考え、地面に触れてみる。
『浄化対象を感知。対象、不浄域、魔力不足により対象の浄化に失敗』
なにやったらこんなに土地が穢れるんだよ……。
そこかしこにある、やたら禍々しい拷問器具や処刑用具がこの穢霊達を産み出したんだろうか。真相は解らないけど、きっと一因ではあるよな。
しかし、膨大な魔力の持ち主ならこういうの土地一帯ごと浄化しちゃうんだろうな。そんなのはまさに奇跡、救世の名に相応しい所業と言える。
本来、救世の翼はそういう規格外なコンセプトなのかもしれない。
こんなスキルを使う人間を想像してみると、脳裏に浮かぶのは全てを癒し浄化する聖女の姿だ。
ここにいるのが俺じゃなくて斉藤さんなら牌谷さんも余裕で助けられたんだろう……。
紫スキルポーションでゴリ押すにしても限度があるし、その後もある。コイツらを倒せば万事解決な訳じゃない。
押し寄せるグールに起き上がるグール、苦しげに横たわる牌谷さん、足りない魔力総量、嫌でも絶望の二文字が脳裏に浮かぶ。
いやまだだ、諦めるな俺。
思考は止めるな、何かあるはずだ。
光属性スキルはまだ他にもある……、でも浄化よりこの場に適したのなんてあるわけない。
あったらそもそも始めから使っている。
……いや一つ、可能性が無きにしも非ずなスキルが、あるにはある。
『スキル:光源』
『ランク:コモン』
『フォーム:能動、補助』
『魔力を消費し、周囲一帯を明るく照らす光球を造り出す』
これならもしかしたら浄化できないまでも追い払うくらいはできるかも……、だけど穢霊をいくら追い払っても死体が残っているんじゃ意味がない。スキルを止めればすぐに動き出すだろう。
何よりこんな暗闇で使うにはこのスキルは目立ち過ぎる、そもそも敵はグールだけじゃないんだ。
………………いやまてよ、死体。
……そうか、ずっと「光属性が弱点」という情報に囚われ過ぎていた。
グールの宿主はただの死体だ。
ならいけるか……、頼む起死回生の一手になってくれ──。
『闇の手スキル、“死体処理班”を発動』
闇の中に、闇より黒い亀裂が入る。
そこから現れたのはいつもの太長い舌……ではない。
「ナンカ、イッパイ、ゴ飯ノ気配ガスル……」
亀裂から出てきたのは、招き猫のような顔をした漆黒の毛並みの巨大モフモフ。
だが勿論ただのモフモフじゃない、多分こいつが闇の魔獣だ……。
闇の魔獣は亀裂から出でて全身を顕にすると、グールの群れ目掛けて猫まっしぐら。
見覚えのある長い舌を使ってグールを絡めとり、自身の大きな口に放り込んで噛まずに一呑みしてしまう。
これは……想像以上の効果みたいだ。
闇の魔獣が出てきた途端、グール達の挙動もおかしくなった。一匹、また一匹と力なくその場に崩れ臥していくのだ。
どうやら死体を操っている穢霊が抜け出したから、らしい。
地面には黒い触手達がウネウネと蠢き、大地に溶けるように消えていく。
あいつら、闇の魔獣から逃げているんだろうか。
うーん、まるで群れに突っ込んできたサメから我先にと逃げ惑う小魚達みたいだ……。
身体の体積を優に越える量の死体達を食べ尽くした闇の魔獣は、「アリガト……」と一言告げにくると出てきた亀裂に頭、前足と順に突っ込んだ。
最後は長いモフモフ尻尾が、バイバイと手を振るよう揺れながら闇の中へと吸い込まれるように消えていく。
辺りに静寂が戻る頃には、空間の亀裂は跡形もなく無くなっていた。
死体《ご飯》、いっぱい用意したら出てきてくれるんだ……。デカイけどけっこう可愛かったな……。
じゃないじゃない。呆けてる場合か、牌谷さんは大丈夫か……!?
急いで仰向けになっている彼女の元へ駆け寄り、呼吸を確認してみる。
生きてる……、ふぅぅぅぅ……。
なんとか窮地は脱したと胸を撫で下ろし、たぶん今までの人生で一番長い安堵の溜め息をついたと思う。
でもまだ安心はできない、次は彼女の体調不良の原因を調べないと。そして可能なら治療を施すのが急務だ……。




