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たどり着いたのはかなり大きな部屋だ。
中央にはスキル抽出施設にあったのと同じような焼却炉に似た設備が設置してある。
あっちは人の背丈ほどの大きさだったけど、こっちはその十倍くらいは大きい。
エルの知識で知ってはいたけど、実物を目にすると部屋も装置も思っていたより大きくてちょっと驚かされる。
薄暗い中、ゴブリンやオークが死体をその設備へと運び放り込んでいる。
死体は人間だけではない、闘技場で敗れたと思われる魔族や魔物もごちゃ混ぜだ。
死体なら何でもいいのか……?
ここはなんの施設だろう、ただの死体焼却炉か? どうやらしっかり稼働しているようだけど……。
声は出せないから牌谷さんに目配せして、こっそり炉に近づいて観測窓を覗いてみた。
中はスライムのようなドロドロとした赤い液体で満たされている。
何かは解らないけど、燃やす為の装置じゃないのは確かだ。どうせろくな設備じゃないんだろう、死体の再利用とかそういうやつの可能性大だよな。
そうだ。
『エル、この設備ってなにか知ってるか? 知ってたら教えて欲しい』
『もちろん、いま共有したんダヨ』
脳内に新たな情報が一瞬で書き加えられる。
なるほど、こいつはこの城のエネルギーインフラの心臓部だそうだ。
いや「この城の」だけじゃないな。
城下町を含むこの辺り一帯のエネルギー供給を賄っているらしいから、実質この国の心臓部と言ってもいいかもしれない。
その名も『星幽炉』
『マナ』の採掘と変換を目的とした設備だ。
『マナ』とは星の命の欠片。
大地、海、大気などを通じて全ての生命にあまねく注がれる、生物の魔力の根源となる微粒子らしい
そんな地球には存在しない概念のエネルギー源をここで吸い上げ、『魔導気』という電気やガソリンのように色々なものを動かす燃料、動力源的なものに変換し、城と城下町全体に供給しているそうだ。
さっき俺が疑問に思っていた照明灯やベルトコンベアなんかも、この星幽炉が生成した魔導気が送られることよって光を放ったり動いたりしているという訳だ。
そして魔族達がせっせと運んでいる死体は、肉、骨、内臓、残留魔力、その全てがこの装置を動かす為の燃料となるとのこと。
なんていうか、マナを石油として例えるなら魔力や魔導気はガソリンや灯油、または電気みたいなもんに該当するのかな……? まあちょっと違うのかもしれないが、性質は似ているんじゃなかろうか。
つまり、ここは魔族達のウィークポイントと言える……のかもしれない。
破壊、しちゃおうか?
いやいや、そんな派手な行動を起こすのは今じゃないか……。
まずは牌谷さんを連れて無事に外へ出るのが最優先だしな。
でもこの『星幽炉』の存在は覚えておこう。何かに役立つかもしれない。
しかし、うーん、出口か……。
部屋には、降りてきた階段を含め、五ヶ所の登り階段が存在する。
一つは御存知のように俺達の降った階段だ、闘技場の下層へと繋がっているアレ。
他の四ヶ所はそれぞれまた違う場所へと繋がっている。
多分あらゆる場所から燃料となる死体をここへ降ろす為の搬入路だろうな。
要するに出口は四通り、そのどれかから最適な階段を選らばなければならない。
それぞれ辿り着く場所は解っている。
が、しかし。
さっきも言ったがその先にどんな奴がいるかまでは解らない、これが問題だ。
ちなみに四つそれぞれの階段が繋がっている場所はこうだ。
一、町外れの大規模な集合墓地。
二、この城から一番近いダンジョン。
三、闘技場と同じく城のすぐ横に建設されている牢獄のような施設。
四、この城から程近い屋外処刑場。
出口と城からの距離が遠い順番は、二、一、四、三。
それを基準に考えるならダンジョンと墓地には行きたくないな……、この城から離れすぎている。
安全な場所まで逃げるというのは目下の急務ではあるが、最終的な目標はこの世界から元の世界へ帰ることだ。
牌谷さんも魔王に「元の世界に帰らせろ」と言っていたし、この辺りは彼女と共通の認識だと思っていいはず。
だからこそ帰るための重要な手掛かりだと思われる、昨日みんなが召喚された魔方陣の部屋があるこの城からはあまり離れたくはない。
そうなると行くなら牢獄施設か処刑場ということになるが……。
どっちが正解だろうか……。




