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知識のリンクによって判明した外へと繋がるルートは、俺の予想した通りでだいたい合っていたようだ。
たださっきエルに言われたように死体の搬入口の場所が見当違いだったらしく、それは外側の壁ではなく下層の中央に聳えるリングの支柱に存在した。
「あった、ここだ。開くようになってます」
「ほんとだ。中は、下に続く階段だね……降りてみる? しかないよね」
薄暗くて薄気味悪い階段だな、血の臭気も濃いし……。
この先に何があるのか、知ってはいるけどそれでも不気味なもんは不気味だ。
横で慄いている俺をよそに、牌谷さんの顔には恐怖や不安の色はない。
闘技場の時から思ってたけど、肝が据わってんなこの人。
「はい、行きましょう。エルのお陰でどこへどう出られるかはもう解ってます」
「へぇ、エルちゃん凄いんだね」
「エヘヘ、キズナちゃんに褒められると照れちゃうんダヨ」
ちっ、何が「照れちゃうんダヨ」だコイツ。俺のときと反応が違い過ぎるぞ……。まあ、だいぶ慣れてきたけどさ。
そんな和やかな雰囲気は、階段に足を踏み入れると共に緊張感へと変わる。
狭くて急な階段だ、隣には滑り台のようなスロープ状のベルトコンベアがついている。
多分こいつで死体を下まで降ろすんだろう、その証拠にベルトには血糊がびっしりとこびり付いている。それにしても意外と発展した技術があるんだな。
なんてことを考えながら暗がりを一歩づつ進んでいく。
しかし、こんな狭い階段でいきなり魔族と鉢合わせたら回避できないかもしれないな。
城の構造が解ってはいても、どこにどんな奴が潜んでいるのかまでは解らないんだ。
急にばったりぶつかるなんてのも無きにしもあらず。
そんなことにはならないよう神経は研ぎ澄ませておこう、警戒は怠るな。
そう言えば、俺はこの暗さでも感覚強化のお陰でなんてことはないけど、牌谷さんは大丈夫だろうか。
手を繋いでいるとはいえ少し心配だ。
そう思ったので、振り返り小声で確認してみる。
「足元気をつけてくださいね、ゆっくりで大丈夫ですよ」
「ん? ああ、平気だよ。ウチ昔から夜目には自信があるんだ」
「へぇ……」
そう返事をしてふと視線を向けた彼女の眼。
凝視する訳にもいかないのですぐに目を逸らしたけど、確かに見た。
通常、人間の黒目の真ん中には瞳孔が丸く開いているはずなんだけど……なんか形がおかしかった。
人間には有り得ない、縦長と横長の瞳孔が合わさったような十字型の瞳孔。
性格上まじまじと女性の顔を見るのは苦手だから気づかなかったけど、もしかして牌谷さん……人間じゃないのか。
まさか魔族側の……?
これまでの流れは罠か何かってことか……?
いや、多分それはないか……。確信できる理由はいくつかある。
一つは未来視で見た彼女が、魔女にしっかり殺されていたからだ。牌谷さんが魔族側ならさすがに殺されるのはおかしい。
もう一つ、魔王とノクスが俺というネズミの存在に気づいたのは、未来視の制限時間から考えて彼女が死んだ少し後だろう。
なら牌谷さんが魔族側に加担しているとは考えにくい。
いや、でもスキルという存在があるこの異世界だ。どんなスキルがあるか解らないんだから、それだけじゃ確定できないか……。
いやいや、罠なら俺はとっくに殺されているはずだろう。……いやもしかして生け捕りが目的かも、もしくは他に仲間がいないか確認するため泳がされているとか……?
一度なにかに気づいてしまうと、疑念というのはいくらでも涌いてきてしまう。
昔からそういう陰気で疑心暗鬼な性格をしている、俺は。
こんな魔界のような異世界に召喚されたことで、余計それに拍車が掛かっているらしい。
彼女の事を疑いたくはないけど、用心するに越した事はないか。
そう、誰に対しても警戒心はマックスに保っておけ──。
「はは、さすがに緊張してきたかも。クロ君、勇気あるね」
そう言いながら、繋いでいる手にもう片方の手も添えて、俺の右手を両手で強く握り締めてくる牌谷さん。
はうぅ……! に、握り締められているのに、なんて柔らかい感触なんだ……!
ああ、あれ、なんだこれ、さっきまでの懐疑心が一瞬で霧散していくうぅ……。
この後の俺はきっと、悟りを開いたブッダのように澄んだ目をしていたと思う。
うん、もう、あれだ、罠でもいいや……。
人は、信じなきゃね……。




