一話
はじめまして、鬼灯更紗です。
書き始めたからにはどれだけかかっても完結まで頑張りたいと思いますので、よろしくお付き合いくださいませ。
精緻な銀細工の燭台で、蝋燭の炎が揺らめく。
正確には、蝋燭ではなく魔力の炎らしいが、俺には蝋燭にしか見えん。
床には扉から俺の座っている椅子まで……否、椅子の後ろにある壁まで真紅の絨毯が一直線に敷かれ、天井には豪奢な半透明のシャンデリア。
ちなみに外観はかなり立派な石造りの城だ。部屋数は把握するのもめんどいぐらいある。
門から城の入り口まではアーチがあり、ここにしかない漆黒の薔薇が咲き誇って通るものを楽しませる。噴水はないが、薔薇の生垣が迷路のように作りこまれているので城のバルコニーから見下ろすと中々に壮観だ。色は緑と漆黒だが。
門から始まる城の敷地内にあるもの全て、俺の……魔王の魔力で構成されているらしい。内装から城内の構造、生垣やアーチの形、その他諸々全て。
だから、俺が変えたいと思えば変わる。それも一瞬で。
最初にこの王の間に踏み込んだ時、成金趣味満載って感じの悪趣味な黄金の玉座を見た瞬間、即座に作り変えた自分がいた。あんな悪趣味な椅子には座りたくなかったからなぁ。
今座ってるのは、光沢のある黒の素材で出来た落ち着いた椅子だ。
あ、言い忘れてた。俺の名前は夜魔聖。れっきとした日本人男子で、大学生……だった。ちょっと前までは。
通学途中に強烈な眩暈と頭痛に襲われて、咄嗟にきつく目を閉じて蹲った俺が再び立ち上がった時、周囲はすでに魔界だったのだ。
ざっと周囲を見回した時には、俺はもう答えを得ていた。と言うか、俺の頭の中に勝手に答えが浮かんできた。
すなわち、ここは魔界であり、俺はたまたま器を失くした魔王の魔力の次の器に選ばれてこの世界に呼ばれたと言う事を。
ちなみにこの時、ふざけんなと思った直後にあちこちに落雷があった。
どうやらこの魔力、俺の感情にも呼応してあれこれ現象を起こすらしい。傍迷惑な。
何せちらっとあの山邪魔だな、と思っただけで次の瞬間そこが更地になるなんてありえないだろ、普通。だから、一定量の感情じゃなければ魔力が反応しないようにあれこれ頑張った。じゃないとただの公害だ。
「……チートにも程がある」
「どうかなさいましたか?魔王様」
「いや……」
いかんいかん。思わず口から呟きが出てたわ。
傍らに常に控えてる宰相が即座に対応し、俺の正面で跪き、低頭したまま報告していた将軍は不興を買ったかと青褪めている。頭の上についてる獣耳が。
「……続けろ。気にかかる点もあったが、聞き終えてからでいい」
「はっ」
再び張りのあるバリトンが報告をし始めるのを聞きつつ、頭は別の事を考える。
無駄にチートな設定されてるおかげで、明後日の事考えながらでも報告を聞くぐらい造作もない。
宰相のイデアは悪魔王。
3将軍の一人、アディスは魔獣王。
後の二人は魔竜王のレジフと、吸血鬼王のアースラ。
この四名が俺に次ぐ魔力を持ち、魔大公の位にいる。権力で言えば俺のすぐ下だ。
ちなみにアディス以外は揃いも揃って曲者なので、アディスは魔大公一の苦労人だ。常識人って大変だなぁ、と毎回思う。
絶対数は魔獣>悪魔>吸血鬼>魔竜の順だが、実力順にすると魔竜>吸血鬼>悪魔=魔獣になる。
個々ではなく、種族全体の能力で分けた結果だから、魔大公四人がそれぞれガチバトルしたら結果はその時の体調やら時の運やらで大分変わると思われる。
まぁ、その前に魔界の半分が焦土になりそうだからやらせないけどな。
ちなみに魔獣と魔物は別物。言葉が喋れてかつ人の形になれるのが魔獣。魔物は喋れても片言で、人の形にはなれない。
と、全然関係のない事を考えてたらアディスの説明が終わった。
「……勇者、ね」
「いかがなさいますか?」
「俺の命は聞かないと地上に飛び出して行った奴等がいた筈だが……原因はそいつらか?」
「おそらくそうでございましょう。現在我等四種族、全て魔王様のご命令により地上の者等と不必要な対立、接触はしておりませぬゆえ」
アディスの報告は、要約すれば『地上で魔王を名乗る魔族が暴れまくって被害甚大。業を煮やした神聖王国が近々勇者召喚の儀を執り行うらしい』と言う事だった。
かつて人間だった俺は、やはりまだ人間としての感覚も持っている。だから、魔王権限で『人間に迷惑をかけるな』と言ってみた。
知識を総動員して調べた結果、どうしても人間を殺さないと生きていけない種族はいなかったから。吸血鬼にしろ悪魔にしろ、魔族が人間を襲うのは一種の趣味のようなものだ。
人間に媚び諂う気はないが、必要以上に軋轢を生もうとも思わない。歴代魔王の時代から積もりに積もった怨念は魔王の業として受け入れるが、俺の代で新たな怨念を作るつもりは更々なかった。
だからこそ、強者には絶対服従と言う魔族の習性を利用した、魔王権限の禁止令を発令したのだ。聞かなかった奴が若干いたけど。
「引き続き、情報収集を行え。地上で暴れているバカ共が一掃される分にはかまわんが、それが俺の命だと勘違いされ、こちらに被害が及ぶ可能性もある」
「承知いたしました」
「くれぐれも余計なちょっかいは出すな。……イデア」
「はい」
「アースラと協力して地上で暴れてるバカ共の詳細を調べろ。勇者に負ける気はないが、鬱陶しい面倒事は起こる前に潰すに限る」
「魔王様が自らお出ましになるのですか?」
「……これ以上目に余る特大のバカをかますなら、な」
「畏まりました」
一礼したイデアが転移で消える。
珍しく一人になった王の間で、肘掛けを利用して頬杖をついて、窓の外に広がる魔界の光景を見るともなしに見る。
現在、魔界はすこぶる平和だ。
人間にちょっかい出すのが趣味だった魔族連中は、今は魔物狩りや畑仕事と言った新たな趣味に目覚めている。
原因は、俺がこの城の地下にある、魔界全土を潤している源泉に血を一滴落としたからだ。
一滴でもとんでもない魔力を有していたらしく、結果、水を介して魔界全土に俺の魔力が満ちた。
更に、魔力を有した水を飲んだ魔物やそれで育てた作物の質が大幅に向上。
強さも上がったから狩るのが難しくなり、人間狩るより面白い、と魔竜族や魔獣族が嬉々として狩っている。元々魔物の肉は魔界では食用としても使用されていて、今までは人間や人間界の家畜の方が美味かったらしい。しかし、俺の血で味が格段に良くなったから、今では率先して魔物を狩り、肉が主食の種族の集落には肉屋がある。
野菜や果物を食べる風習は一部にしかなかったらしいが、俺の魔力でこっちもかなり上質になった為、あちこちで畑を作る連中が増えた。一番熱心に栽培してるのは悪魔と吸血鬼の一族。
精気や魔力を糧にしてる連中だが、俺の魔力をたっぷり含んだ水やその水で育てた野菜、果物などで十分過ぎるほど満たされるから人間襲う必要がなくなったらしい。今や協力して品種改良にまで手を出してる始末だ。美味いからいいけど。そのおかげで、どの種族の集落にも八百屋があり、魔竜族からはなんと菜食主義者が出たらしい。
レジフが笑いながら報告してきたんだが、どう反応しろと?
ぶっちゃけ、品種改良技術は人間界より遥かに進んでると思う。
迷い込んで来たり諸事情でやって来て永住してる連中の為に、人間界で広く栽培されてる野菜や果物とか料理に使われてる香辛料とか、色々作られてるから。
最近では食用に出来る花を作ろうとしてるらしい。どこまで行く気だ、あいつらは。
ちなみに月一単位で源泉には血を垂らしている。ほっといて薄まられたら困るからな。
おかげで源泉の真上、つまり城の敷地内で育ててる野菜や果物の質はかなり良い。ここの葡萄で作ったワインは魔大公達の争奪の的だ。
つまり、わざわざ人間界まで遠征して略奪だの虐殺だのしなくても、魔界で十分自給自足が可能になってるって訳だ。
俺としても、わざわざ世界が違うとは言え元々の同族と戦争したいとは思わない。だからこそ……この平穏を壊そうとする奴に容赦してやるつもりはない。
守るべき魔界の民に手をかけるのは、正直ちょっと気が引けるんだが……。
「魔界に害が及ぶなら……」
そうなる前に、排除する。
誤字脱字等ありましたら音速でつっこみをいれてやってください。
作者は妙に抜けてますので素で気付いてない場合が多々ございます。




