二話
イデア以外の魔大公の口調が定まらない……特にレジフ。
だから今回彼はいなかったり……。
精進します。
人間界で一番広大な土地と強大な権力を持ってる神聖王国が、地上で暴れてる自称魔王討伐の為に勇者を召喚すると言う噂をアディスが仕入れてきた二日後。
二日前にアディスが片膝ついて跪いてた場所に、今度はアースラとイデアがいる。
「……報告を聞こう」
「直属の眷属に探らせた結果、本拠地としている場所と規模、人間界への被害が判明致しました」
「随分と派手に暴れまわっているようです。魔界の入り口から正反対の、辺境に位置する小国を乗っ取り、そこを起点として隣国を次々蹂躙しているとか」
「…………バカ共め」
あまりの行動の阿呆さ加減に呆れかえる。ついでにムカッと来た勢いで魔界の空に雷鳴が響き渡って、慌てて感情を制御した。
一瞬でボーダーラインを超えた場合、魔力が動くのはどうしようもないから、その後に余計な現象が続かないようにするぐらいしか対策が取れないのがちょっと厳しい。
驚かれただろうなぁ、あの雷鳴。近くの街に住んでる魔獣族が拾ったって言う人間の女の子、怯えてなきゃいいけど。
「規模は?」
「前魔王陛下のご子息を筆頭に、四種族合計で500ほどです。情けなくも我が吸血鬼族の者が二割。大半は魔獣族との事でしたが……腹立たしい事に我が一族が一番恥知らずな行動を取っておりました。陛下、ご出陣の際には是非、私もお連れくださいませ。あの恥知らず共は我が一族に名を連ねる価値すらございません。この手で葬りたく存じます」
「……お前もか?イデア」
「お許しがいただけるのであれば、今すぐ実行に移したいですね。アディスとレジフも同じ事を言うでしょう。仮に魔界への帰順を望んだとしても、地上で虐殺や略奪、蹂躙する事に慣れきったあの連中が今の魔界のあり方に適応するとは思えません。人間と見れば飛び掛って引き裂くような、陛下の不興を買う道まっしぐらなバカ共です。生かす価値もない」
にっこりと、とても綺麗な、しかし目が全然笑ってない顔でイデアが笑う。
背後に大魔神が見えた気がするが気のせいだと思っとこう。
とりあえず、魔大公四人を怒らせるほどの超絶なバカを人間界に飛び出してった連中はやってるらしい。酌量の余地とか与える気、皆無だな、こいつら。俺もないけど。
さて、どうするべきか。
地上のバカ共に容赦をする必要はない。が、下手に出て行って神聖王国が召喚しようとしている勇者と鉢合わせしたらかなり面倒だ。
アディスから何の報告もないから、まだ召喚の儀を行ってはないみたいだが、移動中に儀式をされる可能性がある以上、迂闊には動けない。
「「陛下!?」」
「……騒ぐな。召喚の円陣だ」
「召喚?人間がピンポイントで陛下を召喚しようとしていると?身の程知らずな」
「しかし我等四種族ならまだしも、陛下を直接召喚できる腕の持ち主が人間にいるとは思えんぞ。第一、円陣自体がない筈だ」
「では実際に玉座の真下に浮かんだ円陣をどう説明するんですか?」
今後の方針を考えてたら、椅子の真下に召喚の魔法陣が出てきた。
同時に叫んだアースラとイデアを制して観察すると、与えられた魔王の知識が答えを伝えてきた。
魔大公すら直接召喚する事が出来ないのに、そこをすっ飛ばして魔王に到達するのは人間には不可能。故にこれは、女神の業。界を越え、空間を越えて、世界を調停する者を召喚する為の陣。
理解した途端、笑いが漏れた。
これは笑わずにはいられない。だってなぁ?これ、勇者召喚の魔法陣だぞ。
地上で魔王を名乗って暴れてるバカを討伐する為に、神聖王国が女神に願って行っている儀式。本来なら、この世界か、俺がかつて存在していた世界か、はたまた全く違う別の世界から、魔王を倒す為の存在を連れて来る為の魔法陣。
それが、この俺の、現魔王の足元に出現した。
笑わずにはいられない。だが、好都合。
魔王の魔力の器に選ばれて魔界に召喚された時は「神様なんぞクソくらえ!」と思ったもんだが、今回ばかりは感謝だ。これで、地上のバカ共を倒した勇者が勢いづいて魔界にまで侵攻して来ると言う事態にはならない。
俺が、させない。
「……面白い」
「まさか、応えてやるおつもりですか?」
「好都合だからな」
「陛下、ご説明いただきたく存じます」
くつくつ笑い続け、詳細を語らない俺を二人が不思議そうに眺めている。
痺れを切らしたらしいイデアが問いかけるのとほぼ同時に、珍しく扉を使わず転移の魔法でアディスが王の間にやってきた。
余程慌てているらしく、転移の着地点がアースラの真上で、現在進行形で潰している事に気付いていない。かなり珍しい光景にイデアは笑いを堪えてプルプルしているが、放っといたら血の雨が降りそうだから、軽く手を振ってアディスに踏まれていたアースラを横に移動させた。
恨めしげにアースラが睨んでるんだが、全く気付いてないな、アディス。
「……どうした?」
「神聖王国がついに勇者の召喚を――っ!?」
「あぁ、これがそうだ」
足元を見て硬直されたから、とりあえずアディスの脳内に到来してるだろう疑問を肯定してやっといた。イデア達も思いっきり固まったなぁ、おい。
「魔王の俺を勇者として選定するとは、この世界の神は何を考えているのやら。まぁ、無駄に熱血で正義感に満ち溢れた奴が勇者として召喚されるよりはマシだが」
「確かに。陛下が勇者も兼任されるのであれば、魔界が脅かされる事はなさそうですが……人間が納得するでしょうか?」
「いや……聞いた話だが、勇者とは、人間が神に乞い、神が選定して地上に送り出す者。言わば神の代理人らしい。勇者を疑う事は、その勇者を選定した神を疑う事だ」
「なるほど。ならば、神の一の子と常々公言している神聖王国の人間達は、召喚されてきた陛下を疑えぬな」
納得したらしい三人がいっせいに俺を見た。
同時に膝を折り、異口同音に「ご命令を」と言う姿は非常に様になっているが今回俺が命じるのは待機だ。正確には呼ぶまで待機。
「これは一人用だ」
「では陛下、愚か者共を粛正する際には、お呼びいただけますか?我等を」
「あぁ、お前達四人を呼んだ方が確実だ」
「では、レジフには俺が伝えておきましょう」
「任せる。……イデア」
「はい、エレノア料理長にだけは陛下のご不在をお伝えしておきます」
「頼んだ」
お任せください、と言う各々の返事を聞きつつ召喚に応える。
最初にこっちに呼ばれた時のような頭痛も眩暈もなく、ただ浮遊感だけがある。慣れたのか、それとも勇者召喚と魔王の器を呼び寄せるのは違うのか……さて、どっちだろなぁ。




