介護士は根本を考える
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「何だ、ありゃ……。」
俺は呆れていた。
獣人が騒ぎを起こしたというから来てみたのに。黒幕がいるかもしれないと期待していたのに。そこにあったのは、いがみ合うエルフの軍団2つ。しかも獣人と戦いながらの三つ巴。意味が分からない。なんだこのカオス。
「しょうもない貴族同士の意地の張り合いってとこっすね。」
「巻き込まれる兵士が不憫だわ。」
マクセンとアルテナもため息しか出ないようだ。
「……ともあれ、黒幕の姿はないな。」
「そうっすね。探知魔法はどうっすか?」
「反応なしね。」
「……宰相のやつめ。あれほど頑固だとは……。」
エルフの王は、ため息交じりに私室のベッドへ身を投げた。
封建制を撤廃して、中央集権にする。王の改革を、宰相はかたくなに反対した。いくら今のままではマズイと説明しても、既得権益を失うのが惜しいという。実際には「軍を持たないのでは身の安全について不安が残る」だの「行政代行官として強制力がなくなるのでは仕事にならない」だのと言っていたが、本心は分かっている。
司法・立法・行政。この3つを1人が握っている現在の体制では、領主は「俺が法律だ」をやり放題だ。凄まじいまでの自由裁量権である。賄賂とか水増しとか、そんなレベルではない。搾取ができる。宰相はその既得権益を失うのが惜しいのだ。
困った事に、宰相1人だけではない。大勢の大臣たちが宰相一派として徒党を組んで反対してきた。宰相一派に入っていない連中も、国のためになる改革だとは理解できても、なんだかんだ自分の利益が損なわれるのは嫌であるらしい。
四面楚歌。あまりに反対意見ばかり聞かされるので、王はだんだん自分がおかしいのかと思い始めた。
「そんなはずはない。この改革は正しいはずだ。
……そうだ。既得権益に関係ない庶民の意見を聞いてみよう。」
王はこっそり城を抜け出すことにした。
しょうがないので、俺たちは近くの街へ引き上げた。
何より困ったのは、エルフの軍団があんな様子では、黒幕についての情報提供も受けられないだろうという事だ。黒幕の存在に気づいていなかった場合でも、こちらの情報提供を受け入れないだろうと予想される。困った状況だ。本当に「来てみただけ」で何も出来ない。
「エルフは長寿だというから、もうちょっと精神的に……こう、大人な種族だと思っていたんだが。」
「寿命よりも体験の濃さっすね。」
「ジャイロと一緒にいると痛感するやつね。」
エルフですら、こうだ。
ならば人間にも同じことが起きるはず。
「……どうすればいいと思う?」
「何がっすか?」
「いや、貴族同士で対立って、俺にも起きるかもしれないから。ほら、一応男爵になったし。」
「ああ……でも、兄貴なら力でねじ伏せるっていう選択肢もあるっすよ?」
「巻き込まれる兵士が可哀想なのは変わらないわね。
何か、こう、対立を禁止する法律でもあればいいんじゃない? 国王が対立した貴族を喧嘩両成敗で領地を減らしちゃうとかさ。」
「抑止力か……。」
前世にもあった考え方だ。
しかし、根本的・本質的な解決法にはならない。抑止力は結局「別の方法で戦おう」とか「バレなければいい」とかの考え方を生むので、対立そのものをなくす事はできない。
物事を効率化したり問題を解決したりする場合には、できるだけ根本的・本質的な問題から考えた方がいい。
利用者Aと利用者Bが喧嘩を始めた。
ここで「じゃあAさんとBさんを離れた場所に座らせよう」と考えるのは、根本的な解決にならない。
なんでAさんとBさんは喧嘩するのか、という事から考えるのが根本的な解決につながる。
そうしてみると、AさんはBさんに対してやたらと「こうするべきだ」という考え方を押しつけるので、Bさんが嫌になってしまって喧嘩に発展するのが分かった。いつも先に手を出すのがBさんだとしても、これはBさんが悪いのではない。Aさんがちょっかいを出すのが悪い。そして、ちょっかいを出すのを止めない介護士が悪い。
いくらAさんの言うことが正しい事だとしても、Bさんがそれを嫌だと思っているのなら、そこがもう争いの火種なのだ。それを放置するのは介護士の怠慢である。
だから根本的な解決法として、Aさんがちょっかいを出し始めたときに、さっと止めに入る。別の話題を振って強制的に話を切り替えてしまえば、AさんとBさんが喧嘩することはない。
貴族同士の対立に当てはめて考えてみると、あのエルフの軍団2つについては、そもそも軍団を持っているから悪い。それを止める方法や力を用意していないのなら、それは王の怠慢だ。
「軍隊は国が持つものという事にして、貴族から軍隊を取り上げるのがいいだろうな。
貴族には領地の運営だけやらせて、軍隊の指揮官はまた別に専門の人間を用意する。具体的には、兵士の中から仕事のできるやつを登用する感じだな。
まあ、でも、それだけだと軍隊を使わない対立は続きそうだ。領地の中の行政権だけを与えて、司法権と立法権も取り上げるか。国が決めた法律だけで領地を運営させて、違反すれば領主でも取り締まればいい。
ローカルルールが必要なら、それは『法律の限度を超えない範囲で許される』と定義すればいいわけだ。」
ロボット三原則みたいなものだ。
第1条、ロボットは人間を守らなければならない。
第2条、第1条に反しない限り、ロボットは人間の命令に従わなければならない。
第3条、第1条および第2条に反しない限り、ロボットは自分を守らなければならない。
つまり貴族も「王が定めた法律に反しない限り」という制限を受けて、ローカルルールを設定できるようにすればいい。そうして不適切な領地運営を禁止する法律を、王が定めればいいのだ。
「やはり君もそう思うかね?」
突然エルフが話しかけてきた。
読者様は読んで下さるだけで素晴らしい!(*≧∀≦*)b
評価とかブクマとかして下さった読者様、ありがとうございます。
作者は感謝感激しつつ、小躍りして喜んでおります。(o´∀`o)キャッキャッ♪
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