介護士は鍛えた・その3
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シカ獣人は、頭部に立派な角を持つ。犬や豚と同じように、鼻が長い(分類上は牛の仲間である)ため、嗅覚がそれなりに鋭い。山岳地に住んでおり、岩山の斜面を駆け上がるなど起伏に強い移動能力を持っている。
大きい音に強い、群で行動する、前の個体に続いて動く、といった性質があり、図太いのか間抜けなのか分からないところがある。衝突系の危険から逃げようとしないのだ。警告しても「呼んだ?」とばかりに振り向くだけで、咄嗟に逃げようとはしない。だからシカ獣人に最初の一撃を命中させるのは、とても簡単だ。
「その最初の一撃が命取りなのですがね……さて、これであと1つですか。」
走りながら魔法を2種類使えるようになった獣人たちに、今度は騎乗中の振る舞いを訓練してもらう。
「馬獣人に乗る最大の利点は、攻撃力でも機動力でもない。警戒だ。」
左右または前後を分担して警戒できる。それが最大の利点だ。馬獣人に乗るというのは、単純に騎兵になるという事ではない。2人1組になるということだ。2倍の範囲を警戒できたり、2倍の濃度で警戒できたりする。死傷率が半減するということだ。
これを部隊単位で見ると、兵の損耗率が半減するということになる。作戦は全体の2割の兵を失ったら失敗だ。8割の兵では、同じ作戦は成功しないからである。この2割が1割になるとすると、作戦の成功率は大きく変わってくる。普通なら4割近くの兵を失う無謀な作戦すら、2割以下の損耗で成功させられるという事になるからだ。
「このあと実戦を経験して貰う。しっかり警戒する癖をつけておけ。」
とたんに獣人たちがざわめく。
「実戦?」
「相手は?」
「どこで?」
「いつ?」
半分は不安がっている。
もう半分は、通用するのか試したがっている。
いい傾向だ。警戒心がありながらも、士気は低くない。士気が高くても警戒心が低ければ油断してやられ、警戒心が高くても士気が低ければ行動せずにやられる。バランスが重要なのだ。
これを訓練でうまく調整するのが難しい。訓練するというのは負荷を掛けるということで、成功体験や失敗体験を積み重ねる。成功し続けると士気は高く警戒心は低くなり、失敗し続けると警戒心は高く士気は低くなる。強い負荷に耐えられるようにしなければならないので、失敗するほどの内容を、失敗ばかりさせないように取り組ませるのが重要になる。
成功しつつも罵倒するぐらいでちょうどいいのだが、いくら成功しても認めて貰えないとなると、それはそれで士気が下がる。しかもそれは俺の方針ではない。俺は褒めて伸ばす方針だ。失敗しつつ応援するぐらいでちょうどいい。ただ、成功しないと、いくら応援されても士気は下がるのだ。
「実戦訓練は魔物狩りだ。」
読者様は読んで下さるだけで素晴らしい。
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