介護士は婚約する
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結局、ここの村の「蛇」たちの様子がおかしかったのは、すでに洗脳が解けていたからだった。
最初に警備隊と交戦したときに洗脳が解けて、彼らは自分たちの状況を把握した。そもそも素行不良だった冒険者たちが、洗脳されていたとはいえテロ集団に荷担し、村を襲った。となれば厳しい処罰を受けるだろう。どうせなら、毒を食らわば皿まで。彼らは開き直って、「蛇」を名乗る無法者と化した。
「……という状況だったらしい。」
俺は今、再びゴーファ公爵の屋敷で歓待を受けていた。
アーネスを助けたお礼とのことだ。
一緒に戦った(?)マクセンとアルテナも招待を受けている。2人は何もしてない気がするが、たぶんこれが「考えたら負け」ってやつだ。
いやいや、実際にはちゃんと働いていた。戦ってはいないが、その後の処理だ。脱走の時に殺された6人の死体を見つけて運んできたり、切り落とした敵の手足を拾い集めたり(集めただけで、そのまま捨てたけども)。
「それで、だ。
もうこの際だから私から頼む。ジャイロくん、アーネスを貰ってやってくれないか。」
「ちょっと急展開すぎて理解が追いつかないのですが。」
「いやいや、別に急展開ではないとも。」
ゴーファ公爵いわく、これには3つの理由がある。
第1に、転生者である俺を取り込むため。しかも結婚して子供ができれば、その強さが遺伝するかもしれない。戦争で国の為に戦うのが貴族の本来の役割だ。だから強いということは重要なのである。なんなら平時でも決闘とかの可能性がある。自分の主義主張を通すためには実力が必要になるのだ。権力もそうだが、戦力もその1つだというわけだ。
第2に、変な相手に嫁に出したくない。自作のポエムを送ってくるようなやつとか、断っても話が通じないやつとか、貴族の中には奇妙な奴も少なくない。出世第一主義とでもいうのか、貴族の価値観の中で育つと「自分は何をしても許される」とか「自分の思い通りにならない事なんてない」とかいう勘違いをする者も出てくる。人道派のゴーファ公爵としては、そういう輩には娘をやりたくない。
「その点、君なら大丈夫だ。」
第3の理由は、アーネス自身が、まんざらでもない様子という事だ。
「このところアーネスは、君の話ばかりしていたからね。特に最近は、君と対戦できなくて残念だとぼやいてばかりだ。
どう見ても恋煩いだよ。」
「ち、父上……!」
アーネスが焦って止めようとする。
その様子を見るに、どうやら本当の事らしい。
「そうですか。
まあ、別に断る理由はないのですが……。」
「そうか! では貰ってくれるか!」
ゴーファ公爵が食い気味に言う。
どうも娘の結婚相手に困っている感じだな。
俺に断る理由はない。ただ、ためらう理由はある。実感がないのだ。
前世で俺が勤める老人ホームに入ってきた穏やかなおばあちゃんがいた。旦那と死に別れ、体が少しずつ不自由になってきて、歩けるが、風呂に入るときなどは転ばないように付き添わなくてはならない。そのおばあちゃんが風呂に入る仕草は、妙にセクシーだった。体はすっかり老婆だが「私は魂まで主人に持って行かれた」と深い愛情を示し、タオルで体を隠すのだ。老人ホームに入った老人で、自分でそっと体を隠す人は珍しい。恥ずかしいと思っても諦めて無抵抗だったり、拒否して暴れたりするのがほとんどで、そっと体を隠すという艶っぽい仕草をする人は他に居なかった。
そのおばあちゃんの言葉を、今も覚えている。
「恋は落ちるもの、愛は育むもの。」
おばあちゃんは、恋をして結婚したわけではないという。だが、旦那さんがいい人で、愛を育んでくれたそうだ。だから旦那さんが死んだときに魂まで持って行かれたのだという。
俺も、誰かと結婚するときには、その旦那さんのように振る舞うべきだと思っている。
「……私でよろしければ。」
こうして俺は、アーネスと婚約することになった。
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