介護士は中立を維持する
領地が順調に発展していく一方、エルフとの国交が正式に始まった。
これを受けて俺は子爵に任じられた。
時を同じくしてセシールがパワードスーツゴーレムの強化に成功した。ミスリルが役に立ったらしい。それから1ヶ月ほどかかって、パワードスーツゴーレムは量産され、マクセンやアルテナも装備する事になった。さらにアーネスの獣人部隊にも配備され、その代金としてアーネスからセシールへ予算が流れた。
大金を手に入れたセシールは、なぜか俺に向かって感謝した。感謝する相手はアーネスじゃないのかと尋ねたら、カネになる事よりも技術の完成が嬉しいという。認められて採用されるよりも、実用レベルになった事が嬉しいという。だから認めてくれたアーネスではなく、改良を手伝った俺に感謝するというのだ。どうも技術者の思考というのは興味深いものだ。
そんな事をしていると、ゴーファ公爵から呼び出しを受けた。
屋敷に到着してみると、ゴーファ公爵とともに俺を迎えた男が1人。刀を作ってくれた鍛冶屋のドワーフ、ウォーラックだ。
「ドワーフの王とは古い友人でな。こんな手紙が届いたんだ。」
ウォーラックは手紙を差し出した。
それを受け取って目を通すと、そこにはドワーフの国が鳥獣人に襲われるようになって困っているから、対空戦闘が得意な人員がいたらドワーフの国へ送り込んで欲しいという内容だった。
「頼めるか?」
「もちろん。」
二つ返事で引き受けた。
鳥獣人。今度はそっちか、黒幕め。
そういったわけで、ウォーラックからの手紙を持って、ドワーフの王に会いに行く事になった。
ドワーフは種族全体が鍛冶師で、なおかつ鉱山労働者でもある。自分で掘って、自分で加工する。そのため山岳地帯に住んでいて、鉱山を掘りまくっている。
起伏の多い地形には、移動に困難が伴う。そのため地下資源を狙うドワーフや、移動に困難を伴わない鳥獣人ぐらいしか住んでおらず、他の種族が入り込むことは滅多にない。他の種族のことは知らないが、人間が鉱石などの地下資源を手に入れる方法は、山ではない。平原だ。平原に鉱脈を発見して、露天掘りで採掘する。掘り出した大量の土砂で、逆に山ができるほどだ。採掘としては非効率だが、坑道と違って崩落などの危険が少ない。
で、ドワーフの国に入ってみると、前情報の通り鳥獣人たちがドワーフに襲いかかっている光景があちこちで見られた。ところが誰も俺たちには攻撃してこない。方法は不明だが、ドワーフだけを見分けて攻撃しているようだ。
理由も目的も不明だが、この無駄に統率された感じは、洗脳の特徴である。
「助けないの?」
「俺はパス。
気が向いたら回復魔法でもかけてやったらどうだ? 別行動でもいいし。」
アルテナの人生はアルテナの自由だ。助けたいのなら助ければいい。
ただ、俺が思うに、その方法では非効率的だ。
「兄貴、パスって、なんでっすか?」
「根本的な解決こそが全体を救うと知っているからだ。
そのためにドワーフの王に会いに行く。
ここだけ助けても他が助からない。」
認知症への対応にも通じる。何もかも拒否する人は、新しい環境に慣れていないから怖がっているだけだ。時間をかけて慣れてもらえば、拒否はなくなる。だが拒否へのとりあえずの対処法として、むりやり介助するという手もある。これをやってしまうと、「嫌な事をされた」という記憶が蓄積して、慣れた後も拒否が続く。
徘徊も、その多くは場所を正しく認識できないことによる。たとえばトイレのドアに「トイレ」と書いて貼っておく。これだけでトイレの場所を正しく認識できるようになる老人は多い。それをしないで徘徊のたびに「どうしたの?」と対処するのでは、寝る暇もない。介護疲れを起こす家族の中には、こういうタイプがけっこう多いものだ。
「とはいえ、見捨てるのは薄情だという感覚もわかる。
だから、助けたいのなら助けてきたらいい。後で合流すれば問題ないだろう。」
見捨てるのは薄情だという感覚は、なぜか相手が見えている場合にだけ発生する。
アルテナもマクセンも「ここを見捨てる」ことには抵抗を感じているのに、「ここ以外を見捨てる」ことには抵抗を感じていない。
そういえば昔そんな映画があった気がする。無人島に漂着した男女10人ぐらいがサバイバル生活。そのうち一部が何かの病気なのか栄養失調なのか、体調を崩して世話する必要が生じた。最初はせっせと世話をするが、体調は戻らない。むしろどんどん悪くなる。元気な連中まで陰鬱な雰囲気になってしまうので、彼らはその病人を自分たちの野営地から少し離れた場所に移して、視界に入らないようにした。効果は抜群。たちまち彼らは明るくなった。ただし、病人の世話をしようという者も減った。
ここからドワーフ編ですね。
うっかり章追加を忘れてました。




