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終章 朝食

復生院に、食堂ができた。


死者を置く建物で食べるのは不謹慎だ、と会議で反対された。


「生きている人は、お腹が空きます」


僕は言った。


決裁書の余白には、ユリウス王子の字が残っている。


ノアの説明は長い。腹が減った。食堂を作れ。


それで通った。



三か月が経った。


ラウルの審理は続き、ユリウス王子が暫定統治をしている。


復生は、件数を絞って再開している。


白花互助会は封鎖された。死ぬとは聞いていなかった十七歳のネラが、最初に自分の札を割り、新しい契約書の読めない言葉を一緒に消した。


王宮地下の旧鐘は舌を外し、音道を石で塞いだ。


僕は、掌の拒否を見ながらハンナの鐘を止めなかったため、半年の資格停止を受けた。


処分には争わなかった。


僕の執行資格は、あと三か月戻らない。


今は相談記録を取る。


鐘の縄には触れず、その前に書かれた紙を読む。


鐘室は、復生院と三法官の鍵が揃わなければ開かない。


撤回された札はその場で割り、二人の見届け人が欠片を一つずつ保管する。


新しい用紙でいちばん大きい欄は、日付でも署名でもなかった。


本日は決めない。


今日の家族は、死後四日目だった。


妻を亡くした男。


代命人になると言う、男の妹。


母親が食堂から戻ると思っている、二人の子供。


妹の手首には赤糸が巻かれている。


結び目は、まだ作られていなかった。


「明日の夕方でも、間に合いますか」


男が聞いた。


「間に合います」


「明日、こいつが嫌だと言ったら」


「命札は使いません」


「俺が怒っても?」


「使いません」


妹が、手首の糸をほどいた。


「今日も、嫌だと言っていいですか」


「はい」


「今日は嫌です」


僕は大きな四角へ印を入れた。


男は椅子から立たなかった。


妹も、先に部屋を出なかった。


二人で、ほどいた赤糸を見ていた。


「食堂で待てます」


僕が言うと、男がやっと顔を上げた。


「子供が、パンを三つ食べています」


「二人で?」


「一人で」


男は急いで部屋を出た。


妹が、その後を歩いた。


机には、赤糸が残った。


追いかけて渡した。



「ノア、朝食」


食堂から、リゼが呼んだ。


「この記録を終えたら」


「三か月、同じこと言ってる」


僕の机へ、湯気の出る杯を置いた。


苦い茶だった。


砂糖は入っていない。


砂糖の瓶は、リゼの肘の向こうに置き忘れられていた。


「手袋、しなくなったのね」


左手首の黒い輪は、そのまま出ている。


「はい」


「寒くない?」


「少し」


リゼは笑った。


食堂から、煙が出た。


マルタが選んだ大きな焼き窯は、一度に四十個焼ける。


今日は四十個とも焦げていた。


「塩、一杯って書いてあった!」


トマが厨房から逃げてくる。


三か月で、少し頬が丸くなった。


「匙の絵もあったでしょう!」


マルタが、配合帳を持って追いかける。


「飾りだと思った」


「何を飾るのよ!」


サラは厨房の窓を開けていた。


母子は来週、元の町へ帰る。


トマは学校へ行く。


マルタは厨房の札を、関係者以外立入禁止から、トマ立入禁止へ書き換えた。


食堂へ、さっきの家族が入ってきた。


子供が、トマの持つパンへ手を伸ばす。


「それ、しょっぱいよ」


「お腹すいた」


トマは焦げた端を見た。


「水も飲んで」


一つ渡す。


子供は齧り、顔をしかめた。


すぐに、もう一口食べた。


僕は記録を閉じた。


「やっと食べる?」


リゼが聞く。


「はい」


皿には、一つだけパンが残っていた。


形が悪く、端が黒い。


塩も多い。


手に取り、食べた。


まだ、温かかった。


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