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街を探す

 森はすぐに抜けられた。せいぜい40分ほどか。来た時は川の中を歩いてさかのぼったが、今回はなるべく岸を歩いた。何回かは流れに足を入れざるを得なかったが、くるぶしまでしか濡れずに済んだ。


 森の外にはまだダークラクーンの死骸が多く、川面にもかなり浮かんでいた。下流に行ってもきれいな水は飲めないかもしれない。どうせ水源が使えないなら、思い切って川を離れることにした。


 森の周辺で枯れ枝や草を一抱え拾って、宝箱のフタにくくりつけた。これを今夜の燃料にしよう。

 水はペットボトルとスキットルに入っている。ペットボトルは500mlサイズだが、スキットルはたぶん200mlぐらいか。ペットボトルの方が空になった時に街も水源も見つかっていなければ引き返すことに決めた。


 目指すはダークラクーンの群れが向かった方角だ。おれの読みが正しければ、スタンピードにともなう何らかの【イベント】が発生しているはず。


 南へと歩く。崖までは知った道だ。1時間ほどで着き、迂回してそのまま進む。今度は少し上り坂になっているようだ。岩が多いが他には特筆すべきものはない。ダークラクーンの足あとはまだくっきり残っているので追いやすい。死骸はたまに見かける。


 さらに歩くこと2時間、俺はようやく文明の痕跡を発見した。道だ。舗装はされていないものの、石が取り除かれた箇所が続いており、そこに、わだちというんだったか、2本並行になった溝が走っている。

 ゴムタイヤではなく、もっと細くて硬そうな車輪の跡だ。ここもどうせ運営の支配地域だろうから、ゲーム風の世界観を崩さないよう、自動車は走らせていないんだろう。もっと原始的な、荷車とか馬車とかを使っているに違いない。ご苦労なこった。


 日の出・日の入りの方角から考えると、おれはここまでおおむね北から南に向かってきたと思われる。党のあった側が北だ。わだちはというと、何本か向きの異なる溝はあるものの、西から来るものと、南へ向かう溝がひときわくっきりと掘られている。それらがいわば街道ということなのだろう。


 今日はここまでにしよう。日があるうちに火を起こさないと夜が困る。リュック代わりの重い宝箱を下ろし、剣も重いのでいったん腰から外す。ここまで生きたモンスターには会わなかったし、おそらく問題ないだろう。


 急いで焚き火を作った。日も暮れかけていたので、着火にはかなり手間取った。薪は3分の1だけ使うことにした。見つけた街道を歩けば人里に出るだろうが、距離は分からないので温存するに越したことはない。


 濡れた靴や靴下は脱いで火のそばで乾かしておく。持ってきた魚とエビを炙り直して温め、夕飯とした。量はないのでよく噛んで食べる。水も300mlだけ飲んだ。


 食後は、唯一の娯楽であるなろう小説を読む。今日はラブコメものにした。高校の同級生と付き合うとか夢だよなあ。いいなあ。このデスゲームから生還できてもおれは無理だもんなあ。


 現実逃避できて少し落ち着いた。寝床を作る。と言っても、焚き火の近くの地面から石を取り除くだけだ。布団もないのでシャツを脱いで身体にのせるだけ。やれやれ、無事街に着いたらベッドぐらいあるのかね。

 明日は街道沿いをさらに南に向かってみよう、そう考えながらおれは寝た。


 そして翌朝、おれは槍を盛った兵士に取り囲まれていた……

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