67話 切除
帝国の問題点はリシテアだけじゃない。
皇帝と皇妃も問題となっている。
なにしろ、暴走するリシテアを窘めることを一切しない。
それどころか、もっとやれと焚きつける始末。
リシテアの暴走で帝国はそれなりのダメージを受けるものの、しかし、皇帝と皇妃はそれを許容する。
そして、それによって生まれた損害は他所に押しつける。
結果、民は困窮して涙を流す。
どうしようもない悪循環だ。
「皇帝、皇妃、皇女……この三人を排除しなければ、同じことが繰り返されるでしょう。そして、それだけではなくて多くの血が流れ続けて、涙が流されるでしょう」
「そう……だね。君の意見には賛成だ」
「しかし、相手は帝国。最近は弱体化しているものの、それでも巨大国家であることに変わりありません。サンライズとフラウハイムの同盟だけでは、とてもではありませんが太刀打ちできるとは……」
「いえ、開戦をするわけではありません」
ネネカ王女が言うように、帝国はとても巨大だ。
真正面からぶつかれば多大な被害が生まれてしまう。
そもそも勝てるかどうかも怪しい。
それに、勝てたとしても戦争は避けたい。
双方共に大きな被害を生むだけで得られるものはゼロに等しい。
それ以外の道がないというのなら仕方ないかもしれないが……
今はまだ、別の道を歩くことができる。
「アルム君。戦争じゃないなら、どういう手を使うの? まさか……暗殺?」
「それは最終手段です」
暗殺はわかりやすく、とても効果的な手段だ。
しかし、その後が最悪だ。
国のトップを殺されたとなれば、まず間違いなく、帝国は宣戦布告する。
黙っているわけがない。
結局、戦争に行き着いてしまうだろう。
「今すぐに帝国の暴挙を止めなければならない、という段階に来たのなら、暗殺も考えなければいけないかもしれません。しかし、まだその時ではないかと」
「なら、どうするの?」
「帝国に工作をしかけて、国のトップを入れ替えます」
帝国で暮らしていたからこそわかるのだけど……
ちょくちょくリシテアが暴走して、そして、皇帝と皇妃はそれを咎めることをしない。
そんなだから、帝国内部では現体制に不満を持つ者が多い。
「ねえねえ。それって、選挙にこっそり介入する、っていうこと?」
「いえ。帝国では選挙は行われていません」
シロ王女の質問に首を横に振る。
それにしても……
今の話だけで選挙工作に話を繋げるか。
やはりシロ王女は賢い。
「あまり褒められた方法ではありませんが……帝国内の反体制派と接触して、彼らを援助。そして、病の根源を絶つように腫瘍を切除して、国として正しい方向に戻す」
「それは……」
「むう……」
ジーク王子とネネカ王女が難しい顔に。
それも当然だ。
ようするに、俺の提案は帝国でクーデターを起こさせよう、というものなのだから。
自国で戦争が起きることはない。
しかし、帝国内で戦争が起きる。
褒められた方法でないことは確かだ。
ただ、俺はこれがベストと考えている。
帝国に被害は出てしまうが……
しかし、フラウハイムとサンライズの両方に被害が出ることはない。
帝国の暴走を止めることができる。
「倫理的な問題はありますが……しかし、自分はこれが一番と考えます」
「帝国でクーデターを誘発する、か……アルム君の発想は相変わらず大胆だね」
「宣戦布告に等しい行為だね」
「ただ、効果は大きいと思います。今の帝国は、アルムさんの言う通り、皇帝と皇妃。そして、リシテア皇女の三人が支配しているようなものですから。その支配が解かれれば……」
正常な国としての機能を取り戻すだろう。
――――――――――
その後、俺の案について三人の間で徹底的な話し合いが行われた。
ただ、簡単に結論を出していい話ではない。
長い時間話し合われたものの、結論は保留。
ブリジット王女は話を持ち帰り、改めて王と話し合うことになった。
「……と、いうわけですが、どう思いますか?」
フラウハイム王国に戻ったブリジット王女は、さっそくゴルドフィア王に報告をして、意見を求めた。
相変わらず行動力がすさまじい。
「ふむ」
ゴルドフィア王は顎髭を撫でつつ、考える。
「確かに、このまま帝国を放置するわけにはいかぬ。サンライズ王国が協力してくれるのならば、可能かもしれぬな」
「では……」
「ダメだ」
ゴルドフィア王は首を横に振る。
「リスクが大きすぎる。失敗したら、まず間違いなく、帝国は開戦に踏み切るだろう。今はまだ、帝国を迎え撃つだけの力はない」
「しかし父様、サンライズ王国だけではなくて、その他の国と協力関係を維持しています。さらに同盟を強化すれば……」
「それならば構わぬが、現状はまだなのだろう?」
「それは……」
「故に、今は無理なのだ。このまま帝国を放置するわけにはいかない。いずれ、なにもしていなくても開戦に踏み切られるかもしれない。対策を打つことは必要だ。しかし、失敗した時のリスクが大きい。賭けに出るわけにはいかぬ」
王の言うことはもっともだ。
時に、大胆な政策を打たなければいけないが……
失敗したら戦争になるというのは、あまりにもリスク大きい。
博打がすぎる。
ただ、失敗する確率が極端に少ないとしたらどうだろう?
「失礼します。発言を許可していただけないでしょうか?」
「アルム君?」
「許す」
さて。
ここから先、俺のプレゼンは絶対に失敗することができない。
意を決して口を開いた。




