66話 怒られた
ガンドスが倒れたことで団員の士気は激減。
ジーク王子達と改めて戦うことは難しく、ほとんどの団員がおとなしく投降した。
中には抵抗する者もいたが、そういった者は切り捨てられた。
証人は必要だが、全てを必要としていない。
捕縛した団員は王都まで連行されて……
また、ガンドスの死体も王都まで運んだ。
すでに死んでしまったが、しかし、帝国が関わっているという証拠になる。
新生・漆黒の牙を壊滅させるだけではなくて、帝国が関与しているという証拠も得た。
作戦は大成功だ。
ただ……
「ばか!」
医務室で治療を受ける俺。
そして、そんな俺を涙目で睨みつけるブリジット王女。
俺が怪我をしたと聞いて、すぐに駆けつけてきてくれたのだけど……
経緯を説明すると、泣きながら怒られた。
「どうしてそんな無茶をするの? 私は、ものすごく心配したんだよ? ものすごーーーく心配したんだよ? 主を心配させるなんて、それでいいと思っているの?」
「いえ、あの……申しわけありません」
とんでもない正論なので謝罪するしかない。
そして……
「お兄ちゃんのばか!」
シロ王女にも怒られていた。
「ばか! ばか! ばか! とにかく、ばかぁ!!!」
ここがこうだからダメ、と論理的に叱られるのではなくて……
涙目になって、なにかを我慢するような感じで、ひたすらに怒る。
これは辛い。
あの優しいシロ王女をここまで追いつめてしまったのは俺と、否応なしに自覚させられてしまう。
心が押しつぶされてしまいそうだ。
ただ……
一方で、俺は妙な安らぎを覚えていた。
帝国にいた頃は、俺が怪我をしても誰も悲しまない。
むしろ、無能と罵られた。
でも、今は違う。
ブリジット王女とシロ王女が心配してくれている。
たぶん、シャドウも王国にいる騎士達も、街の人も心配してくれると思う。
ああ。
なんて温かいのだろう。
なんて優しい世界なのだろう。
この心地いい幸せに溺れてしまいそうだ。
「申しわけありません。今後、無茶はしないと約束します」
とはいえ、主を悲しませてしまったことは失態以外の何者でもない。
重ねて謝罪をした。
「もう……あまり心配させないでね」
そっと、ブリジット王女が抱きついてきた。
ふわりと甘い匂いがする。
なんだろう?
なぜか心臓がうるさい。
今まで体験したことのない感覚、感情が湧いてきているのだけど……謎だ。
――――――――――
俺が治療を受けている間に盗賊達の尋問が行われた。
といっても、大半はおとなしく協力的だった。
スムーズに情報を得ることができたが……
「……アルムさんの言う通りでした。彼らは帝国との関わりを持っていました」
会議室に集まり、ネネカ王女がそう告げてきた。
怪我は完治しておらず、ブリジット王女やシロ王女からはおとなしくしているように言われたが……
こんな話を予想していたので、おとなしくしているわけにはいかない。
俺も会議に参加して話を聞く。
「帝国の将に雇われただけの者もいたけれど、でも、いくらか帝国兵も混じっていたよ」
ジーク王子が呆れた様子で言う。
「まさか、これほど大胆で……それでいて稚拙な工作をしかけてくるなんて」
「驚きしかありませんね……」
「その気持ち、よくわかります……」
ブリジット王女も疲れた様子で、うんうんと頷いていた。
先の事件のことを思い返しているのだろう。
一人、詳しい事情を知らないシロ王女はキョトンとしていた。
「今回の件、厳重抗議をしたいところだけど……」
「まず間違いなく、とぼけられますね。今までがそうでした」
「あれ? そのようなことが何度も……?」
「ええ。何度も」
ジーク王子が苦々しい顔で頷いた。
驚きだ。
帝国の暴挙に悩まされていたのはフラウハイム王国だけではなかったらしい。
いや……ある意味、当然か。
リシテアのような暴君がトップに立っているのだから、そんな無茶が横行してしまう。
「さて、どうするべきか」
ジーク王子が悩ましげな声をこぼす。
帝国の暴挙を許すわけにはいかない。
しかし、抗議をしてもスルーされてしまう。
経済制裁を行うにしても、一国では意味がない。
最低でも十以上の国が協力しなければ効果は薄い。
ならば、とれる手は……
「……発言をよろしいでしょうか?」
迷い、考えた末に挙手した。
ブリジット王女に視線で促されて、続きを口にする。
「帝国をこのまま放置することはできません。工作だけではなくて、侵略に踏み切る可能性もあります」
「まさか、そのようなことは……」
「いいえ、お兄様。ないと言い切ることはできません。むしろ、可能性は高いかと」
「それは……」
「故に、提案いたします……こちらも帝国に工作をしかけましょう」
「……どのような?」
「皇帝、皇妃、皇女……その全てを切り崩します」




