101話 黄色い国
一面に広がる真っ黄色な砂漠。さんさんと照り果てる太陽の下、そこを一匹のラクダが二人と一匹を乗せてゆっくりと歩んでゆく。
ライトは気を使ったのか、紐付きの箱を出し、それをライムの尻尾に縛り付けて箱の上で寝ていた。ずるずると音をさせながらライムは箱を引きずっていく。
「全くもう、あんなやり方したらライムに悪いじゃないか」
「いえいえ、コバルト様。猫一匹引きずるのはわけありませんよ。それよりノミをうつされるかもしれないのでむしろありがたいです」
「ああー、そうなのか、ところでこの砂漠はどれくらい続くんだ?国境から街までは遠いのか?」
「はい、そうですね、だいたい100キロくらいだと思います。お昼過ぎには着くでしょう。そこまで送り届けましたら私は帰らせていただきます。よろしくお願いします」
コバルトはライムの背中に乗りながらそんな話をする。そしてその後ろでピュア、あ、いや、クリームがコバルトに体をくっつけながら嬉しそうに聞いていた。
(やった♡お昼過ぎまでこのままコバルトと二人でくっついたまま居られる♡実は長時間は初よね、嬉しい嬉しい♡)
クリームは嬉しそうにコバルトに体をくっつけたままそう思った。ライトは後ろの箱の中で昼寝をしているし、ライムも後ろは見えないから結構いいチャンス。コバルトはああ胸押し付けてきてるなと思ったが、恥ずかしくて何も言わなかった。それにしてもくっつくの好きだなほんと。
コバルトはラクダに乗って砂漠を歩いていると、何やら奇妙で新鮮な感覚に囚われた。さっきまで北欧にいた気分なのになんだかアラビアンナイトの世界に入り込んだみたいだな。ん?アラビアンナイト?なんだっけそれ?
何時間か歩くと砂漠の中に大きな街が見えてきた。すごい!中央には巨大なオアシスがあり、ヤシの木が至る所に生えている。そしてベージュ色に近い黄色い壁でできている真四角な建物がいくつもあり、街中では真っ黄色の魔族たちがガヤガヤとにぎわっていた。露店もあり、様々なものが売られていた。緑の国より青い国に近い雰囲気であり、皆能天気そうだ。
「ここが、黄色い国・・・?」
コバルトはラクダから降りて町を眺めた。す、すごい、異世界は異世界でも本当に砂漠の国だ。そしてものの見事に砂の色は黄砂で黄色だし建物も黄色、そして魔族たちも皆真っ黄色で緑の国とは打って変わって全く違う世界に来た。
「おやおや、もうついたかにゃ?それじゃあ街を探索しよう。ライム、送り届けてくれてどうもありがとう」
「いえいえ、お力になれたなら幸いです。それではコバルト様、クリーム様、ライト、私は帰らせていただきます。御武運をお祈り申し上げます」
二人と一匹はライムを見送ったのち、街の中を探索した。街中はガヤガヤと賑わっており、そこら中で露店が開かれ、食べ物も売っていた。そして見せ物のように大道芸や、音楽の演奏、昼間っから飲んだくれているものもいたりとても陽気な街だった。
「そういえば腹が減ったにゃ。どっかで昼飯でも食うか。ん?くんくんくん、なんだかいい匂いがするにゃ」
ライトがそう言って匂いのするほうに突然かけて行ってしまった。はあー、またかあの猫は。と二人は少し呆れた。
「全くライトのやつ、異国に来てもああなんだから。ここは黄色い国だってのに」
「ああ、大丈夫よコバルト。ライトはああやってもなんだかんだいってちゃんとしてるから。なんかあったら戻ってくるわよ」
そんなこんなでライトの後を追う二人。たしかに何かいい匂いがするなと思ってライトの後をつける。だが途中で二人はライトの行方を見失ってしまった。
「ライト・・・?ライト!どこ!?」
先ほどとはうって変わってクリームは何か得体のしれない不安に包まれた。おかしい、ライトがいない。気配も魔力も感じない。青い国ですらそう簡単に見失わなかったのに、敵国の地に来て見失ってしまうとは、どういうことだ?
「ピュア、あ、いや、クリーム、どうした?そんなに慌てて」
「コバルト!ライトの気配が感じない!こんなこと初めてよ!もしかして誰かに攫われたのかもしれない!お願い、一緒に探して!」
「クリーム?青い国の時みたいに、どっかでマタタビでも食べて寝っ転がってるだけじゃないか?あいつのことだし、そんな心配するようなことは」
「コバルト!ライトは私の護衛よ!戦いが始まる前で自国の安全な青い国ですらこんなことは一度もなかった!姿をくらましても大体の居場所の検討はついたし、ましてや敵国でここまで姿を晦ますなんてありえないわ!きっと誰かに捕まったのよ!」
クリームがとても不安がって必死になってライトを探す。二人は足取りと魔力感知を使い、ライトを詮索するが、見つからない。街の中の大通りや魔族の集まりそうな場所にはいない。きっとどこか裏路地にでもいって捕まったのか?
(それにしてもライトを誘拐するとは、そんな強い魔族がいるのか?この国に。いや、異国の地だし、何がいてもおかしくはないな)
コバルトがそう考えていると、二人は街中から少し離れたとある路地裏から猫の鳴き声が聞こえてきた。そしてその声のする方へ行くと、そこには寝そべっているライトと、戯れている一人の少年の姿があった。
「うりうり〜。もっとまたたび欲しいか〜可愛く鳴いてみろ〜」
「にゃーん、にゃーん」
金髪でおかっぱ、黄色いシャツに茶色いハンチング帽子をかぶった、二人より一回り年下の少年がライトと戯れていた。どうやらライトはその少年からマタタビか何かをもらって酔っ払っているようで寝そべって転がっていた。
「ライト・・・?あなた」
クリームが唖然とした表情を浮かべ、その光景を眺めていた。敵国だというのに、あのライトが全く警戒する様子もなくものすごくリラックスして酔っ払って寝そべっている。あんな様子は青い国の時にいた自分にすらむけたことのない様子だ。
その少年は二人に気づき、寝っ転がっているライトを抱き抱えると、にっこりと笑いながら近づいてきた。そしてクリームに向けてこう言った。
「この猫、君の猫?かわいいね。ごめんごめん、ちょっとマタタビあげて遊んじゃってた」
クリームはその少年の吸い込まれるような瞳に、何か神々しいものを感じ取った。一体この子は誰?あのライトがをここまで手懐けるなんて!そして自分自身もまた、彼の奇妙な安堵感のようなものを彼から感じていることに、はっきりと気付いていたのだった。