第4話 もう一人の後輩?
休日――。
俺は1年ぶりに新刊が出た異世界ファンタジーラノベを買うために出かけている。
いつも行ってる大型書店では売り切れで、小さな本屋も含めて捜し歩き5件目の商店街の小さな本屋で何とか買うことができた。まさかここに売ってるとは思わなかったが、これはラッキーかもしれない。
話の内容は、異世界転生した主人公と神になるはずだった女の子が、なぜか勇者や魔王と異世界を冒険する転生物なのだが……。
まさかここまで無いとは思わなかった……。それだけこの作品が愛されてるっていう証拠だな。
やっぱアニメ化が決まったせいもあるかな。来季のアニメ放送楽しみだなぁ。
なんてワクワクしながら本屋を出る――
「あの!そこのお兄さん!」
急に呼び止められ声がする方を振り返ると、先ほど俺が入ってた本屋から出てきたらしい女の子がいた。
多分、身長的に年下……中学生ぐらいだろうか。黒い綺麗な髪をリボンで留め、長めのツインテールにしている。白の文字が書かれたシンプルなTシャツに、黒くて若干先の方が透けているそこそこ短いミニスカート、それにヒールが低めのサンダルを履いている。
「え?あ、俺?」
まさか呼び止められると思っていなかったので、思わず自分に用があるのか疑ってしまう。
「そうです!お兄さんです!ていうか、他に人もいないじゃないですか!」
それもそうかと思いつつとりあえず用件を聞いてみる。
「さっきこの本屋でライトノベル買いましたよね?」
「うん。買ったけど。」
「あの、何の本を買ったのか見せてもらっていいですか?」
「え、ああこれ。」
そう言って俺は、特に何を疑うわけでも無く、書店の紙袋から今日買ったライトノベルを取り出してその子に見せる。
「やっぱり……。」
そのままその女の子はずかずかと俺に近寄る。
えっ……ちょっ……やけに近い……。
「……な、何?」
「お願いがあるんですけど。」
吐く息を感じ取れるぐらいに顔を近づけられながら囁くように話しかけられる。
「私に、その本読ませてください。」
「え……?」
そう言うと、身体を放し少し距離を取ってこちらの様子を伺うように見つめる。
俺は何を言われたのかは理解しているものの、何故それを言われたのかが理解できずに、彼女をぽかんと見つめる。
「……何言ってんだこの子?みたいな顔してますよ。」
「いや……そのまんまの事を今思ってるけど。 」
「そうでしょうけど!とりあえず、何でお兄さんに頼んでるかというと……。」
すると彼女はその場で、なぜ自分がこんなの事を頼んでいるのかを簡単に話した。
まとめると、自分もこのラノベが欲しくて買いに来たが、本屋を10軒以上探し回ってもなく、せっかく見つけたと思ったら、目の前で俺に買われてしまい、もうこれ以上本屋を探すのは嫌気がさして、俺に交渉するに至ったらしい。
流石に10軒以上も回って無かったと言われると同情せざる得ないが……。
「そもそも……ネットとかで予約すればよかったんじゃ……。」
「私、好きな本は本屋で手に取って買いたいタイプなので!」
「いやまぁ、それはわかるけどさ……。」
現に、俺も本屋で買いたいからこそ、ネットで予約せず本屋を巡っていた訳なのだが。
いや、内容が気になっているならネットでもいいんじゃ……。
「あ、御心配には及びません! お兄さんに見せてもらっても、後できちんと自分でも購入しますので! とりあえず、前回の話からの展開が気になって、この一年間、3時のおやつが喉を通らなかったんです!」
「そこまで……って普通の食事は大丈夫なんじゃないか!」
「そこは今、気にすべきところじゃないです……。」
「えぇ……。」
けど、俺も読みたいし、別に俺が貸さなくても数日たてば入荷するだろうしなぁ……。
そんな事を思っていると、俺に断られると悟ったのか、再び急接近され、
「……お兄さんにしか頼めないんです。……お願いします。」
そう猫撫で声で俺の両手を取り、上目遣いでこちらを見上げる。
ぐっ……不覚にもちょっと可愛いと思ってしまったぞ。
「で……でも数日たてば入荷すると思うし……!」
「駄目……ですか……?」
俺がそれでも断ろうとすると、彼女は目を伏せてしゅんとなってしまった。
流石にここまでされると、断るに断りにくくなってきた。
「あー!わかった!見せてあげるから!一回ちょっと離れて!」
「いいんですか!ありがとうございます!」
俺の離れてという要望を無視して、彼女は俺に抱き着きながら、無邪気に笑顔を見せた。
「だ、誰が抱き着かない!離れて!」
「あ……すみません。おに……じゃなくて、このラノベの新刊が見れると思うとつい嬉しくなってしまって……。」
なんか……結局、無理やり押し切られてしまった気がするけど、……まあいっか。
「あ、えっとお兄さんこの後時間ありますか?1時間弱あれば読み切れると思うので……。」
「大丈夫だけど、どこか喫茶店とかで読む?」
喫茶店ならまあ、集中できるだろうし、俺はスマホでゲームでもしてれば……。
「あー、いえ、ここからそう遠くないので私の家でもいいですか?お兄さんはお茶でも飲みながら待っててくだされば。」
「いいけど……って家!?」
年頃の女の子が自分の家に初対面の男を連れ込むってなかなかヤバいと思うのだが。
「ちょっと、驚き過ぎです。大丈夫ですよ!今家に誰もいませんし、その方が私も読むのに集中できてすぐ読み終わっちゃいますし!」
「いやー……あの、そうじゃなくて、年頃の女の子が初対面の男を家に連れ込むって――」
「あーあー! 大丈夫です! お兄さん優しそうですし! そお兄さんが初対面の年下の子を襲うような変態だったとしたら、それはお兄さんを見誤った私にも責任がありますし!……もそもそんなに歳離れて無さそうじゃないですか。お兄さん高校生ですよね?」
「いやまぁ……そうだけど。ってなんか無駄に信用されてない?」
「信頼っていうか……お兄さん女の子を襲えるような勇気がある人じゃ無さそうですし……。」
信頼……じゃなかった。馬鹿にされてるだけだった。
俺そんなにヘタレに見えるのか……。
「それに、私、お兄さんになら別に――って、危ない危ない……。」
「え、何が?」
「何でもないです!ほーらっ!いいから行きますよ!」
「あっ!……ちょっと痛い痛い!」
俺は半ば強引に手を掴まれ、ずるずるとその子について行ってしまうのだった。
☆
「お……お邪魔します……。」
「どうぞどうぞー。」
気が付けば、俺はその子に家にお邪魔してしまっていた。
住宅街にある2階建ての家。なんだかんだで俺の家からもさほど遠くない場所だった。
玄関に入ると、確かに靴が無く、家の中には誰もいないようだった。
そのまま2階まで手を引かれ、部屋に入る。
「じゃあ、何か飲み物取ってくるので、ちょっとまっててください」
「あぁ……うん。」
そう言って部屋に一人にされる。
どうすることもできず、何となく部屋を見渡す。
6畳くらいの部屋にベットと備え付けのクローゼット。真ん中にテーブルと座椅子という一見シンプルな部屋だが、ベットの上にあるキャラクターもののぬいぐるみや、部屋全体が女子特有の良い香りに包まれていて、俺は今女の子の部屋にいるんだなぁと、認識させられる。
よくよく考えてみれば女子の部屋に入るなんてこれまでの人生で初めてじゃないか。
初めて入る女の子の部屋が彼女とかじゃなくて、さっき会ったばかりの年下の女の子って……。
とはいえ、緊張しないわけがなく、何処に座っていいかもわからず扉の前で立ち尽くしていると、
「麦茶とクッキー持ってきましたよー!って、あうわっ!」
唐突に開いた背後の扉から出てきた彼女とぶつかりそうになってしまう。
バランスを崩して零しそうになったが間一髪、零さずに済んだようだ。
「ちょっと、お兄さん! 何で扉の前で立ち尽くしているんですか!?」
「いや、どこ座っていいかわからなくて……」
「どこでも大丈夫なので、適当に座っちゃってくださいよ!」
「ああ、ごめん!」
俺はそそくさと、テーブルの横に正座になる。
「えっと……なんで正座なんです?」
「いや、ちょっと、何となく!」
緊張して思わず正座で座ってしまったとは言い難い。
「もしかして……、女の子のお部屋入るの初めて……とか?」
ギクッ
なんで一発で図星を当てて来るんだ……。
「いやっ!まさかそんな訳ないだろ。」
「ですよね……。流石に高校生になってまだ、女の子のお部屋に入ったことないなんて……。」
「そう、当たり前!入ったことあるよ!」
「ふふっ……。まぁいいです。それじゃあお兄さん、本をお借りしてもいいですか?」
「え! あぁ、はいどうぞ。」
俺は本屋の紙袋からラノベを取り出し、その子に渡す。
「あ、ラッピングはお兄さんが取ってくださいよっ!」
「え、別にとってもらって構わないよ。」
「嫌です!新品のラノベの表面のラッピングを開ける瞬間……好きじゃないんですか!?」
「いや、わりとそうでも……。」
「いいから開けてください!」
「わ、わかったって。」
俺は、一応丁寧にラッピングを外し、そのまま渡す。
「ありがとうございます!ではさっそく……ってそういえばお兄さんが先に読まなくていいんですか?私……、別にお兄さんが読んでからでもいいですよ?」
「いや、いいよ!俺はあとから家で読むし!」
「そ……そうですか?」
この子が良いとは言ってるとはいえ、明らかにこの子の家に俺がいることは問題だし、この子の家族が帰ってくる前にここから逃げ出したい!
それに、この部屋に漂う女の子の匂いが強すぎて、落ち着かないし……!
ともあれ、早くここから逃げ出したい。この子に早く読んでもらって、俺もぱっぱと家に帰って読む!
「私、ベットに寝っ転がって読んでもいいですか?その方が楽なんですよ。」
「うん、構わないよ。」
俺から了承が取れると、その子は俺に足を向けベットに俯せになりながら読み始めた。
ふぅ……。とりあえずスマホでゲームでもしながら待つか……。
俺はテーブルに置かれた麦茶を飲みつつふと、彼女を見て――、
ンブッ――!!
「ちょ……!お兄さん!?どうしたんですか!?」
彼女は振り向き、驚いた表情を見せる。
「だ、大丈夫!ごめんごめん!」
「えっと!テュッシュ!テュッシュどうぞ!」
「あ……ありがとう。」
幸いテーブルの上に吹き出したので拭くこと自体は簡単だが……。
「お兄さん急に吹き出してどうしたんです?咽ちゃいました?」
「いや、そうじゃないんだ……」
「ならどうして……あっ……!」
彼女は何かに気が付いてしまったのか、赤面した様子でこちらを睨んでいる。
なんか前に、あいつに睨まれた時と状況に酷似してる気がする……!
「お兄さん……、もしかして吹き出した原因って……。」
「な!?君には関係ないよ!どこも見てないし!」
「……見てたんですね。私のぱんつ……。」
……っ!?
事実を提示され思わず言葉が詰まる。
俺が座っている場所は彼女がうつ伏せになっているベットの足の方だ。
彼女は今そこそこ短いミニスカートを履いている。
俺の目線と彼女が仰向けになっている高さが同じだったこともその要因の一つだが……。
本来ならば絶対に見ることが無いであろう彼女の水色のフリルのついた可愛らしいパンツが見えてしまった。
「み、みてないから!」
「……本当ですか?」
「本当に!」
「何色でしたか?」
「水色……あっ。」
流れで思わず答えてしまった……!
「み……見たんじゃないですか!」
「ごめんさない!ごめんなさい!」
俺はその場でばっと土下座になりながら彼女に謝る。
「……別に、お兄さんにだったら見られてもいいんですよ?」
「……へっ?」
顔を上げると、彼女は頬を染めて、とても年下とは思えないような妖艶な表情を浮かべながら、こちらをじっと見つめていた。
「いやっ……あのっ……」
思わずたじろいでしまう俺を笑うかのような表情を見せたと思いきや、
「……冗談ですよ、お兄さん。本気にしちゃいました?」
気が付くと前と変わらない笑顔に戻っていた。
「ああ、いや、まさか本気にしないって……。」
さっきのは気のせい……か?
一瞬だけ彼女のもう一つの顔が垣間見れたような……。
「それじゃあ私続き読むので……。また見たかったら見ても――」
「もう見ないから!安心して!」
「ふふっ……そうですか?」
そう言うと、彼女はまたこちらに足を向けてラノベを読み始める。
まるで見ろと言わんばかりに……ってこれは考え過ぎか!
悶々としていると、読む体制に入ったと思っていた彼女が、
「んー。ちょっとお兄さん来てください!」
「え……、何?」
「いいから、早くこっち!」
そういって手を引かれベットに座らされる。
「そのまま少し足を開いてください。」
言われるがままに足を開くと、その中にその子が座る。
「えっと……、これはいったいどういう……。」
俺が戸惑っていると、その子は俺にラノベを手渡して、
「一緒に読みましょう!私だけ先に読むなんて不公平ですから!」
「え……この状態で読むの!?」
「そうです。あ、安心してください。私読むのはそこそこ早いのでお兄さんの読むスピードに合わせることができる思いますから。」
「いや、そういう問題じゃなくて……。」
「いいから!」
「あっ……はい!」
彼女の圧に押されて俺はしぶしぶ読み始める。
ただでさえ、女の子の部屋の香りがするのに、こんなに密着したら更にいい香りがしてきて、嫌でも意識してしまうというかなんというか…。
それに、太ももとか腕とか、彼女の柔らかい箇所が全体的に体に触れて精神衛生上あまりよろしくない。
「ちょっとお兄さん!何時までこのページ開いてるんですか!早くページめくってくださいっ。」
「あ、ごめんごめん!」
彼女はそんな事、気にも留めていないようでページをめくれと急かしながら、体を寄せる。
いや、そのせいだって……!と思っていたが、気が付けば小説の内容を見るのに集中してしばらく気にならなくなっていった。……いや、気になっていはいたけど気にしないようにしてなんとか読み続けた。
☆
「あー!読み終わりました!また続きが気になる展開ですね!」
「そうだね……。」
そう言って彼女は、俺の前に座ったまま背伸びをする。
終始読みにくいことに変わりはなかったが、結局最後まで一緒に見てしまった。
ここまで、肉体的にも精神的にも疲労しながら本を読んだのは初めてだ……。
「お兄さんもちゃんと読めましたか?」
「あぁ……まあ、うん。なんとか……。えっとそろそろ俺……」
「あ、新しい麦茶持ってきますね!」
「あ、ちょっとっ……」
もう読み終わったし帰ろうと思っていたのに言葉を言い終わらないうちに麦茶を取りに部屋を出ていってしまった。……まるで俺を部屋に引き止めるかのように。
って……忘れてたけど、今あの子の親が帰ってきたらどうなるだろう……。
変な勘違いをされるどころか間違ったら警察を呼ばれたりするのか…!?
嫌だぞっ!そんなことで警察のお世話になるのはっ!
「お兄さん……?なんで膝立ちしてるんですか……?」
「え、ああいや、何でもないです!」
いつのまにか己と葛藤している間に力んで膝立ちになっていたようで……、気が付くと彼女は新しい麦茶を持って部屋に戻って来ていた。
「そ、それより、お茶を持ってきてもらったところ申し訳ないけど、そろそろ帰ろうかなって。」
「え! せっかくだから少しお話ししましょうよぉ。」
「いやいや!ほら、そろそろ家族のだれかが帰ってくるんじゃないか?」
「大丈夫です。お母さんはまだお仕事だし、お姉ちゃんは遊んでるし、お父さんは社畜ですから!」
お父さん……社畜なんだな……。頑張ってください……。
「でっ……でも、ほら万が一のことを考えて――!」
「どうしても……駄目……ですか?一人だと寂しくて……。」
前に座られたまま振り向かれて、また、上目遣いでこちらをじっと見てくるっ。
てかっ手!手を太ももに置かないでっ!
「少しだけ……あと少しだけでいいんです……。」
あれ、なんか顔近くなってない?
まてまてっ!いや……このままじゃキ……。
「わかったっ!わかったから!」
俺はばっと後ろに仰け反る。
「いいんですか!うれしいですっ!」
「うん……。なら、よかった……。」
俺はそう言いながら体を起こす。
「えっと…じゃあとりあえず一回立ってもらっていいかな? 麦茶も飲めないし……。」
「……嫌です。」
え……何で……、と答える暇もなく彼女は言葉を続けて、
「ここが私の席なので。……お兄さんも離れないでくださいね。」
「え……っと――。」
「あ……そういえばお兄さん!」
俺がなにか言う前に言葉を続けられ、俺も思わずそれに答えてしまい
「ん、どうしたの?」
何やら、太ももをこすり合わせながらこちらをちらちらと横目で見ているので、何を言うのかと思いきや……、
「お兄さんって、彼女とか……いたりするんですか?」
「……え?」
「あ!別に深い意味は無いので勘違いしないでくださいね!あ・く・ま・で!ただの質問ですから!」
「あ……う……うん、わかってるよ……。」
女子って誰とでもこういう話するんだろうか…と思いつつ、答えるのを渋っていると、
「で、いるんですか?いないんですか?」
と、ぐいっとこちらに顔を迫るようにしながら聞いてくる……!
「いゃ……まぁ。いないけど……。」
先ほどみたいに近づかれすぎると困ると思い、答えてしまった。
「本当ですか……?」
そういうと彼女は立ち上がり正面で向き合うと、
「私が立候補してもいいですか?」
「え……?何に?」
「だから……その……お兄さんの彼女にです……」
彼女は顔を赤らめながらこちらをちらちらと見ながら言う。
え……本気なのか?
「えっ……じょうだ――」
「あー!あー!やっぱ何でもないです!お兄さん!急に予定思い出したので帰ってもらっていいですか!」
俺が言葉を発そうとした瞬間、それを制止するかのように彼女は大声を出して、俺の手を引く。
「え、何!?急に――」
「用事がっ!できましたっ!」
「あっ――ちょ……」
俺は彼女に押されるがまま、玄関まで行き――
「じゃあ、お兄さんっ!本、ありがとうございました!」
呆然と立ち尽くす俺にそう告げると彼女は勢いよく玄関の扉を閉めた。
――け……結局何だったんだ……。
突然家から出されて頭が混乱していたが、とりあえず家に帰ろうと歩き出そうとすると
「あの……お兄さん……!」
振り返ると、彼女は玄関を少し開けてこちらのほう覗き込むように見ていた。
「……返事……待ってますから。」
それだけ言ってまた彼女は勢いよく玄関の扉を閉めた。
返事……ってあの告白……本気なのか?
だってよくよく考えると、今日あったばかりの初対面の男だぞ。
いくら歳が近いからって急に告白することあるかな普通……。
えっと……あっ、彼女は惚れやすい性格なのかも……。
多分、誰にでも告白するタイプなんだろうな……。
俺はそう思うことで彼女の行動を納得付けて、とりあえず帰路についた。
=======================
お兄さんが帰ってから数十分後――。
「お兄さんかっこよかった……。」
私は、部屋のベットの上で今日のことを思い出して一人、悶えていた。
実は、私とお兄さんは初対面じゃない。
……いや、お兄さんにとっては初対面かもしれないけど。
ずっとお兄さんと話したいと思っていたけど、今日ここまで上手くいくとは思っていなかった。
私はカバンの中から今日お兄さんと読んだライトノベルの新刊を出す。
そう、私はお兄さんとあった時点で既に本は購入していた。
偶然同じ本屋にお兄さんが来て驚いてしまったけど、なんとかお兄さんを引き留めることができた。
あ~!今思い出しただけでも、ついつい顔がほころんでしまうっ。
顔を近づけたときに当たるお兄さんの息。
手を掴んだ時に触れることができたお兄さんの私より大きな手。
私のショーツを見た時のお兄さんの顔……可愛かったなぁ。
本を一緒に読んでいるときは、全然内容が入ってこなくて、ずっとお兄さんに後ろから抱き着かれてる……って悶々としてたし……。
あーっ!お兄さん。お兄さんっ……!
会うまでこの気持ちが本当かどうか自分でもわからなかったけど、どうやら本当みたい。
私はお兄さんのことが好きだ……。
コンコン――
夢中になっていると、部屋のドアがノックされる。
「海華入るよー。」
お姉ちゃんが帰ってきたみたい。
私はベットから起き上がって平然を装う。
そういえば今日はお友達と買い物に行くとか言ってたかな。
「どうしたの……お姉ちゃん。」
「ん、借りてた漫画返そうと思って…、って誰か友達でも来てた?」
え、なんでわかるの……?
でも、一応ここは……、
「別に誰も来てないけど……どうしたの?」
なんとなく、男の人を勝手に家に上げてしまったことがばれたら怒られそうな気がしたから。
で、でもお兄さんは全然悪い人じゃないし、そもそも私が家に入れたんだから!
「そう?ちょっとこの家の人のじゃない匂いがしたから。」
……って嗅覚でそれが分かるとかお姉ちゃんは犬か何かですか!
ま、まさか匂いで気づかれるだなんて思ってもみないよ……。
「まさか……彼氏を家に連れ込んだ?」
「ななななな!な訳ないじゃん!変な勘違いしないで!」
な!?核心ついてきた!?
お……お姉ちゃん怖すぎる。
まぁ……まだ彼氏じゃないけど……。
「本当……?怪しい……?」
「ほ、本当だから!て、ていうか!胸がでかいくせに、生まれてから今までで彼氏がいたことないお姉ちゃんには関係の無い話っ!」
あ、やばっ――。ついつい悪口を――。
「……それ今関係ない。」
お姉ちゃんの顔――!笑顔だけど目が……目が怖い!
「ぇっ、ちょっぁっ止めて!だ、だれか!たしゅけてぇ!」
「ふふ、誰も助けに来ないよ?」
「きゃあああああああっ!!」
海華の悲痛な叫び声が家中に響き渡った――。
☆
「ぁう……ん……ぅわ……はぁ……ん……はぁっ……」
――相変わらず脇をくすぐられるのに弱いなぁ。
散々弄りすぎて、まともな声が出せない妹をちょっとやりすぎたかもと横目で見つつ、その黒髪ショートヘアのお姉ちゃんは疑問に思った。
なんで先輩の匂いがこの部屋でするんだろう……と。