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人気投票お礼小話「女神様の贈り物」

 ハルカさん!!人気投票2位オメ!!!



☆作者からの一言


吉遊「レイに負けなくて良かったね。

   いやー、団長の“夫婦はセット”発言の影響力を垣間見た気分だよ」

雨柚「ヒロインが3位じゃなくて、本当に良かった…」


「お願いしますっ!!」


 “後生ですから!”と言わんばかりに頭を下げる女性を見ながら、ハルカは小さく溜め息を吐いた。


「……分かりました。手伝いますよ」 

「…っ!?あ、ありがとうございます!!」


 ハルカの言葉に涙を流さんばかりに喜ぶ女性に、周りの人々が“良かったなぁ”と温かい目を向ける。なかには拍手をしている者さえいた。女性の健闘を称えているらしいが……それならお前が手伝ってやれとハルカは言いたい。

  

「あっ、お店はこっちです」


 店があるらしい方向を指差しながら早足で歩き出した女性の背中を追いかけつつ、ハルカは何度目かとなる溜め息を吐いた。


 ……何で、こんなことになっちゃったんでしょうか。



   ◇◇◇



 ことの起こりは、数十分前へと遡る。




 新婚休暇中の夫を仕事へと送り出したハルカは、1人で街へ来ていた。

 1か月程前に、不幸な偶然により誘拐事件に巻き込まれたハルカだったが、その後も外出禁止になることもなく自由に街を散策している。

 正直、散策くらいしかすることがない。

 普通の新婚家庭であれば、炊事に洗濯、掃除に夫の世話、と様々な新妻らしい仕事があるのだろうが、ハルカの嫁ぎ先はかなり裕福だった。夫であるジークフリート自身も騎士団長という役職に就いており、十分な給与が与えられている。……金銭管理は邸の執事がしてくれているため、どれ程の額なのかは知らないが。

 何十人もの使用人がいる邸に、わざわざハルカがする仕事はない。一応、手伝おうとしたこともあったが“奥様にして頂く訳にはいきません!”とキッパリ断られてしまった。

 まあ、何が言いたいのかというと……暇なのだ、物凄く。


 どこに行きましょうか?


 特に目的もなくぶらぶらするのも良いが、たまにはジークフリートにプレゼントでも買って帰るべきかもしれない。

 何せ、夫は毎日のように何かしらプレゼントを渡してくる。それは、花や菓子といった比較的安い物から、宝石やオーダーメイドのドレスといった高価な物まで。一体、何に対するプレゼントなのかは不明だ。

 ちなみに、結婚する前から欠かすことなく行われているこの贈り物に、ハルカが何か返したことはない。


 でも、さすがに一度くらいは何か返した方が良いですよね。


 結婚して2か月目。

 気付くのが遅すぎたくらいだ。まあ、気が付いただけマシなのかもしれない。……ハルカは知らないが、邸では“奥様にそれとなく進言しよう”という作戦が実行中だったりする。その成果だろうか。




 とりあえず大通りの方に行ってみよう、と行き先を変更したときだった。


「すみません!今、お時間ありますかっ!?」


 後ろからいきなり声を掛けられた。

 この声が男性のものであったなら、ハルカは振り返ることもなく断っただろう。しかし、声は明らかに女性のものだった。ナンパでないのなら、人として話くらいは聞くべきだ。時間は有り余っているし。


「何か用ですか?」


 後ろを振り返ると、同年代くらいの女性が息を切らせながら近づいて来た。


「…っ、はっ、すっ…、すみません……っ」

「いえ、大丈夫ですから。ゆっくり息をしてください」

 

 ゼェゼェと荒い息のなか話し出そうとする女性を止める。全力疾走でもしていたのか、顔は紅潮し髪も振り乱れていた。


「…ふぅ、苦しかった」


 漸く息が整ったのか、女性が額の汗を拭きながらハルカへと視線を向ける。

 なかなか可愛らしい顔をした女性だ。柔らかい栗色の髪とクリクリした大きな瞳が、どことなく見る者の庇護欲を誘う。


「お見苦しいところを見せちゃって、すみません」

「…いえ。それで、何か私に用ですか?」


 にっこり笑って謝ってくる女性に再度用件を聞くと、ハッとした様子で話し始めた。……どうやら、うっかりした人のようだ。


「じ、実は……人手が足りないんです!1時間で良いのでお店を手伝ってくださいっ!!」  


 “お願いしますっ!!”とガバリと頭を下げた女性を見つめ、ハルカは面倒臭いことになったと溜め息を吐いた。



   ◇◇◇



 ハルカが急遽バイトをすることになったのは、所謂コスプレ喫茶のような店らしい。“エレガシア”というその店で、用意された衣装を着て給仕の真似事をするのがハルカの仕事だ。




 案内された店の更衣室には、様々な衣装が置かれている。

 ほとんどがドレスだが、メイド服や執事服のようなものもあった。……チャイナ服や着物まであるのはなぜなんだ。この世界の文化は一体どうなっている。


「ええっと、今日の衣装はコレなんだけど…」


 先程の女性――エミリーが言い難そうに指差した衣装は、腰から下の部分がふんわりと広がったプリンセスラインと呼ばれる、ウエディングドレスなどでよく見るタイプのドレスだった。デコラティブなデザインと可愛らしいピンクの素地が完全に着る人を選んでいる。

 他の店員は、コレを着て給仕ができるのだろうか。むしろ、給仕される側の衣装だと思う。


「………コレ、ですか…」 

「…うん。い、嫌かな?」

「嫌です」


 かなり嫌だ。

 ハルカ自身、こういった可愛らしいタイプのドレスを見るのは嫌いではない。しかし、あくまで“見るのは”であって、着たいと思ったことはない。

 エミリーがこちらの顔色を窺っているのは分かっているが、コレを着なければいけないのならば、バイトの話はなかったことにしたい。

 

「……やっぱり…」


 ハルカが“他の人に頼んでください”と断り文句を口にしようとすると、それを遮るようにエミリーが叫んだ。


「じゃ、じゃあ、ハルカちゃんは好きな衣装選んで良いよ!」

「……………」


 余程人手が足りないらしい。かなり必死だ。

 だが、“好きな衣装”と言われたところで、ここにあるのはドレスがメインだ。他の物にしても、着たいと思えるようなものはない気がする。

 実際、ハルカは裏方の仕事の方が性に合うのだが。


「厨房の手伝いとか…」

「接客が足りてないんだよ!」

「……………」

 

 折角の案は、エミリーに一刀両断されてしまった。

 仕方がないので、何かマシな衣装はないかと部屋の中を見渡す。


 うーん。

 ……どれも趣味じゃないんですよね。


 男性向けの店なのだろう。どちらかというと可愛らしい感じの服が多い。あるいは、露出のあるセクシー系か。


「……あっ!」

「えっ、どれどれ?」


 あるモノを見て声を上げたハルカに、何か気に入ったものがあったのかとエミリーが嬉しげに尋ねてくる。そんな彼女を尻目に、ハルカはソレを指差した。


「アレです」


 ハルカの指の先にあるソレを見て、エミリーは見間違いかと目を瞬かせる。


「…………ええっ、アレ?」

「はい。アレなら着ても良いです」


 エミリーの正気を疑うような声にも動じず、ハルカは“アレ以外は絶対に着ない”という意味を込めて強く頷いた。


 

   ◇◇◇



 その店――エレガシアは、今までにない程繁盛していた。

 元々、その日によって店員の衣装をがらりと変える珍しい店として人気があったのだが、今日は“ある店員”のおかげで行列ができるまでになっている。

 ここ2時間は客足が途絶えていないと言えば、その盛況ぶりが伝わるだろうか。




 ハルカは注文の品を慎重にテーブルへと置く。

 意外とこの格好は動き難く、視界も狭いので給仕をするのが難しい。何度か皿やコップを落としそうになりヒヤッとした。


「あ、あの……メッセージ書いてもらえますか?」


 神経を使いながら給仕をしていると、一人の男性客が声を掛けてくる。

 どうやら、オムライスにケチャップで何か言葉を書いて欲しいらしい。どこの国にも似たようなサービスはあるものだ。


「……………」


 すでに今までの客に何度も書かされているのだが、いつまでたっても何を書いたら良いのか分からない。

 レクチャーしてくれたエミリーは“お客さんに対して思ったこととかを自由に書けば良いよ”と言っていたが、特に彼らに思うことはないのでやはり毎回悩んでしまう。


『どうぞ』


 とりあえず、今回はそう書いてみた。

 この客に抱いた思いを訳すなら“早く食え”である。衣装の関係で手が動かし難いため、書くのは3文字が精一杯だ。


「…っ、あ、ありがとうございます!!」


 なぜか物凄く喜ばれてしまった。

 こんな言葉で良いのかと疑問に思うが、本人が喜んでいるのなら問題ないだろう。

 “また指名してくださいね”という意味を込めて、軽く頭を下げる。深く下げるとバランスが崩れるので仕方がない。

 ちなみに、しゃべらないのも面倒臭がっているからとかではない。しゃべっても、くぐもった声しか出ないのだ。


 そう、ハルカは今、着ぐるみ……ではなく、甲冑を着ていた。 




 甲冑とは、戦いのとき身を守るために着用する武具のことであり、胴体を覆う鎧と頭にかぶる兜に分かれている。

 ハルカが店の更衣室で選んだ衣装である甲冑――甲冑が衣装なのかという疑問はさておき――は完全に全身を覆うタイプのもので、籠手まで付いていた。決して、“それ、防御力あるの?”というセクシー系のものではない。 

 正直、着た直後に後悔した。

 メチャクチャ暑い。これは、着ぐるみと良い勝負かもしれない。

 しかし、自分から着ると言った手前、やっぱり無理だとは言い難く、他の衣装も着る気にならなかったため、甲冑姿での接客となったのだった。


 


 エレガシアの店長である男――サロモンは押し殺しきれない笑みをその顔に浮かべ、店内を見渡した。

 どの席も埋まっている。

 ここからは見えないが、店の外にもかなりの行列ができているという報告がきていた。

 今日だけで、一体いくらの売り上げになったのだろう。そう考えるだけでまた笑いが込み上げてくる。


「…ふっふっふっふ」

「店長、気持ち悪いですよ」


 不気味に笑うサロモンに、バイトの1人がツッコミを入れる。

 

「これが笑わずにいられるかね!…ふっふっ、エミリーは本当に良い人材を連れて来てくれた」

「……ホント、あの甲冑大人気ですね」


 2人の視線の先にいるのは甲冑を来たハルカだ。

 今も、むさ苦しい姿で動き難そうに給仕をしている。


「……しかし、何がそんなにウケたのかね?」


 どこまでもただの甲冑でしかないハルカの姿に、今さらながら疑問が湧きあがってきたらしいサロモンは、隣に佇むバイトに問いかけた。


「何か、“あれは中身は絶対美人!甲冑越しのクールな雰囲気と毅然とした女騎士っぽいところが堪らない!!”ってことみたいです」


 客達が言っていたのだろう。バイトはわざわざ声音まで真似て答えた。


「……甲冑を着ているのなら、美人かどうかは関係ないんじゃないかね。中身は見えないのだろう?」

「はい。顔まで覆っちゃうタイプの兜なので、全く見えないはずなんですけど」


 果たして、客達はどこで美人だと判断したのか。……見えないと、余計に夢って膨らむものなのかもしれない。


「で、実際に美人なのかね?」

「……やっぱり店長も気になるんですね」

「私も男だからね」


 バイトの蔑んだ視線にもめげず、サロモンは胸を張って答えた。

 美人が嫌いな男なんていないのだ。

 そんな店長の様子に呆れつつ、バイトは先程の休憩のときに顔を合わせたハルカの容姿を思い浮かべる。


「……美人ですね。それも、ちょっと見ないくらい綺麗な人でしたよ。甲冑なんか着てるのが勿体無いくらい」

「そんなに美人なのか」


 べた褒めするバイトに、サロモンは驚いた。


「ええ。ホントに美人ですよ、ハルカちゃん」

「……………ハルカちゃん?」


 どことなく聞き覚えのある名前だ。

 何だかとてつもなく嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

 サロモンの記憶が確かなら、アノ騎士団長の妻がそんな名前だったような……。いやいや、まさか。それはないだろう。きっと、偶然だ。


「……どんな子かね?」


 だが一応は、確認しておくべきだろう。まあ、間違いなく別人だとは思うが……万が一、いや、億が一ということもあるかもしれないし。

 しかし、サロモンのそんな思惑はバイトの次の言葉で呆気なく崩れ去ってしまう。


「えーと、珍しい黒髪黒目の美人です。齢は私達と変わらないくらいじゃないかな、20歳前後?」

「……………………」


 間違いなく、アノ騎士団長の妻だった。 



   ◇◇◇



「申し訳ございませんでしたっ!!」


 そう言って、土下座せんばかりに頭を下げるのは、先程紹介された店長のサロモンだ。


「……ええっと」


 突然の謝罪に、どう対応して良いのか分からない。というか、ハルカはこの人が何に対して謝っているのかも知らなかった。


「…どうかっ、どうかお許しくださいっ!あなたがまさか……アノ騎士団長の奥様でいらっしゃるとはっ!!」


 ……ああ。そのことですか。


 サロモンの言葉で何となく理解できてしまった。

 要するに、ジークフリートの妻だとバレたのだろう。いや、別に秘密にしていた訳ではないが。……あえて言わなかっただけだ。


「別に良いですよ。私の意思で引き受けたんですから」


 多少強引ではあったかもしれないが、最終的にバイトをすると決めたのはハルカだ。

 その言葉に、サロモンはガバリと身体を起こした。

 若干、彼の目が潤んでいるのは見間違いだと思いたい。……ジークフリートが怖くて泣いているのではない、はずだ。


「…っ、あ、ありがとうございます!」

「いえ、お礼を言われるようなことじゃないですし」


 むしろ、ジークフリートのことを黙っていたハルカに問題がある。彼女はこうなることを予想すべきだ。


「で、では……騎士団長には言わないで頂けないでしょうか?」


 サロモンは青い顔で微かに震えながら、申し訳なさそうにそう言う。

 ここまで怯えられて、さすがのハルカも少し悪いことをしたような気になってきた。こんな細やかな願いくらい叶えてあげたい。大したことじゃないし。


「そのくらいなら、構いませんよ」


 というか、最初から夫に言うつもりはなかった。

 ジークフリート的にバイトがOKか分からないのもあるが、成り行きとはいえ、自分で稼いだお金が手に入ったのだ。当初の予定とは少し違ってしまったが、このお金でジークフリートへのプレゼントを買えば良い。


「ありがとうございます!!」


 何度も頭を下げるサロモンを見ながら、自分の夫はどれ程恐れられているんだろうかと、ハルカは遠い目になる。

 意外と、誘拐犯達の言っていた噂は本当のことなのかもしれない。


 こうして、やっぱり何だか不幸な人をつくりつつ、ハルカの異世界初めてのバイトは終わった。



   ◇◇◇



「……ハルカ、これは何だ?」


 ジークフリートの前に今日のバイト代――異常に高額だった――で買ったプレゼントを置くと、不思議そうに問いかけてくる。

 ちなみに、夫からのプレゼントはすでにもらっている。今日は肌触りの良いナイトドレスだった。……こちらの好みを熟知しているかのようなチョイスがビミョーに怖い。


「プレゼントですよ」

「何に対するプレゼントなんだ?」

「……いつもジークがくれるプレゼントに対するお礼です」


 そう言うと、ジークフリートはポカンとした顔になった。

 かなり驚いたらしい。

 頻りに瞬きを繰り返しているのは、状況が把握できていないからだろうか。……しかし、ここまで驚かれると今まで何もしてこなかったことに対する罪悪感が湧いてきそうだ。


「……驚き過ぎじゃないですか?」


 ハルカの言葉に、ジークフリートはハッとした様子で目の前に置かれているプレゼントに手を伸ばす。

 そして、手に取ったプレゼントを大切そうに撫でながら口を開いた。


「開けても良いか?」

「どーぞ」


 慎重な手つきでプレゼントに付いているリボンを外す夫の姿に、ハルカは思わず苦笑する。

 そこまでするようなものは入っていない。

 ハルカがプレゼントに選んだのは、ちょっと高級な万年筆だ。……プレゼントに込められた意味は“仕事しろ”である。


「大切にする。……ありがとう、ハルカ」


 ジークフリートは、万年筆(プレゼント)を見ながら本当に嬉しそうに笑った。 

 たぶん、アノ騎士団長のこんな顔が見れるのはハルカだけだろう。


 ……プレゼントをあげるのも、たまには良いかもしれないですね。


 次にプレゼントをするときも自分が稼いだお金で買って来ようかな、などとらしくない考えが頭に浮かんだ。



   ◇◇◇



「で、“エレガシア”は楽しかったのか?」

「…っ!?」

「甲冑を着たんだろう」

「……………」

「大盛況だったみたいだな」

「……………」

「ハルカがあそこで働きたいなら、店ごと買い取ってやろうか?」

「…………止めてください」





 ハルカさん……なぜ、甲冑を選んだんだ。この、似たモノ夫婦めっ!


 拍手小話も新しくしときますね。

 あっ、スピンオフの“二度あることは、三度ある。”もよろしくお願いします!←3位のレイのお礼小話はこれです。1人異様に優遇されてるのは、人気ゆえ。……所詮、人気が全てなんだゼ☆


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