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【アストラ・レコーダ】〜VRMMO転移で最弱スタート〜異世界に放り込まれた俺は、敵のスキルを奪い尽くして最強に成り上がる〜  作者: ころん


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第11話 アリシアの依頼と月光花の森


 朝の光が差し込む冒険者ギルドは、今日も活気に満ちていた。

 俺とアヤネは、昨日ふたりで泥だらけになりながら集めたヒールグラスの束を麻袋に詰め、受付カウンターへと向かった。


「おはようございます、ミレイユさん! サクラさんに頼まれた依頼の薬草、持ってきました!」

「おはようございます、アヤネちゃん。スイさんも、おはようございます」


 受付のミレイユさんは、いつも通りの綺麗で親しみやすい笑顔で出迎えてくれた。彼女が麻袋の中身を手際よく確認し、状態の良さに小さく頷く。


「うん、とても綺麗に採れていますね。回復ポーションの材料として完璧です。Fランク依頼『ヒールグラスの採取』、完了となります。こちらが報酬の銅貨十五枚です」

「やったね、スイさん!」

「うん、お疲れ様、アヤネ」


 チャリン、と小気味良い音を立てて置かれた銅貨を、アヤネが嬉しそうに革袋にしまう。俺もホッと息をついて、さて今日はどうしようかと考えていると、ミレイユさんが一枚の真新しい羊皮紙を差し出してきた。


「それと、スイさん。ギルドマスターから承認が下りまして、スイさんは今日付で『Eランク』へ昇格となります」

「えっ、Eランク? 俺がですか?」

「わぁっ! すごいすごい! スイさん、もう昇格だよ!」


 驚く俺の隣で、アヤネが自分のことのようにぴょんぴょんと跳ねて喜んでくれる。


「まだ薬草採りくらいしかちゃんとした依頼を受けてないんですけど、いいんですか?」

「ええ。街に来る前の商隊護衛の実績や、昨日ワイルドベアから無傷で逃げ切った冷静な判断力などが評価されました。Eランクになれば、もう少し報酬のいい依頼も受けられるようになりますよ。……もちろん、少し危険も増えますから、無理はしないでくださいね」

「ありがとうございます。……慎重にやりますね」


 俺は照れくさく笑って、新しいギルドカードを受け取った。

 危険な場所へ好んで行きたいわけじゃないけれど、こうして評価してもらえるのは素直に嬉しい。少しずつ、この世界での歩き方が分かってきたような気がした。


「さーて、Eランクになったスイさんは、今日どんな依頼を受けちゃうのかなー?」


 ギルドの掲示板の方へ歩きながら、アヤネが楽しそうに俺の顔を覗き込んでくる。


「うーん、そうだね……あまり遠出はしたくないし、手頃なのがあれば」


 そう言いかけた時だった。

 ホールの隅の小さな丸テーブルに、ちょこんと座っている小柄な影が見えた。灰色のローブをすっぽりと被った、おとなしそうな女の子。


「あ、アリシアちゃんだ!」


 アヤネがパッと表情を明るくして、小走りでテーブルへと向かっていく。俺もその後を追った。

 アリシアさんはテーブルの上に数枚の依頼書を広げ、何やら真剣な顔でウンウンと唸っている。


「おはよう、アリシアちゃん! 依頼探してるの?」

「……ひゃっ!?」


 アヤネに横から声をかけられ、アリシアさんはビクッと肩を震わせて振り返った。


「あ、アヤネさん! スイさんも……おはようございます。ええと、はい、少し探し物を……」

「探し物って、おばあさんのお薬の材料?」


 俺が優しく尋ねると、アリシアさんは少し申し訳なさそうにコクリと頷いた。


「はい。おばあちゃんの熱を下げるために、『月光花』っていうお花が必要なんです。でも、月光花は夜の森にしか咲かないから、誰かに護衛をお願いしたくて……でも、私が出せる報酬額だと、夜の森まで付き合ってくれる冒険者さんはなかなか見つからなくて……」


 アリシアさんはギュッとローブの裾を握りしめた。

 誰にも迷惑をかけたくなくて、一人で悩んでいたんだろう。その小さな肩を見ていると、放ってはおけなかった。


「ねえ、アリシアさん。もしよかったら、俺たち一緒に行こうか?」

「えっ……?」


 アリシアさんが、驚いたように顔を上げる。


「ほら、俺たちも今Eランクになったばかりで、ちょうど次の依頼どうしようかって話してたところなんだ。それに、夜の森に女の子一人で行かせるなんて、心配で俺の寝覚めが悪くなっちゃうからさ」

「そうそう! 私も一緒に行くし、スイさんは結構強いから頼りになるよ!」


 アヤネも元気よく胸を張ってくれる。

 アリシアさんは俺とアヤネの顔を交互に見比べ、やがてその大きなエメラルドグリーンの瞳に、じわっと涙を浮かべた。


「……本当に、いいんですか……?」

「もちろん。準備ができたら夕方に出発しよう。ここで待ち合わせでいいかな?」

「はい……っ! ありがとうございます、スイさん、アヤネさん……!」



     ◆ ◆ ◆



 夕暮れ時。

 太陽が西の空に沈み、エルモアの街が少しずつ暗闇に包まれ始める頃、俺たち三人は東門を抜けて『囁きの森』へと足を踏み入れた。


 昼間とは違い、森の中はひんやりとした空気に満ちている。二つの月の光が木々の隙間から差し込み、地面に神秘的な模様を描いていた。


「暗いから、足元気をつけてね。アヤネも、俺から離れないように」

「うん、わかってるよ。スイさんの背中、ちゃんと掴んでるからね」


 俺のすぐ後ろをアリシアさんがランタンを持って歩き、その後ろをアヤネがついてくる。

 俺は腰に下げた鉄の長剣の柄に軽く手を添えながら、ゆっくりと先頭を進んだ。

 少しでも緊張をほぐそうと、俺たちはいろいろな話をした。街の美味しい屋台のこと、サクラさんの淹れるお茶が美味しいこと、アリシアさんが最近覚えた薬の調合のこと。

 夜の森は不気味だけれど、三人でこうして話しながら歩いていると、不思議と心強かった。


「あっ、あそこです!」


 やがて、前方の木々が途切れた場所に、ぽっかりと開けた空間が見えてきた。

 そこには、思わず息を呑むような光景が広がっていた。

 スポットライトのように降り注ぐ月の光を浴びて、無数の白い花が一面に咲き乱れている。一つ一つの花が淡い青白い光を放ち、夜風に揺れてキラキラと輝いていた。


「うわぁ……すっごく綺麗……!」

「本当だ。光ってるみたいだね」


 アヤネも俺も、その幻想的な美しさに心を奪われた。


「これが月光花です。……さあ、急いで採りましょう。月が雲に隠れると、すぐに花を閉じてしまうので」


 アリシアさんが籠を下ろし、丁寧に花を摘み始める。

 俺とアヤネもそれに倣って、花弁を傷つけないようにそっと茎を折って籠に入れていった。

 静かな時間だった。虫の鳴き声と、風の音だけが聞こえる。

 このまま何事もなく帰れればいいな。そう思いながら、俺が最後の一本を摘み取ろうとした、その時だった。



 ――カサッ。



 背後の茂みで、かすかな物音がした。

 ただの風じゃない。明確な、何か重みのあるものが落ち葉を踏む音。

 俺はスッと立ち上がり、反射的に長剣を抜いた。


「二人とも、俺の後ろに下がって」


 俺の少し低い声に、アヤネとアリシアさんはハッとして、慌てて俺の背後に隠れた。


 暗闇の奥。

 木々の隙間から、ギラリと光る獣の目がいくつも浮かび上がった。

 一つ、二つ、三つ……四匹。

 ゆっくりと、足音も立てずに広場に姿を現したのは、銀色の美しい毛皮を持った、俺の腰の高さほどもある巨大な狼たちだった。


「月光ウルフ……!」


 アリシアさんが、震える声で呟いた。


「月光花の魔力に惹かれて集まってくるんです。とても賢くて、群れで連携して狩りをするから……気をつけてください、スイさん!」


 レベル20前後の魔物。今の俺にとっては明らかな格上だ。

 四匹の狼は、俺たちを半円状に取り囲むように、ジリジリと間合いを詰めてくる。一匹が正面に立ち、残りが左右に散開する。見事な陣形だ。


「大丈夫。俺が何とかするから、二人はそこを動かないで」


 俺は長剣を両手で構え、小さく息を吐いた。

 怖いけれど、足は震えていない。守るべき相手が後ろにいるからだ。


 グルルルルッ……。


 正面の一匹が、低く身を沈めた。来る。


 ――ダンッ!!


 地面を蹴る音と共に、銀色の塊が弾丸のように飛びかかってきた。鋭い牙が、俺の喉元を狙っている。

 速い。でも、見えないほどじゃない。


(『跳躍』!)


 頭の中でスキルを意識する。足の筋肉に力が満ち、俺の身体はふわりと上空へ跳ね上がった。

 狼の牙が空を切り、俺の真下を通り抜ける。空中で姿勢を捻り、通り過ぎた狼の背中に向けて落下する。


(『剣士の怒り』!)


 両腕の筋肉にスキルの効果を集中させる。腕が熱を持ち、長剣が恐ろしいほどの速度で振り下ろされた。


 ザシュッ!!


 確かな手応えと共に、剣が狼の背中を深く切り裂いた。銀色の毛皮が赤く染まり、一匹目が地面に崩れ落ちる。


「よし!」


 着地と同時に身構える。

 だが、俺の予想以上に敵は賢かった。仲間がやられたのを見た残りの三匹は、俺に怒りを向けるのではなく、俺を『厄介な障害物』と判断したらしい。

 右にいた一匹が俺の足止めに飛びかかってくるのと同時に、左に回っていた二匹が、俺を完全に無視して背後のアヤネとアリシアさんへと一直線に突っ込んでいったのだ。


「しまっ……!?」


 俺は足止めに来た狼の牙を剣の腹でギリギリ弾き返すが、体勢を崩されてしまう。

 視界の端で、アリシアさんがアヤネを庇うように前に出て、石につまずいて派手に転倒する姿が見えた。


「きゃあっ!?」


 倒れ込んだアリシアさんの細い首筋に向け、二匹の月光ウルフが容赦なく巨大な顎を開いて飛びかかる。

 剣は届かない。走っても間に合わない。

 あと一秒で、彼女が食い殺される。

 俺は大きく息を吸い込み、スキルを起動して喉の奥から叫び声を張り上げた。


「ガァルルルルァァァァァァァァッッ!!!」


 野生の獣そのものの咆哮。俺自身の喉がビリビリと震えるほどの勢いと共に、大気を物理的に揺るがす不可視の衝撃波が広場全体に叩きつけられた。


「キャンッ!?」


 アリシアさんの喉元まで数センチに迫っていた二匹の狼が、空中でビクンと身体を硬直させ、ポトッと不様な姿勢で地面に落ちた。数秒間のスタン(気絶)効果だ。


「はぁぁっ!」


 俺はその隙に地面を蹴り、倒れ込んでいるアリシアさんの前へと滑り込む。そのまま、気絶して痙攣している一匹の首元に長剣を深く突き立てた。


 ザグッ、と刃が通る感触が手に伝わる。

 だが、安心している暇はない。スタンから回復したもう一匹が、すぐ目の前で激怒の唸り声を上げ、俺の顔面めがけて飛びかかってきた。

 近すぎる。剣を振るスペースがない。


(だったら……!)


 俺は咄嗟に新しいスキルを意識の底から引っ張り出した。

 『恐慌の目』。

 発動した瞬間、俺の右の眼球が、内側からカッと強い熱を持った。

 視界の右半分に赤いフィルターがかかったようになり、相手に強烈な恐怖と威圧感を与える力だ。

 俺の右目と、飛びかかってきた狼の目が、至近距離でバチリと交差する。


「ギャンッ……!? キャ、キャンッ、クゥーン……っ!!」


 空中にいた狼は、まるで透明な壁に激突したかのように不自然に身をよじり、地面に落下した。

 そのまま尻尾を股の間に巻き込み、ブルブルと震えながら後ずさりを始めたのだ。完全に戦意を喪失している。

 その光景を見た最後の一匹――俺を足止めしようとしていた個体は、不利を悟ったのか、クルリと背を向けて森の奥へと一目散に逃げ去っていった。


「……はぁっ、はぁっ……」


 俺は荒い息を吐きながら、動けなくなっている狼に剣を突き立て、トドメを刺した。

 右目の熱が徐々に引いていく。初めて使ったスキルだったが、これのおかげで命拾いした。


「……アリシアさん、アヤネ。大丈夫!?」


 俺は慌てて長剣を鞘に収め、地面に座り込んでいる二人に駆け寄った。


「す、スイ、さん……」


 アリシアさんが、震える手で俺の服の袖をギュッと掴んだ。

 その大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちる。


「私、もうダメかと……っ、食われるって……っ」

「ごめん、俺が防ぎきれなかったせいで怖い思いさせた。怪我はない?」


 俺が優しく尋ねると、アリシアさんは首を横に振り、そのまま俺の胸元に顔を埋めてわあわあと声を上げて泣き始めた。


「スイさんがいなかったら、私……本当に、ありがとうございましたっ……! 助けてくれて、ありがとう……っ!」

「よかった。二人とも無事で本当によかった」


 死の恐怖から解放され、子供のように泣きじゃくるアリシアさんの背中を、俺はゆっくりと撫でた。隣ではアヤネも、腰を抜かしたまま安堵の涙を浮かべていた。



 ――ピーン。



 静けさを取り戻した森の中で、不意に、頭の中にあのシステム音が響いた。


『月光ウルフ、三体の撃破を確認』

『レベルが7から10へ上昇しました』

『スキル奪取の条件を満たしました。対象:月光ウルフ』

『スキル:【静寂の歩み】を獲得しました』


 視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がる。


【静寂の歩み】:足音を完全に消去し、周囲の気配と同化する。移動系・隠密系スキル。


 なるほど、あいつらが足音も立てずに近づけたのは、このスキルの力だったのか。森を歩くにはとても便利な力だ。

 俺は、ウィンドウの下に表示されている『装備枠』を確認した。


 装備枠 5/6

 1. 棍棒殴打

 2. 剣士の怒り

 3. 跳躍

 4. 咆哮

 5. 恐慌の目

 6. [空き]


 空いている最後の枠に、俺は手に入れたばかりの『静寂の歩み』をセットした。


『【静寂の歩み】を装備枠6にセットしました』

『装備枠の状態:6/6(満杯)』


 満杯。

 その文字を見て、俺は小さく息を吐いた。


 ついに、俺のスキル枠がすべて埋まってしまった。

 これまでは空きがあったから、手に入れた力はとりあえず入れておくことができた。でも、これからはそうはいかない。


(そうか。次から新しい力を取り入れたい時は、今の自分が持っている何かと入れ替えなきゃいけないんだな)


 今の自分にとって何が一番必要なのか、何を外して何を残すのか。その判断を間違えれば、今日みたいにいざという時に、自分や大切な人を守れなくなるかもしれない。

 だからこそ、これからはもっと慎重に、自分の力と向き合っていかなければならない。

 そんな、身の引き締まるような、静かで前向きな緊張感だった。


「……落ち着いた?」

「はい……すみません、私、みっともなく泣いちゃって……」


 顔を真っ赤にして涙を拭うアリシアさんに、俺は笑って手を差し出した。


「私……もっともっと勉強して、絶対に立派な薬師になります。それで……いつかスイさんたちが怪我をして困った時、一番頼りになるポーションを作れるように……っ」

「ありがとう。それじゃあ、その時は一番に頼らせてもらうね」


 俺がそう答えると、アリシアさんは涙で顔をくしゃくしゃにしたまま、嬉しそうに頷いてくれた。

 俺たちは微笑み合い、月光花でいっぱいになった籠を持って、エルモアの街へと帰路についた。


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