115 銃声が轟いた
・・・君たちは決して悪くはない。
人はみんな、何かに転んでしまうんだ、でも、擦り傷で、すめば、いいのだけれど、とんでもない、おおけがをすることもある、なんとかして、それを、避けなければ、いけない。
たちあがらなくては、いけない。自分が転ばないように、人を転ばせたりしちゃ、いけないんだ。
みんな、本当は、いい子なんだ、いじめたりしちゃ、だめだ、弱いひとを、助けなくちゃだめだ、君たちに必要なのは、勇気だ、弱いものをいじめなかったら、今度は、自分がいじめられると、心配してるんだろう?
君がひとをいじめるのは、君が弱虫だからだ、そして、君が弱虫になったのは、君が悪いんじゃない、勇気をもつんだ、僕も、弱虫だけれど、僕は、みんなを何とかしてあげたい…
それから急に、宮本は咳き込み、また黄色い液体をごほごほと吐き出した。
芝居の台詞だ。テレフォン・ラインだ、と私は思った。
キラーは、笑い出した。そして、
「ああ、何てこった。永野先生のつもりかい。よく知ってるな、永野先生の言葉を、この人間の屑が。おい、起きろよ、目を覚ませ。もう、終わりだよ」と、どなった。
宮本は、固く閉ざしていた目を開けた。吐瀉物を出して、少し楽になったのか、痙攣は終ったようだ。しかし、目の色は、尋常なものではなかった。
そして自分に向けられたキラーの銃を見た。何が起ったのかわからない、という顔でいた。
キラーはいった。
「宮本さん、あんたを処刑する」
「やめろ!」私は必死でどなった。「もう馬鹿なことは止めるんだ」
宮本は愕然とした表情だった。何かの発作に襲われたように、目を大きく見開いてキラーを凝視していた。
銃声が轟いた。
宮本は、目を固く閉じて、そこに倒れ、同時にキラーの銃が床の上に転がった。
私はとっさにダッシュして、キラーの銃を拾った。
キラーは苦痛に顔を歪めて悲鳴をあげ、右肩を押さえ、カウンターに倒れかかった。キラーの右手を伝って、赤い血が床に滴り落ちた。
キラーの銃を拾い上げた私が後ろを振り向くと、そこには、銃を構えた藤山が立っていた。
藤山は目と鼻の穴を大きく開き、歯をむき出しにした必死の形相で、笑っているような、怒っているような、迫力に満ちた不可思議な表情だった。
ぜえぜえと肩で息をしていた。死ぬ間際になってやっと初めてダービーに出馬した駄馬が、奇跡的にコースを完走した直後のような感動に包まれていた。
「あ、当たった・・・!」
藤山は叫んだ。
藤山は自分の発射した銃弾が、キラーの右肩に見事命中したことが自分で信じられないらしかった。
「藤山さん!見事です!!」
私はいった。
「この馬鹿、気絶してたんだろ、おまえは…」キラーは呻き声をあげた。
「堪忍やで。痛かったやろ」
藤山はキラーに向っていった。
「ふざけるな、ちくしょう!」激痛に堪えかねて、キラーは叫んだ。
私はキラーから奪った銃を構えていった。
「これまでだな。大逆転だよ。これでおまえさんも、お終いだ」
「…・」キラーは右肩を押さえたまま、苦痛で顔を歪めた。
・・・・・つづく




