110 もうとぼけるのはやめろ
キラーは私の話を黙ってきいていたが、首を軽く左右に振り、銃を上下に動かして、
「休憩おわり」
といい、また私に手を上げるように促した。私はタバコをもみ消して、両手をあげながら、いった。
「ご静聴ありがとう。タバコはうまかった」
「もう、思い残すことはないかい?」
「いや、ある」
「何だ」
「教えてくれ。永野先生は、やっぱり殺されたのか?」
「なぜ、そんなことを俺が知っているんだ」
「君は同級生じゃないか。河合や内田の。しかも親密な」
「そうかい?さっき変なことをいってたな。内田は永野先生の忠実な弟子で、永野先生の亡霊が一方にいて、それは「殺し」によって永野先生の教えを実行してる。そういうもんかな」
「もう、とぼけるのはやめにしてくれ。殺す気なら、冥土の土産に、本当のところを教えてくれ。これじゃあ、死んでも死にきれない。
永野先生は殺されたのか?それに、この際だから、みんないうが、なぜ、君は河合を殺し、篠原を殺し、この宮本までも殺そうとしているのか」
「ふん」
キラーは、私の言葉を鼻でせせら笑った。
「それについても、ちゃんと、あなたなりの考えがあるんだろう?」
私は黙ってキラーの顔を見ていた。キラーはいった。
「あんたの知っていること、私に関して知っていることを、全部教えてくれよ」
私はいった。
「出川靖夫。君は光聖学園高校の出身だ。河合や内田と同級生だ」
出川ことキラーは、頷いた。
「それで?」
「卒業後は、防衛大学にすすみ、学ぶべきことを学び、きわめて優秀な成績で中退し、アメリカの民間軍事会社に就職した。
その軍事会社での君の階級は、軍隊で言うところの将校か?正式な名称は知らないが。君は高校では、極めて優秀な成績だった。
東大の医学部にだっていけたんじゃないか?首席で高校を卒業した。しかし、なぜかそうした道に進んだ。
そして、あらゆる銃器に関するテクニックをマスターしている。頭脳も肉体も、完璧な男だ」
「ありがとう」
「殺し屋なんかにしておくのはもったいない」
「そうかね」
「そして…」
「うん」
「君は、河合と兄弟なんだ」
「うん。そうだよ」
キラーは、こともなげにいった。
「君は篠原が河合の母とも、マユミの母とも違う、別の女性に生ませた子供だ」
「よく調べましたね」
キラーは、感心した様子でいった。
「だから?」
「君もまた、不幸な生い立ちの子供なんだ」
・・・・・つづく




