108 ああああ
「違うのか?」
「あんたは、見かけによらず、よく調べる人なんだな。私が出川だったら、どうだというんだ」
「実は、僕はマユミの死の真相は、これでは十分に解明されていないと思う。そうだよ、君もそう思っているだろう?君の協力が必要なんだ」
「いよいよ、みんな死ななければならなくなりますよ」
「どのみち、ここまで僕は知ってしまったんだから、どうせ殺されるんだろう。僕は最後まで知りたいんだよ。藤山さんも、そうですよね?」
「え?はあ、まあ、さ、さいです」
藤山はどもりそうになりながら、いった。
キラーは憂鬱そうに表情を歪めて、唾を床に吐き出した。憂鬱そうな顔をしたまま、銃を黒い包みの方へ向けた。そして引き金に指をかけた。
私と藤山は恐怖で彫像のように静止した。体中に脂汗が滲んだ。藤山は小刻みに体を震わせていた。キラーは再び、いった。
「爆弾だぞ、これは」
そして、肩を鳴らし、面倒臭そうな顔をしていった。
「撃っちゃおうか」
キラーは引き金にかけた指に力を入れた。
そのとき。
「ああああああああ!」
という変な、空気の抜けるような声がした。そして、どたん、と人の倒れる音がした。
私は唖然とした。
倒れたのは藤山だった。
極度の緊張のあまり、藤山が気絶して倒れたのだった。
キラーは倒れた藤山を見て、ぷっと吹き出した。
私が見下ろすと、藤山はダンプカーにひき殺された蛙のように、目を閉じて口を開けたまま、両手を上げて床に転がっていた。
「あわれな親父だな」
と、藤山を見てキラーはいった。
「まるでみっとない漫画じゃないか。これが警察なんだから、どうしようもないな」
私は黙っていた。じっと手を上げたまま、キラーの出方を待った。キラーは私にきいた。
「それで。私は出川何さんなんだ?」
キラーは銃口を再び私の方へ向けながらいった。
「出川靖夫。目鼻だちは高校時代の顔写真に比べて随分違っている。整形手術でも受けたんだろう。でも顔の輪郭の基本というのは、やっぱり変えられない」
「探偵を職業とする者の目はごまかせないというわけか」
「僕に相談してくれれば、もっと腕のいい整形外科医を知っている」
「そうかね。この仕事が終ったら、紹介してもらおうかな。いよいよ顔を変えて、どっか外国へでも行こうかな。それで、私の協力がほしい、とは、一体何のことだ」
「マユミの死の理由だ」
私は、いよいよ殺されるかな、という思いになったが、逃げの姿勢に出れば、即座に射殺されるだろうと、やはり考え、あくまで正面からキラーを見据えていった。
・・・・・つづく




