104 爆弾?
「心あたり?」
「いや、失礼。まだ全く未整理です。しかも、ここで、先ほど申し上げた、依頼人のプライバシーということが、ここで問題になってくるんです。
しかし、結論からいうと、いずれにしても、次はこの宮本が、危ないんです。殺られる可能性が非常に高いと見ています」
「…・そうですか」
藤山は、半分わかったような、わからないような顔をして、口をへの字に曲げて腕を組んだ。
そのとき、カウンターの手前横の、おそらくトイレか店の事務所へ通じているらしいドアが、音も無く開いた。
ドアの向うは真っ暗だった。その暗闇の向うから、黒い布に包まれた、小さなスイカくらいの大きさのものが彼らをめがけて飛んできた。
「蛆虫ども、消えろ!」
という大声が同時に暗闇の向うから聞こえた。
黒い布に包まれた物体は、床を転がって、店の中央あたりに止まった。
それは彼と藤山が立ち話をしていた場所と宮本の寄りかかったカウンターのちょうど中間地点だった。
扉の向うの暗闇から再び声が怒鳴った。
「爆弾だぞ、それは!!」
私も藤山も、何が起ったのか理解できず、しばし茫然とした。
続いて、扉の向うの暗闇で火花が飛び散り、カウンターの端の壁が鈍い音をたててへこんだ。
銃声は聞こえなかった。
消音銃が発射されたのだ。
藤山が驚いて、腰を抜かしたように床に尻餅をついた。
私はとっさに身をかがめて、テーブルの陰へ飛び込んだ。藤山も慌てて私に続いてテーブルの陰に隠れた。
「早く逃げないと、今度は爆弾を撃つぞ!」
暗闇の声はそういい、へらへらと笑った。
私はいった。
「やっぱり、あんた、来てたのか。いつからそこにいたんだ」
声はそれには答えずに、いった。
「はやく逃げなさいよ」
「爆弾が爆発したら、あんたも死ぬだろう」私はいった。
「私は死ぬ覚悟ですから、お構いなく」
暗闇の声は、おどけた調子でいった。そしてやや語気を強めて怒鳴った。
「親切に逃がしてやろうっていってるんだよ。とんまな探偵と腰抜け刑事は、とっととうせろ。この役立たずどもが」
私はいった。
「確かに僕は役立たずだった。マユミをみすみす殺させ、河合も、篠原も、殺させてしまった。だから、これ以上、無意味な殺人が起るのをくいとめたいんだ」
「無意味な殺人…ですか。そうですか。あなた、何もわかっちゃいないですね」
「ああ、確かにわかってない。意味があるというのか。君はこんなことをして、何が面白いんだ。真紀子さんは、マユミの母さんは、こんなことを望んじゃいないぞ」
「そんなことはないですよ。マユミの殺人犯は河合であったと、さっき、やっとわかったところでしょうが。殺されて当然ですよ。
篠原は真紀子さんとマユミさんを捨てたんですよ。真紀子さんの仇みたいなイヤな奴ですよ。
あなたも会ってきたじゃないの、彼のイヤさ加減はよくわかったでしょ。
そしてこの宮本だ。この男が何をしたか、あなた良くご存じでしょう?」
・・・・つづく




